第143話 ニフォンの町 4 ルミナスの勇気 1

 買い物を終えたアデル達は町をぶらぶらしていた。


「まだ時間あるな」

「そうですね」

「やっぱ籠手ガントレットがなかったのが悔しいな」

「俺は安心しましたが」

「そこは一緒に悔しがるところじゃないのか? 言い出したのそっちだし」

「冗談を真に受けないでください」


 ジフが溜息をついて肩を落とす。アデルも本気で悔しがっている様子はない。

 恐らく彼女の中では「あったらいいな」程度だったのかもしれない。


「オレだけなにも買ってねぇな」

「無理に買う必要はないのでしょうか? 」

「ないだろうけど……、やっぱ何か記念になる物が欲しいな」

「記念、ですか」

「そうそう。こう……初めて町に行ったぞ、っていう」


 ルミナスの疑問にアデルが答える。

 男の子っぽいアデルだが女の子っぽい所もある。

 けれどアデルはロデ達に「女の子っぽい」と思われるのを嫌がっている節がある。

 ロデやジフはつい最近まで彼女と「男の子」として接していた。

 それがあってか今も二人と「男友達」のような感じで接している。


 だがアデルも女の子。

 着飾りたいし、可愛い物を集めたい。

 買いに行きたいがこのメンバーで行くのは躊躇われる。

 女の子っぽい所をみせると意識させてしまうのではないかと考えたからだ。


 アデルは元気いっぱいで自由奔放なイメージだ。

 実際イメージ通りであるが決して頭が悪いとか空気が読めないということはない。

 周りの空気には人一倍敏感で引くときには引くのか彼女。

 よって成長に伴って趣味嗜好が変わったことを男友達に悟られて接し方をかえられるのは不本意だった。特にジフに関しては一歩引かれると困る訳で。


「そうだ。探検に行こうぜ」

「「「探検? 」」」

「色んなものがある場所だろ? 店を見に行くだけじゃなくて思い出になるような場所でも見つけようぜ」


 アデルがいつもと同じようにいい、周りは顔を見合わせて興味深そうに頷く。

 そして彼女達は駆け足で町の探検に向かった。


 ★


「こういう場所に面白そうなことがあるんだよなぁ」


 そう言うのはアデルであった。

 彼女達が歩いているのは暗い路地裏だ。

 けれども浮浪者のような人がいる気配はない。

 それが彼女達の警戒心を緩めていた。


 アデル達は少し入り組んだ道を行く。

 知らない土地の知らない道を行くことに心躍らせながら、どこか面白い所に出る道がないかと探していた。


「だ、大丈夫でしょうか」


 ルミナスが心配そうに三人に聞く。

 けれども「大丈夫」と返事をするだけで警戒した様子はない。

 というのもアデル達は治安の悪い場所で育った子供達だ。

 このくらいは警戒に値しない。


 逆にルミナスは、多くの仲間に囲まれて育った子供。

 人化を覚えるまでは人狼族の友達しかいなかったとはいえ治安の悪い所を歩いた経験がない。

 それが余計に彼を不安にさせていた。


 (なんか……、嫌な予感がする)


 ただならぬものをルミナスは感じ取っていた。

 それは人狼族の種族特性といっても過言ではないほどの鋭敏な感知能力。

 けれどもルミナスは未熟でその力を十全に使うことはできていない。

 よって「予感」といった得体の知れないなにかという形で感じている。


「ん? 」


 アデルが止まる。

 とすぐに壁際に体を寄せて気配を消す。

 気配を消すことも得意なルミナスも驚くほどの気配の消し方であった。

 ルミナスが驚いている間に他の二人もアデルの真似をする。

 遅れてルミナスも身を潜めてアデル達とそっと壁の向う側を覗くのであった。


「いやっ! 離して! 」

「くそ、抵抗しやがってっ! 」

「大人しくしろ! 少し痛めつけてやろうか」

「馬鹿野郎……。依頼主にどやされるぞ? 」


 アデル達が見ると腰に短剣をもった男達が長い金髪の女の子を捕まえようとしていた。

 その瞬間アデル達の頭が沸騰しそうになる。

 がそれも束の間、ルミナス以外は、冷静さを取り戻して小声で相談する。


「逃げる? 」

「放置するのが一番でしょう」

「首を突っ込むほどではない」

「み、皆さん?! 」


 驚くルミナスに三人は諭すように言う。


「ルミが言いたいことは分かる。けどよ。明らかにオレ達じゃ無理だ」

「人族ですが男が二人で、腰に短剣を持っています。逆に俺達は何も持たない子供が四人。数の上で勝っていても負けるのは分かり切っていますよ」

「危ない橋は渡らないに越したことは無い」


 アデル達は長い間貧困にあえいでいた。

 もちろんその間に危険なこともよくあった。

 なので危機に遭遇した場合どうやってすぐに身の安全を確保するのかが身に染みている。


 逆にルミナスは、ウルフィード氏族の過保護ともいえる環境の下で育ったため、今起こっている事に対して正常な判断が出来ない。

 助けなければならないと義憤に駆られるも、兄貴分達の言葉を理解して歯を食いしばる。


つらいのはわかるよ」

「けど今は自分達の身の安全が一番です」

「もう、自分達だけの体じゃない」

「オレ達は竜の巫女で働いている」

「もしここで死んだら父さんだけでなくエルゼリアさん達にも迷惑をかけます」

「我慢すべき。逃げるべき」


 気配を消して逃げる算段をするアデル達。

 

 ――ルミナスもが最善であることは分かっている。

 

 けれどルミナスはそれを受け入れることが出来なかった。


「ごめんなさい! 」


 そう言いルミナスは男達の所へ駆け出した。


「何をしている!!! 」


 ★


「お待ちください! 」

「……手を離せヴォルト」

「離しません。ここは一旦様子を見ましょう」


 隠れてアデル達の様子を見ていたエルゼリア達だが、ルミナスに続いてアデル達が出て行った時、殲滅しようと飛び出そうとしていた。

 だがそれをヴォルトが止める。


「まだワタクシ達の出番ではありません」

「子供達に何かあってからでは済まされないぞ? 」

「分かっています。お叱りは後で受けます。しかしここはひとつ、ワタクシに免じて、お待ちを」


 エルゼリアが殺気を込めた目でヴォルトを睨むが、動く様子がない。

 がヴォルトも乗り気ではないのか、言葉が途切れ途切れである。

 その様子を見てエルゼリアは軽く舌打ちを打ち子供達の様子を見ることにする。

 エルゼリアは見ながらヴォルトに言った。


「もし不味そうだったらすぐに介入するからな」

「承知致しました」


 そしてヴォルトも子供達の戦いに目をやった。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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