第118話 兎幻獣人国へ 2 試練、そして兎の国へ

 ラビやフーナの後に続いて行くと一つの巨大な門が現れた。

 いきなり現れたので少し驚いたがそれだけだ。


「ここだ」


 フーナが門に手をかざすとギギギと重厚な扉が開く。

 この先に兎幻獣人国があるのかと思うとドキドキしてくるね。

 どんなところか聞いてなかったのも心臓の鼓動を速くしている原因かもしれない。

 色んな所を巡ったがこんな摩訶不思議な所は初めてだから、どんな景色が広がっているのか興味深い。


 思いながらも先に進む二人について行く。

 しかし中に入ると暗く広い場所に出た。

 あたりを見渡すと石で周りを囲われて規則的に石柱が立っているのが見える。

 まるでダンジョンのフロアボス部屋のような感じを受ける。

 ここから先に進むのだろうかと思いながらも二人について行くと足を止めた。

 ラビが振り向き申し訳なさそうな表情で私達を見る。


「兎幻獣人国に辿り着くには三つの関門を突破する必要があります」

「それでこの空間か」

「はい。黙っていてすみません。案内兎を含めて、兎幻獣人国の外から来る人に教えることができないので」

「いや良いよ。そういう決まりなら」


 耳をしゅんとさせるラビを元気づけてフーナを見ると、背筋を伸ばして口を開いた。


「最初の関門は「武力」だ。力をもって、退しりぞけよ」

「……ソウ」

「分かったのである。一暴れするのである」


 指名されたソウは私の肩から前に飛び体を元の姿に戻していく。

 その様子を見てフーナが顔を引き攣らせているが試練を課したのはそちらである。

 オーバーキルだと言われても私の知る所ではない。


 正直どんな相手が出て来るのかわからない。

 よって何かあった時の為にソウを選んだ。ソウなら大丈夫だろう。

 私でも構わないが、どんな相手が出て来るかわからない時はソウがベスト。

 ソウは精霊魔法も使えるが物理でソウに敵う者も殆どいない。それこそエルムンガルドくらいだからね。


 ソウの体が数十倍にも膨れ上がる。

 狭い部屋の中、魔法陣が光るのが見えてそこから一人の兎幻獣人が出現した。

 典型的な兎幻獣人だな。

 額に六角形の巨大で輝く緑の宝石。

 恐らく試練用のダミーだろうけど、何故かな。そのダミーがソウを見上げて震えているのが伝わってくる。


「で、では始め――」


 ドン!!!


 一瞬で、終わった。

 ソウが巨大な腕を虫を払うかのように振ると兎幻獣人が壁に突き刺さった。


「これで終わりかな? 」

「もういいのであるか? 我としてはまだまだ戦いたいのである」

「しゅ、終了! 」


 フーナが滝のように汗を流しながら終了を告げた。


 嫌な戦いだったな。


 ★


 二つ目の扉を開ける。

 第一関門と同じく石で作られた部屋に出た。

 ソウはあっけない終わりにやる気を失ったのか私の肩に寝そべっている。

 子供達を頼むと言ったのにこの体たらく。

 あとで説教が必要だな。


「次の関門は「魔法」だ。今度はさっきのようにはいかない! 覚悟せよ! 」


 何かかなり挑戦的なんだが……、まぁいいか。


「じゃ、私が行ってこようか」

「頑張れエルゼリアさん! 」

「頑張ってください! エルゼリアさん! 」

「頑張れっ! 」


 子供達の声援がこそばゆい。

 頬を掻きながら前に出る。

 手に持っている魔杖を握りしめて光り始めている魔法陣に構えた。


「ま、まだだからな。まだ始まってないからな! 今攻撃したら反則だからな! 」

「分かってるよ。開始の合図まで待つよ」


 ――攻撃は。


 魔杖の先を見るとそこから兎幻獣人が現れる。

 今度は赤い六角形の宝石を額に嵌めた兎幻獣人のようだ。


「では、始め! 」


 その一言で兎幻獣人が動く。

 が――。


 ドーーーーーン!!!


