第121話 兎幻獣人国へようこそ! 3 大浴場
城内のメイドに誘導される形でソウや子供達と一緒に浴場へ向かう。
もちろんメイドも兎幻獣人。
城内の様子を観察するに国民の殆どが兎幻獣人の可能性があるな。
子供達が「どんな所だろ~」と興味津々といった様子で歩く中、前を歩くメイドから緊張感が伝わってくる。
多分だが今まで同族以外と接したことがないのだろう。
それ故にエルフ族や熊獣人、人族に精霊獣と多種多様な人を誘導することに緊張するのは分かる。
「こちらになります」
歩いた先、大きな扉が開く。
メイドが中を案内し訪ねて来た。
「失礼ですが入浴の際の所作は御存じでしょうか? 」
「温泉と同じなら大丈夫だ」
「失礼しました。では入浴をお楽しみください」
この国の文化がどうなっているのかわからない。
けれど温泉と同じなら大丈夫と答えてオッケーが出たことを考えると似たようなものなのかも。
まぁ定期的に外の世界と交流を持っているみたいだし、この浴場と同じような風習があると聞いたことがあっても不思議ではない。
私としてはめんどくさい説明を聞かなくてよかったと思う。
「さ。入ろうか」
それぞれ男女別れて服を脱ぐ。
アデルと一緒に大きな扉を開けると広い空間に出た。
浴場というよりかは大浴場だな。
アデルが「おおおーーー」と興奮する声が響く。
その気持ちはわからなくもない。
普通の人なら見ることすら敵わないだろう豪華な浴場だからね。
一歩歩くと冷たく固い感触が伝わってくる。しかし抵抗を感じる。
床は特殊な加工が施されているのだろう。
周りをぐるりと見渡すと白くつやつやした石材が壁に敷き詰められ所々に装飾が施されている。その下には体を水で洗い流すための道具が置いてあった。
どれも超がつくほどの一級品である。
湿った空気を全身で感じながら、アデルにはしゃがないよう注意しつつ壁際に向かおうとすると、目の前に六個の大きな耳が見えた。
――ラビ達か。
私達の音に気が付いたのか、――バシャッと水を被る音が聞こえたと思うと、彼女達は後ろを向いていた耳がくるりと私達の方を向く。
遅れて体がこちらに向くと、そこにいたのはラビに加えてキャリアン王妃とカルア王女だった。
予想通り。
「お待ちしておりました」
「来たか! 」
「待ってましたよ! 」
ブルブルっと顔を震わせて笑顔で言う。こうしてみるとやっぱり三人は母娘だな。顔もそうだが動きが似ている。
しかし……、嬉しいのだけれど、王族と一緒に入浴って良いのか?
ま、細かい事を気にしたら彼女達に対して失礼か。
彼女達の隣に向かいながら「お待たせ」と手を振りながらアデルを連れる。
横に座って汚れを落とす。
「先に入ってるぜ」
カルア王女がそう言い立ち上がる。
ラビとは正反対な引き締まった体をした彼女の背を見ていると、それに気が付いた。
「太腿に宝石か。道理で見えないはずだ」
「兎幻獣人カーバンクル種の宝石の位置は個人によって異なります。私達のように服に隠れる場所にある者もいれば、いない者もいれば」
キャリアン王妃が胸を少し開ける。
そこには大きな宝石が二つ埋め込まれているのがわかる。
ラビも同じように大きなたわわを開けると同じように内側に二つの宝石があった。
「これ動くと擦れて痛いんですよね」
「固そうだもんな! 」
「だろうな」
「胸は胸で肩も凝るし、良い事がありません」
「後で話があるラビ」
「え? 」
それは持っている者の苦労というものだ。
持っていない者からすれば苦労さえ出来ないのだ。
あとで分けてもらおう。
物理的に。
「本当に仲良くしていただいているのですね」
「もちろんですよ! お母さん! 皆仲良しです! 」
クスリと笑うキャリアン王妃が席を立ちお湯に浸かりながら私に言う。
まぁ悪くはないだろうね。
私もお湯に浸かりながらラビの言葉にうなずいた。
アデルがまだ入っていないなと思い振り向くと、恐る恐るといった様子でお湯につま先を入れようとしている。
エルムンガルドの時とはまた違う豪華さだ。
気持ちは分からなくもない。
苦笑いを浮かべているとちゃぷんと音がする。
隣にアデルがやってくると正面から目線を感じた。
「エルフ族というのは本当に耳が横に長いのですね」
「人族は耳が縦に生えてねぇな! 」
「当たり前でしょう! お母さんにお姉ちゃん! 」
「でも初めて見るから」
ラビが顔を赤くしてキャリアン王妃とカルア王女に食い掛かる。
キャリアン王妃はお淑やかに笑いカルア王女は「ははは」と豪快に笑う。
するとラビは「もう」と言って肩までお湯に浸かってこっちを見てくる二人を再度嗜めている。
この国は兎幻獣人で集まっているから縦長な耳が無い方が不自然なのだろう。頭の上に固定された目線でよくわかる。
彼女達からすれば衝撃的だったかもしれないね。
普通なことが普通でない。
時々忘れがちになるが、自分の常識なんて布一枚だもんな。
「? 」
ふと、ポンとアデルの頭に手をやると、アデルが小首を傾げながら私を見上げてくる。
彼女に軽く笑いかけると増々意味が分からないといった表情をした。
今は分からなくてもいい。もしかしたら死ぬまでわからないかもだな。
目の前で繰り広げられているやり取りこそが「常識」の本質だということを。
「さて改めてお礼を」
ラビとの一戦を終えてキャリアン王妃が真面目な顔をして私を見る。
「ラビアンを救って頂きありがとうございました」
「話しに聞くと本当に危なかったらしいじゃねぇか。ありがとな! これでも可愛い妹なんだ」
「それほどでも。といっても私は料理を振る舞ったくらいしかしてないが」
「その食料すら手に入らなかったとか。この子は無鉄砲で根拠のない自信に溢れ何をするにもドジばかりだったので、いきなり王城からいなくなった時は王城が騒然としました」
キャリアン王妃の容赦ない言葉の槍にラビが胸を抑える。
庇ってあげたいが、庇えないのが悲しい所。
キャリアン王妃はお湯にぷかぷか浮かぶラビに目もくれず更に言葉を続ける。
「しかしレストランで元気働いていると報告を聞き全員が安堵しました。助けてくれたのがエルゼリアさん達のような素敵な方でよかったと心から思います」
「本当に、感謝しかねぇ」
母親同様に頭を下げるカルア王女。
気にしないでくれと謙遜するのは簡単だが、それでは彼女達は納得しないだろう。
なら――。
「感謝の言葉。受け取りました。しかしラビにはいつも場を明るくしてもらい助かっております。故に、おあいこ、ということでどうでしょうか? 」
言うと二人はぱちくりと目をやってクスリと笑い始める。
ラビから「ドジでも無鉄砲でもありません! 」と抗議の声が聞こえてくるが無視だ。
ラビには今までの行いを見直してほしい。
「わかりました。おあいこ、ですね」
「ええ。おあいこ」
ということで話はまとまった。
その後もラビの
けどいつの間にヴォルト達の警戒網をすり抜けていたんだ?
いや見逃していたのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます