第140話 ニフォンの町 2 出張レストラン「竜の巫女」
翌日アデル達を連れて指定された場所へ向かう。
コルナットとルミナス、そして冒険者パーティーは別行動だ。
テレサ達が私の料理を食べれないとわかった時の絶望した表情は強烈だったな。
嬉しくは思うけれど仕事は仕事。
次何か作る時にでも美味しい物を食べさせてあげようと思う。
「あちらのようですね」
「あれは商業ギルドの受付嬢さん? 」
「なんで俺達が店を出す所に立っているんでしょう? 」
「周りも」
ロデに言われて周りを見るとそれぞれ同じ制服を着た受付嬢が立っていた。
不思議に思いながらも自分達の所へ向かい話しかける。
「竜の巫女のエルゼリアだが……」
「お待ちしておりました。昨日お渡ししたチケットを拝見させていただいてもよろしいでしょうか? 」
「これか? 」
渡すと確認したようで何やらチェック表のような物を出して書き込んでいる。
渡したチケットとチェック表を仕舞い込むと「では昼過ぎまでのご利用となりますのでよろしくお願いします」と頭を下げて、商業ギルドの方へ向かって行った。
「どうやら他の人も集まって来たみたいですね」
「皆同じようなことしてるぞ? 」
「他の町とはまた違う仕組みですね」
「新しい」
これには私も少し驚いた。
けれど周りは慣れているようですんなりと終えて支度をしている。
おっといけない。私達もやらないとな。
「ソウ。頼む」
「任されたのである! 」
ソウに店や机、椅子にパラソルにと出してもらい設置していく。
一瞬周りがざわついたけど気にしたら負けだ。
ソウの異空間収納は本来使えない伝説級の魔法。
オリジナルでヴォルトが作っているがあれは例外に等しいわけで。
何もない所からいきなり荷物が現れたら驚くよなと思いながらもせっせと配置していく。
「ねぇちゃん、すげぇな」
「お前さんが噂の「竜の巫女」のエルゼリアってもんかい? 」
「あぁそうだよ。今日はよろしく」
それぞれ準備が終わった頃、他の店の店主が二人声をかけてくる。
それぞれ挨拶をしてどんな店をやっているのか聞いてみることに。
「なんてない普通のパン屋だよ」
「かぁ~、エルゼリアと一緒のタイミングで出しちまうとはしくじったな」
「これは客を全部取られるかもしれないな」
「俺達が客になるかもな」
ハハハ、と笑いながら大袈裟なことを言う。
聞くと彼らは工房を持っているが場所が遠く店をもっていないようだ。
だから町の中心まで来て時々ここら辺で出店を行っているらしい。
ならちょっと聞いてみるか。
「いつも商業ギルドの職員はチケットで出店を管理しているのか? 」
「いやいつもというわけじゃないな」
「時々あるが、今日ほど厳重じゃねぇな」
「厳重じゃない? 」
「あぁ確認したらそのままギルドに帰るし」
「帳簿をつけるようなことはあまり見ないな」
「それなら心当たりがあるぜ? 」
話していると他の店主がやって来た。
体の大きな熊獣人だ。
「なんでも高貴なお方ってのがくるらしい」
「「「高貴なお方??? 」」」
熊獣人の店主が言うと私達は首を傾げる。
「視察なのか、単に旅行なのか知らないがそれに合わせたパフォーマンスじゃないか? 」
「自分達はきちんとやってますってか? 」
「それなら有り得るな」
ギルドとしてのパフォーマンス。
確かにあり得る。
問題は誰が来るのかなのだろうけれど――。
「ま、そんな小手先のパフォーマンスなんざ通用しないわな」
「普段真面目にやってるんだから気にしなくても良いと思うけどな」
「やると逆に「自分達が何かやましい事をしてる」っていってるもんだ」
「いつも通りが一番だよ。いつも通りが」
確かにと思いながらも軽く雑談を交わす。
適度に交流した後自分達の店に戻った。
★
ニフォンの町の中心にある市場。
その中でも一際繁盛している店があった。
――竜の巫女である。
広いキッチンスペースの前には白い机が並べられている。だが無造作に配置しているのではなく、また割り振られた場所いっぱいに机を広げているのではない。適度に間隔を開けて人が通りやすように配慮されていた。
「あの店が竜の巫女、ですか」
一人の少女が呟いた。
この国では珍しい金髪碧眼の少女で背は低く薄い緑を基調としたワンピースを着ており、気品あふれる雰囲気を出している。
彼女の呟きが聞こえたのか斜め後ろに控える初老のスーツを着た男性が困った顔でたしなめた。
「お嬢様。何も今日でなくても」
「いえ今日でなければ噂の竜の巫女とやらの料理を食べる事が出来ません。逃すわけには」
「しかし旦那様にどう申し開きをすれば」
「お父様は今日もお仕事でしょう? 少しくらい羽を伸ばしたいわ」
それを聞き初老の男性は複雑な顔をする。
男性の役割はあくまでこの少女の補助である。主人の娘の意向を無視するわけにはいかない。
けれど、いくら町人に扮した服とはいえ、毒見すらいない料理を食べさせるのは如何なものかと考える。
考えに考え抜いたのか、軽く息を吐き少女に了解を告げる。
すると初老の男性にぱぁっと明るい笑顔を見せてスキップするような足取りで竜の巫女へ向かった。
「美味しそうな匂い。それに同じ年代の子達も働いていますね」
「大体八歳頃から店の手伝を行うのが一般的でございます」
「今の私と同じ頃から……」
働いているアデル達を見て少女は思う所があったようで、少し俯きかげんでぼそりと呟いた。
その様子をみて男性は「お嬢様には学業というお仕事がありますので」とフォローを入れた。
けれど顔を上げる様子がない。
どうしようかと考えていると元気のいい声が響いた。
「こちらフレッシュサラダにレッドブルのステーキ。蜂蜜パンにオニオンスープだ! いっぱい食えよな!!! 」
沈んでいた所に元気な声で引き上げられるように顔を上げると、そこには満面の笑みを浮かべたアデルの顔があった。
生き生きとした表情に少しぼーっとしているとステーキの良い匂いが彼女の鼻腔をくすぐった。
「美味しそうな匂い……」
「匂いだけじゃないぞ! 美味いんだからな! 」
「アデル何をしているのですか! 次の注文を運んでください! 」
「わかってるってジフ! じゃぁな! 」
と言いアデルは手を振り次の注文を運びに行った。
その様子を見ていると付き添いの男性に声をかけられる。
促されるようにナイフとフォークで上品にステーキを切りわけ口に入れた。
「これはっ! 」
「どうなさいましたか?! お嬢様!!! 」
心配する男性に気を止めずゆっくりと口の中でステーキを味わった。
「こってりとしつつも、上品な味です。口の中で肉汁が弾けますがそれも一瞬。しかしまた噛むと肉汁が弾け……、ふふ、面白いステーキですね。レッドブルの荒々しさを感じさせない、そう、まるで見事に調教された肉のようで一種の芸術性を感じます」
「そ、そこまで……」
「王族のパーティーですらこれほどに美味しいステーキを食べたことがありません。竜の巫女の店主さまは一体何者なのでしょうか? 」
分かりかねますが、と言いながら男性は調理をしているエルゼリアを見る。
主人の娘の言葉にエルゼリアの事を少し警戒しつつも初老の男性はパンをサクッと口に入れた。
「……確かにこれは美味しいですねぇ」
———
後書き
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