「「「………………」」」

「まだ息があるな。魔法威力増大・雷光槍ライトニングスピア


 爆風舞う中魔力感知でまだ生きていることを確認し魔法を放つ。

 白い雷の矢が白い煙の中へ向かった後僅かに遅れて耳をろうさんばかりの雷鳴がする。


「よし。これで終了だな」


 魔力感知で完全に相手が消滅しているのを確認してフーナに向いた。

 しかし彼女は唖然としている。

 はて。何に驚いているのか。


「は、は、は……」

「は? 」

「反則だぁぁぁぁぁ!!! 」


 フーナが怒鳴り詰め寄って来た。

 しかし反則とは聞き捨てならない。

 撤回を求めよう。


「攻撃してないだろ? 」

「た、確かにそうだがっ! 罠を張るとは貴様には武人としての誇りがないのか! 」

「いや私料理人だし」

「こんな料理人がいてたまるかぁぁぁぁぁ!!! 」

「そう言われてもなぁ」


 と跡形もなく焦げた跡地を見る。


「そもそもな話、魔法を試すのになんで魔法使いではなく武人が出て来るんだ? 」

「魔法使いとて武の心得が必要だからだ! 」

「いや知らないし。というよりも魔法使い相手に武人をぶつけるのは「武人としての誇り」的にはダメだろ」

「うぐっ……」

「それに私には私の価値観というものがある。君の価値観を私達に押し付けないでくれ給え」

「だが第三関門を突破した先は――」

「あぁわかってる。別に君達の価値観に干渉するつもりはないよ。けどそのかわり私達の価値観に干渉するなよ? 」


 フーナを睨みつけて黙らせる。


 ――自分の価値観こそ正義。


 そう思い込んでいるやつはめんどくさい。

 言葉責めをしたせいかフーナが顔を赤くしてプルプルと震え今にも泣きだしそうだが、元を辿ると私達を試そうとした彼女も悪い訳で。

 結局の所震えるフーナについて行き第三関門とやらへ向かった。


 ★


「最後の関門は「知識」だ。今度こそ……今度こそっ! 」


 フーナが拳を握り潤んだ瞳で、しかし強い目力めぢからで睨みつけて来る。

 しかし何でかな。

 この後のフーナが泣き崩れる未来が視えるのは。

 ともあれ様子を観察してみることに。

 少しすると目の前で魔法陣が光り巨大な兎が現れた。


「挑戦者は誰ぞ? 」

「私だ」


 真っ先に私が声を上げて兎の前に立つ。

 私が見上げると巨大兎も私を見下ろした。


「問う。幻獣人と獣人の違いを答えよ」

「起源となっている動物が幻獣かどうかだ」


 答えると少しして巨大な兎の体が少し縮んだ。

 ……もしかして正解したら体が縮む仕組みか?

 ま、気にする程でもなさそうだ。


「問う。兎幻獣人国は絶対王政――「嘘だな。兎幻獣人国は絶対王政ではない」……」


 気まずい雰囲気が、流れる。


 先に潰したのが悪かったのか?!

 いや明らかに間違いだろう。

 だから皆そんな非難の目で見ないでくれっ!


「コホン。確かにラビは王族だ。しかしその権限の殆どが使えない状態じゃないのか? 」

「……何でわかったのですか? 」

「国名に「王国」とついてないからだよ」


 基本的に絶対王政をとるような国は「王国」とつける。

 しかしそうでない場合は王国とはつけないのが大体のルールだ。

 統一されたものじゃないが合っているだろうね。

 だって問い掛けを潰された兎が私の身長ほどまでに小さくなったのだから。


「最後に問おう。兎幻獣人カーバンクル種は幸福を呼ぶとされている。その真偽のほどは如何に」


 また汚い問題を出してきたな。

 これが外からの侵入を阻害する防衛機能ならば大半はここで脱落だ。

 チラリとフーナの方を見るといやらしく目を光らせている。

 私が間違えるとでも思っているのだろうね。


「真偽は、不明だ」

「! 」

「確かに外の世界では「幸運をもたらす兎」とされている。しかしながらそれを立証することができる手立てはない。それに幻獣カーバンクルを見かけたという事例は殆どないが、兎幻獣人を見かけたという事例は幾らでもある。だが見かけたものが全員運に恵まれたかと言うと否だ。そのことから類推するに、兎幻獣人カーバンクル種が「幸運をもたらす」というのはデマである可能性が高い」


 言い終わると長い沈黙が流れる。

 緊張するが、答えを待つしかない。

 兎の赤い目をじっくりと見つめる。

 ゆっくりとまぶたを閉じたかと思うと徐々に体が小さくなり、本物の兎くらいの大きさになった。


「正解である。真実を知る者よ。着いて来るが良い」


 兎が言い終わると一気に視界が変わる。

 虹色の世界に放り出されたかと思うと周りに光り輝く板が敷き詰められていた。


「これは凄い」


 一瞬の出来事に目を開く。

 周りを見て足元の光の板を踏むとしっかりと私を支えてくれている。

 驚きながらも前を見る。

 するとこちらを見ている兎が一体。


「さ。皆行こう」


 こうして私達は兎の国に足を踏み入れた。

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