第122話 兎幻獣人国へようこそ! 4 キッチンにて

 キャリアン王妃やカルア王女、ラビ達と別れた後私達はメイドに個室へ案内される。


「ううう~~~。暑苦しかったのである」

「こっちは楽しかったがな」

「そっちに行きたかったのである」

「女風呂に入るつもりか? 変態」

「元より我には性別がないのである。なので女風呂に入っても問題はないはずなのである! 」


 いやもう手遅れだろ、と思いつつもメイドについて行く。

 子供達の話を聞くとなにやらお礼を言われたらしい。

 けれど私達の時とは異なり暑苦しさが全面だったと。

 私達が話しているのが聞こえたのか前を行くメイドからクスリと漏れる。

 震える肩を見ながらも私達はそれぞれ個室に移動した。


 アデル、ロデ、ジフ達が個室に入るのを確認して自分に割り当てられた個室に入る。

 といっても三人とも私の周辺の部屋。

 何かあっても駆けつけることが出来るだろう。


「こちらになります」

「これは凄いな」


 中に入るとキラキラと輝く部屋が待っていた。

 正面には純白のカーテンが窓を遮り横に顔を向けると食器棚が見える。

 入り口で止まっていてもいけないと思い、小さな兎の模様があちこちに施されている赤い絨毯を歩いて中央にある机まで向かった。


「では御用の際にはそちらを鳴らしてください」

「何から何まで。ありがとう。けど一つ良いか? 」

「はい。なんでしょう? 」

「これから子供達を連れてシェフの所へ向かおうと考えているんだが、案内してくれてもいいか? 一応マキシミリアム国王やキャリアン王妃達からは許可を得ているんだが」

「畏まりました。では今から向かいますか? 」

「子供達も荷物を置けただろうし、今から頼む」


 私の頼みを兎幻獣人のメイドが快諾してくれる。

 そして彼女誘導の元キッチンへ向かった。


 ★


「美味しい料理。ありがとう」

「「「ありがとうございました!!! 」」」

「美味かったのである。ありがとうなのである! 我は満足なのである! 」

「お、おう。丁寧にどうも、だな」


 お礼をいうとシェフや周りのコック達が驚いていた。

 要件は後ろで控えているメイドが先に伝えている。

 なのでここまで驚かれるとは思わなかった。


「いや陛下達に時々「美味しかった」とお褒めを頂くことはあるが、他のもんにこうして言われると……こうむず痒いというか」

「料理人にとって「美味い」と言ってくれるのはありがたい事だ」

「俺達はそれで食事を摂っているようなもんだからな」

「正直外から来た人間に人参料理がどう評価されるのかヒヤヒヤだったんだよ」

「でわざわざキッチンにまで足を運んでくれてお礼だろ? あそこで涙を流しているシェフを見てくれよ」


 コックが頬を掻きながら一人の兎幻獣人を指す。

 少し遠くを見ると腕で涙を拭いているシェフが一人。

 気持ちは分かるが、泣くほどか?

 大袈裟だね、と思いつつも彼らの隣を横切ってシェフの元へ向かう。


「私も料理人の端くれだ。「人参」一つでこれほどのレパートリーを作り上げるとは恐れ入ったよ。レパートリーもそうだが味に食感に食べる人が楽しめるように様々な工夫がされていた。流石としか言いようがない」

「……苦労した甲斐かいがあったぜ……ぐすん」

「あぁ~、だから泣かないでくれ」

「……言うがよ。俺達料理人は表に出ないのが普通だ。まず褒められることがない職業で美味い物を作れて当り前。礼だけじゃなくて褒められるとはぁ~、感動の涙が止まらねぇ」


 褒めると更に泣いてしまった。

 何か私が泣かしたようでちょっと罪悪感でチクリとする。悪い事は何もしてないのにな。


「あぁ~あ。泣かしたのである」

「うるさいソウ」


 茶化すソウを軽く叱る。

 するとアデル達がクスリと笑い、それにつられて他の人達も笑い始めた。

 はぁ、と息を吐いて前を向くとシェフが顔を上げて少し目を腫らしている。

 けどその表情はどこか嬉しそうだ。


 シェフやコック達と軽く雑談をする。

 やはりというべきかこの国の主食は人参らしい。

 感覚的にはパンのようなもの。

 朝昼晩と人参料理が振る舞われるとか。


「そういやお前さんも料理人とか言ってたな」

「そうだが? 」

「外の料理で何か良い人参料理はないか? 」


 やっぱり人参がメインになるんだ。

 あえなき人参への探求心。

 一芸を極めるその姿は素晴らしい。

 けど人参料理か。人参が入った料理はあるが――。


「あ。幾つかあるぞ? 」

「是非教えてもらいたいものだが……、どのくらい泊っていくんだ? 」

「明日には帰るな」


 答えると耳が垂れてあからさまにしょんぼりした。


「そうだ。明日の朝何か作ろうか? 」

「いいのか? 」

「あぁ。その代わりだな――」


 条件をいくつか言う。

 正直な所これはここにきて私が持ちかける話の一つでもあった。

 だから彼から話を持って来てくれたのは都合が良い。


「そのくらい構わないと思うが……」

「流石に陛下を通さないのはまずいんじゃないか? 」

「いやしかし食べて見たくもある」

「ならこうしよう。マキシミリアム国王とキャリアン王妃には伝えてラビには伝えない。これならどうだ? 」

「それなら大丈夫だな」

「最悪シェフが責任をとればいいしな」

「ちょ、お前ら」


 キッチンの中が笑いに包まれる中提案が通る。

 メイドにもラビには伝えないように言って私達はキッチンを出た。


 ★


「ラビさん竜の巫女には帰らないのかな? 」


 部屋に戻る道中、不安そうに言ったのはアデルだった。


「さぁ……。それはわからない」


 不安がっているのだろうことはよくわかる。

 ラビは色々とお騒がせな人だがその持ち前の明るさは天性のもの。

 彼女の纏う雰囲気が竜の巫女に影響しているのは明白だ。

 加えるのならば味にも影響しているだろう。


 レストランや食堂の味と言うのは無二むにのもの。

 それは食べる仲間やそのレストランが纏う雰囲気が影響しているからだと思う。

 だから私としても彼女がいなくなるのは寂しく思うし、困る訳で。


「明日私達が帰る時、ラビがどんな選択をするのかわからない。けど私達は笑ってやろうじゃないか」


 言うが返事は返ってこない。

 それほどまでに子供達にとって「ラビ」という存在が大きい事を示しているのだろうね。

 出会いがあれば別れもある。この子達には少し早かったかな?

 まぁ彼女を見送るにしても連れて行くにしても後腐れないようにするための明日の朝だ。


 さ、明日の朝は早いぞ!

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