第120話 兎幻獣人国へようこそ! 2 会食
それぞれ自己紹介も終えて私達は控室でのんびりしていた。
最初は敬語で話していたけど砕けた口調で大丈夫と言われてからは言葉を崩して話している。
あまりのフレンドリーさに驚きながらも、思い切って何で謁見の間とかで自己紹介をしなかったのかと聞いた。
すると予想外の答えが返って来た。
「ははは。息苦しいのは苦手でな」
ある意味マキシミリアム国王が権力に頓着していないのが良く伝わったよ。
王がいるが政治は議会に任せるような国はある。
幾ら政治を動かす力がないとはいえ、その王族の財力などを示すために、謁見の間や玉座の間といった所で自己紹介なりをすることは多々ある。
そういったことが嫌いというのだ。
清々しいこの上ない。
「失礼します」
話しているとノックが聞こえメイドに
王族には柔らかい目線を、そして私達にはきつい目線を送り白いカートを押して飲み物を入れる。
きびきびと働くフーナにマキシミリアム国王が笑いかけた。
「では陛下。何かあれば――」
「これこれフーナ。固いぞ? 」
「そのようなことは……」
「フーナちゃんは私達の家族のようなものなんだから、もっと気を楽にして、ね? 」
「いえしかし……」
「そうだぜフーナ。アタイとは戦った
「……皆さんお客人の前ということを忘れないでください」
戸惑うフーナにローズ一家が砕けるように言うが、ムジカ王子が呆れてツッコむ。
フーナもそうだがムジカ王子も大概苦労人だな。
口元が緩むのを感じつつやり取りを見ていると一区切りついたのかフーナが一礼して部屋から出て行った。
「お見苦しい所を」
「仲が良いみたいで何よりだよ」
「はは。フーナとはラビアンが小さい頃からの付き合いだからな。仲が良くて当然」
「ええ。本当に」
と自分達が飲み物に口をつけないと私達が飲めないのに気付いたのか、キャリアン王妃がコップに口をつけた。
それに続くように他の王族も口につけてから私もコップに口をつける。
お。これは珍しい味だ。
人参の風味が口に広がるが、独特の苦さを感じない。
「この人参は……」
「ご想像の通り、この国で作られた特産のようなものでございます」
ムジカ王子が答えるとキャリアン王妃が続けた。
「僅かですが外の世界に輸出も行っております」
「国内だとかなり生えるが、外はそうでもないらしいからな」
「希少性故に取引は高い難易度を誇りますが信頼のおける商人と取引をしているとか」
「この世界に籠っている俺達だが完全に外の世界と交流を断っているわけじゃない。適度に情報やらやりとりやらは行っている。停滞は、衰退だからな」
ニカっと白い歯を見せて微笑むマキシミリアム国王。
危険性を考慮したうえでの外の世界との交流か。
中々に勇気のいることだ。
逆にフーナが「外」と言うだけで警戒しているのも頷けるというもの。
種族のみならず人参も希少なものとなると独占しようと奪いに来る人が現れてもおかしくないしな。
「しかしフーナはメイドなのか? ラビからは騎士のようなものに就いていると聞いたんだが」
「メイドは彼女の趣味のようなものだな」
「言う通りフーナは幻闘師……外の世界で言う所の騎士のようなものが本職になります」
「アタイ達の推薦で幻闘師にさせることもできたのに一般枠から実力で上がってきたやつなんだよ」
「因みに幻闘師はこの国でなりたい職業ナンバーワンです! 」
人気職ということか。
確かに国に仕える騎士というのはどの国でも人気が高い。
私が旅した国では殆ど貴族子息がなるか貴族の推薦からなっていたけど、フーナは自分の実力で成り上がったのか。
それは凄い。
「その中でも実力者を特務幻闘師、そして
ラビが最後に付け加えた。
フーナがライナーに捕まった時、驚いていたのはこれか。
けど相手が悪いかったみたいだな。
感知や探知に長けた人狼族、それも種族王のライナー相手だと無謀も良い所。
どんな技術を使ったかはわからないが、それでもライナーには敵わなかったと。
むしろヴォルトの感知魔法を誤魔化した技術が気になる所ではある。
「ご夕食の準備が整いました」
幻闘師という職業についてあれこれ教えてもらう。
その後今後の予定を話し終えると部屋にノックの音が響く。
そして私達は食堂へ向かった。
★
「人参がいっぱいだぁ! 」
「これは壮大ですね」
「良い匂い。美味しそう」
「ここまで来ると逆に味付けが気になる所だな」
「是非ともご堪能下さい」
見たことのないような食事に子供達が目を輝かせる。
それを微笑ましいような目線で王族が見守っている。
ロデの褒め言葉に気分を良くしたのか、シェフらしき兎幻獣人が少し軽快な口調で料理の説明をしてくれる。
純粋に喜ばれるほど料理人にとって嬉しいことはないだろうね。
説明を終えたシェフは一礼して「お楽しみくださいね」と言い残して食堂を出て行った。
「歯応えが良いな。こっちは苦味が強めな人参だな。けどキャロット・ツリー・キャロットほどじゃないな」
「こっちは崩れるように柔らかくて甘い、です! 」
「サクサクしてますね。これが説明してくれた凍らせているみたいです」
「蒸してて甘い」
子供達が元気よく次々に人参を口にしている。
人参を見るだけで拒否感を持つ人がいる中、フォークいっぱいに人参を刺して口にしている光景は珍しい。
微笑ましく見ながらも私もパクリと一口。
おおっ! これは新食感だ。
揚げているのかパリッとして美味しい。
「気に入ってもらえたようでなによりだ」
「私達が愛する人参をラビアンを助けてくれた恩人が美味しく食べてくれるとは、感慨深いですね」
「うちのシェフは腕がいいんだ! 気に入らないわけがない! 」
「……皆さん食事は静かに」
ローズ一家もパクパクと人参料理を口にしている。
しかし、失礼だけど王族とは思えないな。
ある程度所作がもとめられるのだけれど彼らにはそれが見えない。
まぁ人それぞれ国それぞれ。
この食卓がこの国の王族の日常なのだろうね。
それに私としてはがっつりとマナーにがんじがらめにされた食事よりもこういった食事の風景の方が好きである。
笑顔に包まれた食卓というのはいつ見ても良いものだ。
「ご馳走様でした」
それぞれが食事を終えて食後の言葉を口にする。
そして私は一つ頼みごとをすることに。
「ラビアンの恩人の頼みだ。出来る限り力になろう」
「では失礼かもしれませんが
「「「シェフに? 」」」
「ええ。この素晴らしき人参料理を作ったシェフに一言お礼を言いたいんだ。一人の料理人としてね」
言うと私の頼み事はすんなりとオッケーが出た。
あとで会わせてくれるということで、私達は部屋に通され、そして浴場に案内された。
———
後書き
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