第7章:敢えて水と油を混ぜてみた
第148話 オリヴィア・スカイフォードはリアの町へ向かう
エンジミル王国王都王城の謁見の間。
装飾が施された重い雰囲気を
その先には赤と金の王冠を被った短く茶色い髪と黒い瞳を持つ筋骨隆々の男性が豪華な椅子に座っている。
――エンジミル王国国王「サノ・エンジミル」である。
彼は目の前で片膝をついている一人の女性に目を
彼女は燃え盛るような長く赤い髪をし体全体を覆う白いマントを羽織っている。腕を置いている脚には膝まである金属製のロングブーツが履かれており、そこからは黒いストッキングが見え隠れしていた。
サノは変わらない団長をみて心の中で苦笑しながら「面を上げよ」と彼女に命じた。
「はっ! 」
黒くキリッとした瞳がサノを見る。
「会議以来だな。オリヴィア」
「お久しぶりでございます。サノ陛下」
サノが声をかけるとオリヴィアと呼ばれた女性はハキハキと答える。
まだ半年も経っていないのだが、とサノは思いながらも彼女からすれば長く感じられたのかもしれないと思い返す。
彼女はオリヴィア・スカイフォード騎士爵。
エンジミル王国元オリヴィア騎士団団長で現在騎士爵ながら広大な領地を治める領主である。
現在オリヴィアは広い土地を治めているが、オリヴィアの領主生活は平穏からほど遠かった。
彼女が与えられた領地は未開拓地。
サノが彼女に領地を与える時に貴族間のいざこざに巻き込まれ、未開拓地に
だが彼女は一代にして開拓に成功しそこを治める領主となった。
オリヴィアの失敗を目論んでいた者達が歯ぎしりをしたのは言うまでもないだろう。
「オリヴィア騎士団の団員だった者達はオリヴィア同様今も活躍しておる」
「彼女達も陛下のお言葉で日々の努力が報われるでしょう」
オリヴィアは再度頭を下げる。
オリヴィア騎士団とはその名の通り彼女が団長を務めた女性だけの騎士団であった。
別名百合騎士団。
けれどもその実力は他に引けを取らず、解散後も団員達は重要人物や王族の護衛など重役についている。
相変わらず固いなとサノは思いながらも「さて」と区切り本題にはいった。
「オリヴィア騎士爵領のことは報告に上がっている。中々うまくやっているようではないか」
「ありがたきお言葉でございます」
「未開拓地を開拓するのみならず安定させるとは流石である。よってその
それを聞きオリヴィアは思わず頭を上げる。
「オリヴィア騎士爵」
「はっ! 」
「オリヴィア騎士爵領の更なる発展のため、元団員を引き連れオリヴィア騎士団を再編せよ。そして彼女達を引き連れリアの町の視察せよ! 同時にリアの町周辺を巡回し出没する賊を討伐を命じる! 」
こうしてエンジミル王国内で『閃剣』と恐れられたオリヴィア・スカイフォードのリアの町行きが、決定した。
★
謁見の間を出たオリヴィアは気を引き締めるために背筋をピンと伸ばすと、胸にしている金属の鎧では隠し切れないほどの胸が張る。
成人男性ほどの身長を長身を誇る彼女だけれどもその力は成人男性を
彼女を
ともあれオリヴィアはこれからのことを考える。
まず彼女がやらなければならないのは元団員の招集だ。
サノがすでに声をかけているだろうが、オリヴィア自身他の団員が今どこにいるのか完全には把握していない。
(騎士団時代ならば訓練場なのだろうが……)
いない可能性の方が高い。
何せ王族の護衛から王都の各地の治安維持など様々な任に就き、彼女の元部下達は散らばっている。
よって場所を特定しオリヴィアが向かうどころか同じ時間に集めることさえ困難であろう。
彼女の一声で集まっていた時が懐かしい。
懐かしみながらも扉の前にいる訳にはいかないと考えたオリヴィアは、赤いミニスカをはためかせて歩きだす。
が彼女を見つけて声をかける人物がいた。
「……終わりましたか」
「待たせた、エイミー」
オリヴィアに声をかけたのは青く短い髪をした背の低い女性だった。
あまり感情の乗っていない表情でオリヴィアを見る彼女は中央にフリルのついた白いシャツに青いミニスカ、黒く長いストッキングとおしゃれなロングブーツを履いている。
騎士
今はオリヴィアの隣で文官長をしている苦労人でもあった。
「先ほど王命が下されました。オリヴィア騎士団を一時的に再編しリアの町へ向かうようにと」
二人は謁見の間の前から歩き離れていく。
歩きながらエイミーはオリヴィアに状況を教える。
「恐らく他の団員にも同様の指示が下されているでしょう」
「日時と集合場所は? 」
「日時は三日後。集合場所は城門前となっています」
「わかった」
エイミーの言葉に頷くオリヴィア。
短いやり取りだがオリヴィアはエイミーの言葉を即座に
今から自分がそれぞれに招集をかけなくても良いと理解したオリヴィアは久しぶりの王城をゆっくりと歩く。
外に出て二人はその足で泊まっている宿に戻った。
三日後の城門前。
そこには大勢の女性達が集まっていた。
――オリヴィア騎士団の団員達である。
しかし騎士、という雰囲気を受けない。
どちらかというと剣を持った学生と例えた方がしっくりくるだろう。
「お久しぶりです! オリヴィア団長! 」
「皆久しぶりだな。元気していたか? 」
「はい! おかげさまで」
オリヴィアの一言で「きゃぁーーー! 」と彼女達が
オリヴィア騎士団が百合騎士団と呼ばれていたのには理由がある。
この騎士団は単に女性だけが集められた騎士団ではない。
オリヴィアのカリスマに女剣士達が引き寄せられた集まった結果出来上がった騎士団なのだ。
よって百合騎士団の異名もあながち間違いではない。
オリヴィアの求心力で成り立っていた騎士団だが、その強さはオリヴィア一強ではない。
一人一人が二つ名持ちの剣豪であり実力は折り紙付き。
解散せず騎士団として活動していれば国内一の騎士団の座も夢物語ではなかったであろう。
「総員。準備は良いか? 」
「「「はい!!! 」」」
「では、出発!!! 」
オリヴィアの一言で、乗馬したオリヴィア騎士団はリアの町に向かって出発した。
———
後書き
第七章の始まりになります!
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