第139話 ニフォンの町 1 到着

 カブの町を出て幾つかの町を通過した。

 ソウの異空間収納に入っている食料を気にしながらも出張レストランを開いて次の町へ。

 それを繰り返し最終目的地であるニフォンの町という所に着いた。


「す、すごいな」

「皆色とりどりですね」

「ここロイモンド伯爵領内なんだよな? 」

「同じ領内とは思えないですねぇ」


 ヴォルトの言う通りだ。

 馬車を置き町を歩くと私達を待っていたのは色とりどりの人達だった。

 色んな種族がいるという意味ではない。

 服装が鮮やかなんだ。


「エルゼリアさん達のように始めて来た人達は皆さん驚かれますよ」


 コルナットが言うにはこの光景を見て驚くのは私達だけではないみたいだ。

 少し安堵しながらも周りを見る。

 同じ服装の人がいないのではなのかというくらいに歩いている人は色んな服を着ている。

 貴族のようなスーツを着ている人もいれば、普通の町民の服を着ている人もいれば。

 一番驚いたのは赤一色で歩いている人がいたことだろう。

 けど、あれ?


「思えばエルフ族って緑一色だよな? だったら気にするほどでもない? 」

「人や種族にはイメージカラーというものがあります。確かにエルフ族の方々は緑の服で統一されることはありますが、イメージに合っています。けれどそれを人族がやるとどうなるか」

「完全に浮くな」

「その通り。よってこの光景は……」

「少し周りから浮いている、と」


 言うとコルナットが苦笑いを浮かべた。

 その反応だけでもこの町のファッション感覚が他の町の人達と少し違っているのがわかる。

 しかしなんでまたこの町はこんなにも濃いんだ?


「すぐ隣にシフォン公爵領がありますので」

「確か服飾に力を入れている領地だったか? 」

「えぇ。聞くに他にも色々と実験的なことをしているらしく……」


 コルナットの話を纏めるとこうだ。


 シフォン公爵領というのは服飾のようなファッション系とその生地を作る生産系の両輪で成り立っているらしい。

 元を辿ればかいこの飼育に成功したのがきっかけのようで、様々な研究開発をした結果その後もダンジョンを用いたアラクネの糸の安定供給方法を確立させたり、綿ワタを見つけたみたい。

 耳を疑うような領地だが現実問題としてあるのだから仕方ない。

 ともあれ服飾の素材となる物は山ほどあるようだ。


 これらを売るだけでもかなりの利益になるのだが彼らの興味は尽きなかったと。

 自分達で一時代を築き上げると意気込んだ当代のシフォン公爵が、様々な所から服飾関係の技術者を呼んでこうして発展させたとのこと。

 そしてその影響はシフォン公爵領にとどまらず、こうして隣の二フォンの町にも及ぼした。


「となると隣のシフォン公爵領がどんな魔境になっているのかとても気になるな」

「案外まともな可能性もありますよ? 」

「だと良いんだが」


 苦笑いをしつつヴォルトに答える。

 隣というだけでこの状況だ。

 この町の人達のファッションセンスに口を出すわけでもないが、染まらないように気をつけないとな。

 けど幾つかお土産に服を買っていくのもいいかもしれない。

 テラー当たりが喜びそうだ。


「宿もとったことだし役場へ行くか」

「エルゼリアさん。実はここの出店許可は役場ではなく商業ギルドになります」

「え、そうなの? 」

「ええ。何度かこの町に来ておりますが確かそうだったと。この町、というよりもシフォン公爵領付近の町には商業ギルドがある町が比較的多いみたいで」


 思う所があるのか少し苦い顔をしながらコルナットが言う。

 商業ギルドがあるということは、経済封鎖の時に他の町よりも食料があったはず。

 だからコルナットは苦い顔をしているのか。


「因みにシフォン公爵ってどっちの派閥? 」

「王族派閥のようですね」


 なら尚更か。

 コルナットや、同じ領内の他の町の人達の事を思うとシフォン公爵領周辺の町を快く思わないのは分かるがこればかりは仕方がない。

 文句を言う相手が違う。

 経済封鎖をした奴が悪いのだ。

 私個人としては食糧難に陥る人が少しでも少なくてよかったと思っておこう。

 口にはしないが。


 同時にこの町がなんでこんなにもカラフルなのか分かった気がする。

 そこまで食料に困らなかったから余裕があったのか。


 リアの町はガラス細工を主産業としていたらしい。

 今はそれを取り戻す段階で復興しているのだけれど、食べるに困らなくなったからこその芸当だ。

 一度廃れたといった雰囲気がないことからも隣のシフォン公爵領からの援助があったのかもしれないと思う訳で。

 隣にどんな領地があるのかで同じ領地でも劇的に環境がかわることを再認させられる。


「さ。話はおいておいて商業ギルドへ向かいましょう」


 少し考えすぎたようだ。


 コルナットに連れられて町を歩く。

 色とりどりの人達を見つつ足を進めるが、色々な種族の人達が見える。

 種族差別が禁止されているのはこのロイモンド伯爵領内だけ。

 けれどこれだけ隣の領地の影響を受けるのなら、その気質も影響されると思う。

 もし隣のシフォン公爵領が種族差別を積極的に行っていたらそれがこの町にも影響を及ぼすはず。けれどその様子が見られない。

 ということは、もしかしてシフォン公爵領でも禁止されているのかな?

 そう思わされるほどに色んな種族と通りすがった。

 

 服の種類は豊富だ。

 けれど建物の様子は一般的で煉瓦レンガ造りの建物が多い。

 時々違う色の建物も見えるけど、ほんの僅か。

 取り立てて変というわけでは無い。

 ……建物は。


「つきました」


 コルナットが立ち止まり私達も足を止める。

 前に大きな白い建物が立っていた。

 大きさは大体リア町長の館くらい。

 一町長の館を誇る大きさをもつ商業ギルド館が大きいのか、それとも潤沢な資金を持つ商業ギルドの建物と同じくらい大きなリア町長の館が大きいのか。


「では行きましょう」


 考えていると多くの人が行きかう中、コルナットが再度足を進め始めた。

 おっと、と遅れないように彼について行く。子供達もはぐれないように注意が必要だ。

 ヴォルトはコツンコツンとステッキを鳴らしながら歩き、テレサ達は慣れた様子で私達を囲むように位置をとって、私達はギルド館へ入る。


 中は広く清潔だ。

 何か商品でも売っているのかと思ったけれど商品棚はない。

 その代わりに多くの受付嬢が立っており、コルナットが入ると要件を聞く。


「出店の許可についてですね。畏まりました。あちらで許可書を発行してください」


 言われるがままに受付に向かう。

 長蛇の列、という程ではないけれど少し時間が必要そうだ。

 子供達にとっては待ち時間は退屈かもしれない。

 そう思い彼らを見るが目を輝かせて周りを見ていた。

 私の心配は杞憂きゆうだったらしい。


 微笑ましく見ながらも、はぐれたらいけないのでテレサ達に子供達を見張っておいてもらう。

 少しすると私の順番がやって来たので用件を伝えて場所を確保。


 竜の巫女と言った時、僅かに職員の動きが止まったのはきっと気のせいだろうね。

 こんな遠くまで私の話が伝わっているはずがない……、と思いたい。


 ともあれ出店する場所を確保した私は商業ギルドの建物を出る。

 そして明日の出店に備えるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る