第147話 不死王の宝物

 ヴォルトはエルゼリア達と別れた後、ある町を静かに歩いていた。

 けれどいつものような朗らかな雰囲気ではない。

 かといって殺気をばら撒いている様子もない。

 只々静かに歩いている。


 ――不気味である。


 表情からは何を考えているのか読み取れない。

 もし周りの者がこの老紳士を認識できたら距離を置いていただろう。


 ヴォルトはある店のまえで足を止める。

 ノブに手をかけゆっくりと開くとバーのような所に出た。

 アルコール臭い匂いが彼を襲う。

 けれども気にした様子はなく彼は隠蔽ハイドを解いた。


「……まだ店は開いていませんよ」


 厳重な鍵をかけていたにもかかわらず、いつの間にか侵入しているヴォルトに驚くことも無く、バーのマスター風の男性がヴォルトに話掛ける。

 けれどもヴォルトは何も答えず周りを見渡していた。


 マスターはヴォルトの姿に一瞬眉を顰める。

 けれども「客かもしれない」と考えグラスを数回拭いてヴォルトを観察した。


 このバーは通常普通のバーとして運営されている。

 けれども休日や特定の日、このバーの客は特殊な暗号を打ち込むことでこの店に入る事が出来る。

 それを入れ込んでヴォルトが入ってきたのだろうとマスターは考察した。

 けれども――。


「この奥ですね」

「? 」

「貴方は不要です」


 瞬間、ヴォルトのステッキから白雷が放たれてマスターは蒸発した。


 ★


「お、お前は何なんだ! 」

「なんだ、といわれましても通りすがりの不死王ですよ」


 ヴォルトが迫りくる敵を難無く倒していくと最奥の部屋に辿り着いた。

 鼻を突く高濃度の薬物の匂いやアルコールの匂いなどが彼を襲うが気にした様子はない。

 元より異常状態に対して耐性を持つ不死族。

 その王たるヴォルトにどのような薬物を用いても効果を発揮させることは出来ない。


 道を行くにつれてヴォルトは姿を本来の姿に戻した。

 これは相手に恐怖感を与えるため。

 まさか自分が相手に恐怖感を与えるために敢えて不死族の姿をとるとは、エルゼリア達と出会う前だと思いつかなかっただろう。


「これでも貴方達には感謝しているのです」

「か、かんしゃ? 」


 組織のボスらしき人物が恐怖に顔を歪ませながらヴォルトに聞き返す。


「人間というのは極限状態にならなければ成長できません。ある女の子を助けるために果敢に戦った戦士の成長、そして友の為に己の実力を超える相手と戦う勇気。いずれも彼らにはかけがえのない経験となったでしょう」

「な、なにを言って……」

「けれどね。同時に……怒っているのですよ。子を成せない不死族にとって子供というのはかけがえのない宝。我が子同然のッ、子達をッ、害されて黙っているとでもッ! 」


 怒り任せの風刃が男の腕を吹き飛ばす。

 ギャァァァァ、という汚い声が密閉した空間に響くがヴォルトは気にせず話を続ける。


「貴方に選択肢を差し上げましょう」


 ヴォルトが一歩近づくと、横たわっている男は他方の腕で肩を抑えながらヴォルトを見上げる。


「犯罪組織らしく情報を吐かずに苦痛に塗れ死ぬか、それとも仲間の情報を差し出し楽に死ぬか。さぁ選びなさい! 」


 今日その日、不死王の逆鱗に触れた巨大犯罪組織グループは一夜にして消え去った。

 このグループと関係をもっていた貴族は多く、国中が一時的に混乱するのだが別の話。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!

 第六章完結です!

 次話より第七章となりますのでよろしくお願いいたします!


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