第119話 兎幻獣人国へようこそ! 1 歓迎

 前を跳ねる兎について行くと広い場所に出た。

 リアの町よりも土の匂いが強い場所に出たかと思うといきなり光に照らされて腕で光を遮った。

 徐々に目を慣らして腕を退けるとそこには大きな城が一つ。

 すぐに周りを見渡して状況を確認すると第三関門の出題者? が大きな耳をした門番と話している。


「おーい! 皆ー! 」

「ラビアン殿下?! 」

「お帰りになられたのですね! 」


 二人の門番は兎との会話を中断してラビに向く。

 隣を駆け抜け門番達に手を振りながらラビが走る。

 彼らの前までいくと元気よく全身を使って無事を伝えている。


「お元気でなによりです! 」

「外の世界はさぞつらかったでしょうっ! ささ、王城の中へ」

「二人共大袈裟だよ。僕一人じゃ無理だったけど、エルゼリアさん……、ううん。皆のおかげでこうして元気にやれているよ! 」


 そう言いながらラビが私の方に向いた。

 するとつられるように門番の兎幻獣人達が私達の方を向く。

 少し空気がピリっとしたがすぐに霧散した。

 やっぱり外から来たということで警戒されているのかもしれないね。もしくはラビと一緒にいたからかも。

 でもまぁラビがこの国で大事にされている証拠でもある。

 始めて会う相手に少し過剰に警戒されるのはしかたない。寂しく思うのは確かだけど、ラビのことを思うと向けられた警戒心に対して不思議と苛立ちは湧いてこない。


 私がちょっと緊張を解くと、――ラビに紹介された影響か、二人は背筋を伸ばしてこちらに近寄る。

 ラビがこてんと首を傾げながらも二人を見ると、門番達は軽く咳払いをして私に向いた。


「知恵兎様より話は伺っております。こちらへどうぞ」


 門番が連れる中私達は王城の中に踏み入れた。


 ★


 兎獣人の体は細い。


 確かに個人差はあるが、個人差で収まるレベルである。

 ラビやフーナ、そして門番やすれ違った兎幻獣人を観察したけどその手足は細かった。

 そこから考えるに兎幻獣人も兎獣人の特性を引き継いでいるものとわかるのだが……。


「ははは。君がラビアンを助けてくれた恩人か! 」


 扉を「バン! 」と開けて、ゴリマッチョな兎幻獣人が通された控室に現れた。

 え、どういうこと?

 私の考えが間違いだったのか?


「お父さん! 」

「おおラビアン。立派になって」


 ソファーからラビが立ち上がるとササッと男兎幻獣人の方へ寄って行った。

 すると二人は頬をすり合わせて、そして離れた。


「あ、これは家族の間で行う挨拶のようなものです」

「この国特有の風習のようなものか」

「はい! エルゼリアさん」


 呆然としている私達にラビが補足してくれた。

 けど私達が混乱しているのは独自の風習のせいじゃない。

 そこにいるゴリマッチョ兎幻獣人のせいだ。


「貴方。早すぎます! 」

「おお。すまんすまん。しかし飛び出していったラビアンが帰って来たと聞くと居ても立ってもいられなくてな」

「お母さん! 」

「まぁラビアン。大きくなって」


 今度は貴婦人といった雰囲気の女性が勢いよく入って来た。

 すると今さっき同様頬をすり合わせる。

 遅れて知的な雰囲気を纏った兎幻獣人と、ラビとはまた別のベクトルの活発な雰囲気を出す兎幻獣人がやって来て家族同士の挨拶をした。

 そしてゴリマッチョ兎幻獣人が一歩前に出る。


「まずは自己紹介だな。俺の名前はマキシミリアム・ローズ。ラビアンの父で、この国の王だ! 親しみを込めてマッキーとでも呼んでくれ」


 白い歯を輝かせて自己紹介。

 か、かなりフレンドリーな国王だな。

 珍しいタイプだ。

 しかしラビの明るさはこの父から来ているのかもしれないね。

 マッキーことマキシミリアム国王は暴力的なまでに溌剌としているし。ドジを踏んでも前向きなのもこの父の影響なのかもしれない。


「私はキャリアン・ローズと申します。ラビアンの母で恐れ多くも王妃を担わせていただいております」


 次に線の細いはかなげな雰囲気を漂わせる兎幻獣人が前に出た。

 ラビの性格は父に似ているが顔つきは母に似ているな。


「おいおいキャリアン。恐れ多くもないぞ? たかが国王の妻ではないか」

「政治的影響力が殆どないとはいえ、やはり恐れ多いです」

「……俺の事が嫌か? 」

「そんなことありません。愛しておりますよ」


 キャリアンとマキシミリアムが頬をすり合わせる。

 しかし挨拶の時よりも長い時間すりすりとしている。

 ……見ているこちらが恥ずかしくなるな。これは。

 チラリとラビの方を見ると顔を真っ赤にして俯いている。

 ラビも急にいちゃつき始めた両親に困っているようだ。


「コホン。父上も母上も仲が良いのは嬉しい事ですがその辺で。お客人の前ですよ」

「おお。そうだった」

「……ついつい私としたことがお恥ずかしい」


 年若い男兎幻獣人が呆れながら言うと、二人は私達がいることに気付き一歩下がった。

 声を上げた青年は一歩前に出て背筋を伸ばした。


「ではオレの番ですね。オレの名前はムジカ・ローズ。ラビアンの兄でございます。お客人方。天然な妹に振り回されてさぞ大変でしたでしょう。しかし無碍に扱わず保護していただけ兄として嬉しく思います。出来ればこれからもラビアンと仲良くしていただけると存外の喜びでございます」


 一礼しながら自己紹介をするムジカ王子。

 父を反面教師にしたのだろうか? そう思わせるほどに礼儀正しい。


 けれどその姿はゴツイ。


 マキシミリアム国王の体格を洗練された肉体美と表現するのならば原石のようなもの。訓練をしていないのか暴力的なまでに筋肉は自己主張していないが、それでも服がきつそうだ。

 けれど言葉使いは丁寧そのもの。

 恐らくだがキャリアン王妃の影響を受けているのだろうな。


「じゃぁ最後はアタイだな。アタイは兎幻獣人国第二王女カルア・ローズ! アタイの好みは人参と強い奴だ! よろしくな! 」


 ニカっと笑みを浮かべるカルア王女。

 これまた癖の強そうな人が出て来たな。

 ムジカ王子を知的マッチョと称するのなら、カルア王女は脳筋といった所か。

 いや実際にもっと話してみないとわからないけど、「とりあえず殴ればいいんじゃないか? 」とか言いそうだ。

 けれど姿は筋肉質ではない。体つきは女性のそれそのものでどちらかと言うとキャリアン王妃に似ている。

 性格だけ父に似てしまったのだろうね。

 語調からラビとはまた違う溌剌とした人だとわかる。彼女もまた周りを明るくするタイプだろう。


「さて自己紹介も終えたということでお客人――」


 全員の自己紹介を終えたことを確認したマキシミリアムが一歩前に出た。

 それを見た他の王族が追って前に出る。

 何かするつもりか?


「「「兎幻獣人国へ、ようこそ!!! 」」」


 歓迎だった。


 なんだか癖の強い人ばかりに見えるけど、皆人柄の良さそうな人達だよ。

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