第137話 カブの町 1 到着

 カタコトと馬車が揺れる。

 馬車の窓からは、——この道はそれなりに往来があるのか、歩いている人達が見える。


「エルゼリアさん! カブの町ってどんな場所でしょうね! 」


 元気よく聞いてくるラビに「流石に行ってみないとわからないよ」と答えて正面を見た。

 今向かっているカブの町というのは、リアの町を中心にすると、レアの町とは反対方向にある町だ。

 そこを通過しつつ私は出張レストランをするのが今回の目的。

 コルナットとルミナスは商品を売る以外にも目的があるみたいだけど何をするつもりなんだろうね。


 今、ソウやヴォルトを始めとした竜の巫女のグループはこの馬車で移動している。

 ルミナスやコルナットといった商人グループは前を走る馬車で移動だ。

 コルナットはテレサ達を護衛として雇っているので彼女達は自然と商人グループに所狭ところせましと入っている。

 流石に馬車一つで三グループ乗せるのは無理があった。

 なのでグループを二つに分けているということだ。

 まぁ二つのグループを一つにまとめるのも無理があるが。


「ほほ。ラビ殿。気になる気持ちは分かりますが町は逃げません。ゆっくりと行きましょう」


 そう言うのは老紳士姿のヴォルトであった。微笑む姿は孫を思うお爺ちゃんのようだ。

 流石に骸骨状態のまま外の町に出る訳にはいかない。

 リアの町周辺の町だとパン職人の不死族がいるということが通っているから大丈夫なのだけど、今回は遠出。

 聞くに、前言っていたシフォン公爵領の近くの町まで行くらしい。


「どんな所だろうな! 」

「兎幻獣人国みたいな感じでしょうか? 」

「色んな人がいるかも」


 子供達も遠出ということでウキウキしているみたいだ。

 アデルは満面の笑みで想像している。ジフはクールに、しかし口元を緩め今まで行ったことのある場所から推察している。いつもマイペースなロデですら声のトーンが高いのだから、彼らにとって見知らぬ土地に行くというのがどれだけの大冒険なのかよくわかる。

 子供達の様子を微笑ましそうに見るヴォルトを観察しながら、私の膝の上でぐっすりと寝ているソウを軽く撫で、到着を待った。


 ★


「中間報告確認しました」


 テレサ達が冒険者ギルドで護衛依頼の中間報告を終える。

 依頼主であるコルナットが尻尾をゆさゆさと振りながらルミナスを傍に置いて受付嬢と話している様子は目新しい。

 いつもはあの場所に私がいるんだよな。

 思うとアデルを隣にしている時は私もあんな感じなのかもと思ってしまう。


「ルミのやつ、熱心だな」

「あの姿が普通ですよ。アデル」

「そんなこと言うなよジフ。オレだって熱心だ。なぁエルゼリアさん」

「あぁ。ルミナスに負けず熱心だよ」

「ほらな! 」

「……エルゼリアさんが言うのならそうなのでしょう。悔しいですが」

「なんでオレの言葉は信じないんだ、このぉ」


 アデルがジフの頭にぐりぐりと拳をめり込ませている。

 これが大人になると洒落にならなくなるんだよな、と思いながらも見ているとコルナットの声が聞こえて来た。

 中間報告が済んだということで私達は次の目的地、宿へ向かう。

 けれど特に混雑していないのかすんなりと宿がとれた。


「出発は明後日になります」

「予定通りだな。そっちは顔つなぎか? 」

「ええ。ルミナス君がどの道を行くにしても繋がりというのは大事ですからね。エルゼリアさんは出張レストランを? 」

「あぁ。一度この町で試したい。ここでやってある程度掴んで次に向かいたい」

「畏まりました。所によっては商業ギルドの許可になりますが、この町は確か町長の許可書のはずです。今から取りに行きますか? 」

「まだ時間あるしそうしようと思うよ」


 言うとそれぞれ席を立ち宿を出る。

 初めての町にキョロキョロと周りを見ている子供達に「はぐれるなよ」と言い引き寄せる。

 ヴォルトが「ワタクシも見張っておきますので」と自ら子守こもりを申し出てくれたのはありがたい。

 少し肩の荷を降ろしながらも、今回の経験が彼らにとって良い刺激になるといいなと思いながら、カブ町長の館へ向かった。


 カブ町長の館はリア町長の館の半分くらいの大きさだ。

 所々に汚れが見えるのは仕方ないだろう。

 リアの町の館はソウが召喚した家事妖精ブラウニー達によって綺麗にされたからな。

 これが普通でリア町長の館が異常。


 リア町長の館もそうだがカブ町長の館も似たようなもので自分の家が仕事場になっているみただ。

 カブ町長の館の門を潜り中へ職員らしき人達が入っていくのが見える。

 門番もいるしこの建物で間違いないと確認を終えると門番の所まで行き要件を伝える。

 するとすんなりと通してもらえ館の中へ足を踏み入れた。


「ギルドの受付っぽいな」


 アデルがポツリと呟いた。

 確かにそうだな。受付っぽい。


 私達が中に入り、少し進むと、看板が見え、自分達が用のある窓口へ向かおうとすると、横に広い木製の机が職員と他を区切っている。

 机を挟んで立っている職員達と町民らしき人達をみると、どうやらカブ町長の館はオーソドックスな町長の館と役場が一緒になっている場合はこのタイプのようだ。

 リア町長の館ではみられなかった光景だけど、リア町長の館が特殊なだけ。

 これが一般的な町長の館である。

 つまり館としての機能と町長の住まいとしての機能を分ける程お金がない。

 リア町長の館にも文官達がいたが多分彼らは上位の文官で受付のような仕事はまた別で行われているのだろう。


 ぐるりと周りを見て目的の看板を見つける。

 職員の元まで行き要件を伝えた。


「出張レストラン、ですか? 」

「あぁ。実はリアの町で「竜の巫女」っていう――「「「竜の巫女」」」?!!! ……」


 名前を言った瞬間全員の目線がこちらに向いた。

 な、なんだ?!

 私なんか変なことを言ったか?!


 服のすそをぎゅっと引っ張られる。

 驚きながらも下を見るとアデル達が私に身を寄せていた。

 いきなり大声を上げられて注目を浴びると怖いよな……。


「も、申し訳ありません。もしかして……あの……、竜の巫女のエルゼリアさん、でしょうか? 」

「そ、そうだが……」


 鬼気迫るような目線で見て来る職員に相槌あいづちを打つと周りがざわめいた。


「エルゼリアさんがこの町で出張レストラン?! 」

「マジか! この町で竜の巫女の料理を食べれるのか! 」

「行く! 絶対行く! 」

「くそぉ! 明日外せない仕事がっ! 」

「おい! 一等地を開けておけよ! 」

「もちろんですとも! 」


 町民だけだと思っていると職員がなにやら「一等地を開ける」とか変な事を言っている。

 なんでこんなことになっているのかわからないまま、ざわめきが収まるのを待っていると、ぼそりとコルナットがルミナスに教えていた。


「自分を過小評価するとこうなるという一つのパターンです。覚えておきなさい」

「はい! 」


 おいコルナット。

 あとで話し合おうじゃないか。


———

 後書き


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