第145話 ニフォンの町 5 スターチス・シフォン公爵

 アデル達が助けたのはシフォン公爵家の娘だった。

 予想以上の大物が出てきてちょっと驚いている。

 しかし私達に剣を向けた騎士の分も謝るとは流石公爵家の娘といった所か。恐れ入る。

 けどまぁその後騎士達に頭を地面にこすりつけた状態でずっと謝られていたが。


「もうすぐです」


 マリーがお礼を言いたいというので、賊をぐるぐる巻きにした状態で、二フォンの町にあるという別荘へ向かっている。

 賊を町の衛兵に届けた場合取り返しに来るかもしれないということで賊も同行。

 どうもこの町の戦力では逃げられる可能性があると考えたようだ。

 だが一応連絡はするとの事で町長の所へ一人、別荘へ一人、計二人が連絡用に抜けていった。


 尚ルミナスは人狼族本来の姿のまま歩いている。

 本人は獣人族の姿に戻そうとしていたのだけどマリーがそれにストップをかけた。


 ――勇猛果敢な戦士の姿を隠す必要はないと。


 その言葉を聞き私は感心し、そしてルミナスは驚き少し涙していた。

 まさかリアの町以外で受け入れてもらえると思わなかったのだろう。

 それからというもののマリーがちらちらとルミナスを見ながら進んでいる。

 これはまさかと思うが、言わない方が良いだろうね。


 それとここに来る前アデル達にしっかりとお説教をした。

 同時に果敢に戦ったことを褒めた。


 もし相手が子供だからということで手を抜かず最初から本気だったら命がなかったかもしれない。蛮勇ばんゆうではあるが行動自体は英雄的である。

 もしやるのならばもっと実力をつけてからにして欲しかったが状況がそうさせなかったのはわかるのだけれどね。

 心配するこっちの身になってほしい物である。

 私が戦闘を見ていたのは秘密だ。

 しゅんと体を小さくしているがもっと他にやりようがあったはず。大いに反省して欲しい。


「……もしかして竜の巫女の方々ですか? 」

「何でそれを? 」

「いえこの前食事をお邪魔したことがありまして」


 はて。私は料理に集中していたからわからないな。

 子供達に目を移し「知っているか? 」と聞いたらアデルが大きな声を上げて「あの時の! 」といった。

 本当に来ていたようだ。


「フレッシュサラダにレッドブルのステーキ。そして蜂蜜のパン、美味しくいただきました」

「それは何よりだ」

「エルゼリアさんはどこかの王城で働いていたのですか? 」

「エルゼリアは色んな国の王城から食堂まで、本当に手あたり次第に働いていたのである」

「食文化が私を呼んでそれに応じているだけだよ」

「それを手あたり次第というのである」


 ソウがため息交じりに言う。

 失礼な。新たな食文化ある所に私あり、だ。

 様々な食文化を集め再現する。

 至高なる趣味と言えよう。


「着きました」


 ソウと話していると着いたようだ。

 足を止めるとそこには門番が二人いた。

 マリーが門番に話をすると一人が中に入っていく。

 少々お待ちくださいとのことだったので、暇つぶしにでも遠くにある館を見た。


「すげぇ」

「庭が広いですね」

「森みたい」

「誰か来たみたいですね」


 ルミナスが言った少し後、玄関が開き、騎士達が整列する。

 そして――。


「「「お帰りなさいませ。マリーゴールド様」」」

「皆さんご迷惑をおかけしました」


 というと彼女は館の方へ足を向ける。

 整列している人達の前に位置取り私達の方を向く。


「「「いらっしゃいませ。シフォン公爵家へようこそ」」」


 子供達がその様子をぽかーんとした表情で見ているのを笑いを堪えながら代表で挨拶。

 出来れば大袈裟にしてほしくないね。

 そう思いながらも私達はシフォン公爵家の別荘へ足を踏み入れた。


 ★


「おお、マリー。無事だったか」

「お父様! 」

「心配したのですからねマリー。しかし無事で何よりです」

「申し訳ありません」


 館に入るとマリーが両親に飛びついた。

 微笑ましい一幕ではあるが出来れば早く帰りたいの一言である。

 ザ・貴族の館、という雰囲気はどうしても苦手なのだ。


「君達がマリーを助けてくれた恩人だね。一族を代表してお礼を言おう。ありがとう」


 公爵本人とらしき人物が何のためらいもなく頭を下げた。

 貴族なのに腰が低い。

 貴族としてどうかはさておき好印象。

 お気遣いなく、というと頭を上げて柔らかい声で自己紹介をする。


「遅れて申し訳ない。私はマリーの父でシフォン公爵家当主、スターチス・シフォンという。これからもよろしく頼むよ」

「私はマリーの母でペチュニア・シフォンと言います。この度はマリーを助けてくれてありがとうございました。心よりお礼を」


 人の良さそうな印象を受ける。

 私達もそれぞれ自己紹介をすることに。

 高位貴族というのがピンとこないのかアデル達は他の人と同じように自己紹介をする。

