第141話 ニフォンの町 3 自由時間 1

 自由時間が割り振られた。

 これはエルゼリアからのご褒美のようなもので、町の中を自由に探索しても良いとのこと。

 時間は夕方まで。

 アデル達はお小遣いも貰いどこへ行こうか歩きながら考えていた。


「食いもんはあるし」

「お土産でも買いに行きますか? 」

「それは良いかも」

「なら何を買いに行きますか? 」


 ジフの提案に全員が頷く。

 けれどルミナスの言葉で「ん~」と皆考え込んでしまった。


 アデル達は当然ながらこの町に来るのは初めてだ。

 この前商業ギルドや店が固まっている場所を確認したが具体的に何があるのかわからない。

 今まで食べるに困った生活をしていたアデル達だがそれも今になって解消した。

 けれどその時の影響か、お土産に何を買ったらいいのかさっぱりわからなかったのだ。


「服……かな? 」

「お、ロデは彼女にでも買うのか? 」

「い、いや……」

「からかってあげないでくださいよ。アデル。良いじゃないですか服」

「しかしこのハイセンスな服を選ぶとなると、少し躊躇いますね」


 ルミナスがぐるりと周りを見ながらそう呟いた。


 この町の服のセンスは少しずれている。

 シフォン公爵領から流れて来る服や生地を使い日常の服としているのだが、そのセンスは個人にゆだねられる。


 この町には器用な人が多い。

 加えて様々な種族の人達が存在している。

 それらが相乗効果を発揮して買ってきた服を自分で改良した結果がこれだ。

 なのでシフォン公爵領内はまだまともである。


「というよりも貰ったお金で服を買えるのか? 」

「「「あ、確かに」」」


 アデルの指摘に全員が気付く。

 エルゼリアが服をポンポンと買っているため気付かないが服は高価である。

 それにシフォン公爵領からの衣服となると値段は高くなり普通の子供は買えない。

 けれどエルゼリアは事前に確認して一人一着を余裕で買えるほどのお金は渡してある。

 よってアデルが心配する程ではない。


 アデル達はこれまで竜の巫女で働いている。

 その中でお金を取り扱うことも多々あった。

 よってお金の計算は問題なく出来、その価値も知っている。

 知っているがゆえに買えるのかわからないでいた。

 そこで狼獣人状態をとっているルミナスが口を開く。


「多分ですが……大丈夫だと思います」

「そうなのか? 」

「今日衣服店に挨拶に行った時大体の値段を聞きましたので、貴族様用の高い物でなければ買えると思います」

「へぇ……。ならよかったじゃないか。ロデ」

「う、うん」


 ロデが少し赤くなり俯く。

 それを微笑ましく見ながらもアデル達は前を向く。


「ロデは決まったとして、どうすっかなぁ」

「アデルの調理器具は買ってもらいましたし、アデルはお土産ではなく自分用に戦闘用の籠手ガントレットでも買ったらどうでしょうか? 」

「ほぉ~」

「良くお似合いだと思いますよ。拳で戦う料理人、ってね」

「ジフ。余程殴られたいみたいだな」

「ぼ、暴力は反対です! 時に拳で語り合わないといけない客がいるとエルゼリアさんが言っていたじゃないですか」

「確かにそうだけど、今さっきのは意味が違うよな? 」

「そんなことはありません! なので拳を降ろしてください! 最近のアデルの拳は洒落になっていないのですか……らぁっ! 」


 ゴン!!!


 と大きな音を立ててジフが地面にめり込んだ。


 レストラン「竜の巫女」にやって来る客は騒がしい。

 酒が入り時に騒ぎすぎて殴り合いに発展することがある。

 それを抑えるためにエルゼリアは物理で語り合ったり魔法で水をぶっかけて頭を冷やさせているのだが、地面と友達になったジフは最近エルゼリアに似て来たと心の中で思うのであった。


 アデルは前から活発な子である。

 お腹が空いているというのにあちこちを走り回るほどに。

 ここにいる四人は最近ヴォルトやライナーの講習もあってか魔力操作による身体強化を覚えることができた。

 がこの中で拳を硬化させる硬化ハードニングを覚えたのはアデルだけ。

 流石にジフ相手に硬化ハードニングをかけた拳を振るわないが、無自覚に強化された身体から放たれる拳はジフに多大なダメージを与えてる。


「アデルの凶暴さには敵いませんね。やはりアデルには籠手ガントレットがお似合いです」


 痛む頭を振りながらジフが立ち上がった。

 地面が陥没するレベルの一撃を喰らったというのに何でもないように立ちあがる事が出来るのは、拳が放たれて瞬間魔力障壁を張ったためである。


「もう一発行っとくか? 」

「やめておきますよ。喧嘩をして無駄な時間を過ごしたくありませんし」

「そっちから吹っかけて来たんじゃねぇか」

「過剰に反応しすぎなのですよ。しかしこれでは俺の怪我が絶えません。俺は何か傷薬でも買いに行きましょうか」

「よし。すぐに使わせてやる」


 ジフが立ち上がったかと思うとすぐに口論を始める二人。

 それを不思議そうにルミナスが見ていた。


 (仲が良いなぁ)


 二人が聞いたら顔を赤くして否定するだろう。

 けれど何も知らない人がみると夫婦喧嘩の子供バージョンのようなもののように見える。

 ルミナスが温かく見守っていると二人は疲れたように息を大きく吐いてルミナスに向いた。


「ルミは何か買いたいものはあるのか? 」

「お店の事はルミの方が知っているようですし、お土産に限らず欲しい物はないですか? 」


 言われて「ん~」と考える。

 ルミナスの頭の中に幾つか商品が浮かぶ。

 どれもこの町にきてコルナットと回った店で見たものだ。


 ルミナスはこの短い旅に出る時、母にきつい言葉で来ないように言ったことを少し後悔していた。

 だから母へのお土産と、実用的なものを幾つか買いたいと考える。

 ルミナスが考えている時、彼の耳はピコピコと動いていた。

 そして考えが纏まったのか耳をピンと立てて口を開いた。


「そうですね。まず……手紙を何枚か買えたらと思います」

「「「手紙??? 」」」

「今回、知り合った方々と定期的に連絡をとれたらと思うので」


 ルミナスのあまりに真面目過ぎる答えに三人が少し呆れ微笑む。


「ま。真面目な所はルミの良い所でもあるな」

「アデルと同意見なのが気になりますが、同じくですね。定期的に連絡を取っているとなにか良い事があるかもしれません」

「なら、行こう」

「はい! 」


 自分達よりもしっかり者の弟分おとうとぶんを連れて三人は町を歩く。

 そして店が立ち並ぶ区域へと足を踏み入れた。

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