 自己紹介も済んだということで私達は別室へ案内された。


 ★


 自己紹介をした時の大胆さはどこへやら。

 アデル達が館の中を歩く時はかなりたどたどしかった。

 恐らくだけど館の雰囲気に飲まれたのだろうね。


 ともあれ私達は部屋に入りふかふかのソファーに座り、正面に公爵達が腰を降ろした。

 因みにルミナスの正面にはマリーがいる。

 意図してなのかはわからないけど彼女の積極性が見え隠れする一面だ。


「さて何から話したらいいのか」

「まずは報酬の話をしたら如何でしょう? マリーを助けた小さな英雄達に無報酬というのは如何なものかと思いますので」

「確かにだね」


 ペチュニアが言うとスターチスが少し考える。

 内容が決まったのかゆっくりと口を開いた。


「通常……貴族や貴族の子を助けた場合に与えられる報酬というのは多額になる。失礼だが彼らの保護者はエルゼリア殿になるので? 」

「こっちの人族のアデル、エルフ族のジフ、熊獣人のロデは私が代理という形になっている。ルミナスは友人の親戚だが、私が保護者としては来ていない。ここにいない犬獣人の商人コルナットという者が保護者として来ている」

「なるほど。爵位はともかく子供達に多額の報酬を与えるとなるとどのようなトラブルが起こるか容易に想像ができる。そのまま額面にして与えて良い物か悩んだのだが……、エルゼリア殿に判断を一任しても良いかな? 」

「子供達によるな。どうする? 」


 隣に座る子供達に聞くとすぐに「大丈夫です」「むしろお願いします」と返って来た。

 まぁそうなるよな。

 大金を渡されるのは簡単に想像ができる。

 普通の貴族ならば大金を渡してその後は知らないふりをするのだけれど、この人は少し違うようだ。


 お金の話を少しした。

 やはりというべきか一人頭白金貨にして数十枚というとんでも額になったので金貨にして十枚程度に抑えてもらった。

 白金貨を子供が持っていたら知らない所で襲われるのが目に見えているからね。


 けれど金貨十枚でも大金。

 なので今後に備えて彼らの両親に渡して貯蓄にしてもらおうという話になった。


「そして娘を助けてくれた君達に騎士の称号、つまり騎士爵を与えたいと考えている」


 それを聞き首を傾げる四人。

 子供達は知らなかったか。

 ヴォルトを見ると頷いて子供達に優しく説明を始めた。

 説明を全部聞き、四人とも私の方を見る。

 どうしたらいいのかわからないのだろうね。


「受けたいのなら受ければ良いと思うよ。断る権利も、あるんだろ? 」

「その通りで。まぁ個人としては受けていただきたいですがね」


 苦笑交じりにスターチスが言う。

 恐らくだけどこの人は爵位授与を断っても何もしてこない。

 断られた腹いせに何か妨害をしてくる貴族は多いがそのような雰囲気は受けない。


「オレは……、受けない。まだ将来が決まってないから」

「爵位を得てもコックにはなれるぞ? 」

「……受けない。今日助けれたのは偶々だし」


 と今日あったことを懺悔するかのようにアデルが話した。

 ルミナスが出なかったら自分達は身の安全を最優先にして逃げていたことを。

 途切れ途切れに言うが公爵達も時々頷きながら真摯しんしに聞いている。

 話を終えるとスターチスが優しい声で子供達に声をかける。


「君達の行動は常識的だと思うよ。いやもしかしたら普通の人なら逃げるという選択肢すら思いつかないだろうね。自分達の力量と状況を正確に把握して行動に出る。これが出来る者は少ない。増々君達を騎士として迎え入れたくなった」

「けどオレは受けない! 」

「だろうね。自分達の力量を知っているからこそ、身のたけに合わない身分は必要ないといった所か。この子達を指導しているのはエルゼリア殿で? 」

「いや私は単なる雇用主だ。あぁ~、そこの女の子、アデルは弟子だが。で戦闘や魔法はそっちのヴォルト、あとリアの町に残っているライナーがやってるな。状況判断については彼女達が置かれていた環境がそうさせたんだろうね」

「リアの町……。それで」


 とスターチスが人狼姿のルミナスを見る。

 ルミナスはいきなり視線を浴びて体を縮こませてしまった。


「貴方。怖がらせてどうするのですか」

「悪い悪い。しかし話しに聞いていた通りだなと」

「話し? 」

「様々な人種が集う町だってね。是非私も一度行ってみたいと思ったいた所だよ」

「貴方。少なくとも今年は無理ですよ。政務が残っているのですから」

「……わかっているとも。で話しを戻すけれど君達は爵位を受けないということでよかったのかな? 」

「「「はい!!! 」」」

「私としては残念だが、あい分かった。しかし君達が困った時、私を訪ねてくれ。力になる事を約束しよう」


 頼もしい顔でスターチスが告げてベルを鳴らす。

 そして少しばかしのお茶会が始まった。

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