第111話 精霊温泉へようこそ! 2 ツリーハウス

 エルムンガルドの案内の元私達は草木が生い茂る山を歩く。

 精霊達はりになったが、雪のように白く美しい毛並みをした鹿の精霊獣は私達の前を歩いている。

 色んな精霊獣がいるが真っ白い鹿の精霊獣は見たことがないな。茶色はあるけど。


「しかし綺麗な所ですね」

「空気もきよらかですし」

「ここにいるだけで落ち着きます」


 ラビの声が後ろから聞こえてくる。

 鎮静効果でもあるのだろうか。

 いつもはしゃいでいるラビが落ち着いた口調で言っている。


 異常事態だ。


 何かの前触れだろうかと少し怖くなり振り向きラビを見ると、大きな耳をピンと立てて歩いている。

 特に変わった様子はない。


「どうしたんですか? エルゼリアさん」

「いやラビが大人しいなと」

「ぼ、僕はこれでも淑女ですよ?! 」

「「「まさかそんな馬鹿な」」」

「皆して全否定ですか?! 泣きますよ! 」


 ラビがいつものように元気に反論する。

 うん。ラビに落ち着いた雰囲気は似合わないな。


 はしゃぎながら前を向く。

 上から差し込む光だけでなく周りからも光が私を照らしている。

 少し視線を横に向けると大木の端からこちらを覗く精霊が多数。


「申し訳ありません。お客人に余程興味があるのかちらほら精霊達が様子を見に来ているようで」

「まぁエルムンガルドが招待したとなると、気になるだろうな」

「その通りで」

「ま、このくらい大したことないよ。むしろ歓迎されているようでうれしいよ」

「そう言っていただけると幸いです」


 首を私の方に向けながら、精霊獣が言う。

 ……何か苦労屋の気配がするのは気のせいだろうか。

 気になりながらも彼について行くと歩きながら口を開く。


「にしても賑やかな方々ですね」

「すまない。うるさかったか? 」

「いえそのようなことはありません。楽しそうで何よりです」

「これもエルムンガルドや、君のおかげだよ」


 言うと少し黒い瞳を大きく開いた。

 精霊獣の口元が笑ったかと思うと前を向く。


「変なお方ですね」

「そうか? 」

「我が主が気に入るのも、何となくわかる気がしますね」


 この鹿も大概変だとは感じるけどね。

 褒められているような、ないような。わからないけれど悪い意味ではないようだ。

 軽く話しながら足を進める。


「着いたぞ」

「「「??? 」」」


 エルムンガルドが足を止めて私達に振り向くと大木を背してそう言った。

 着いたというけれど家らしきものは見当たらない。

 周りを探すも木しかみえない。

 何か仕掛けがあるんじゃないかと思い木をよく観察する。

 これは……。


「ツリーハウス? 」

「流石に知っておったか」

「エルゼリアさん。ツリーハウスってなんですか? 」


 ジフが首を傾げて聞いてくる。

 町育ちのジフは知らなくて当然か。


「ツリーハウスというのは、まぁ木の上に作られた家のようなものだよ」

「ここから見えません……」

「ここから先は転移で向かう。誰かが迷い込んで妾の家に入ってくるのはよくないからのぉ」


 家に入る方法も非常識だった。

 しかしこんな大木の上に作られたツリーハウスなんて聞いたことも見たこともないな。


 私は半分くらいあてずっぽうで聞いたんだけど当たっていた。

 実際の所私もジフと同じく家らしきものは見えていない。

 単に木があり、ここが家だというのでそこから類推しただけだ。

 認識阻害をかけているのか、見えないほど高い所に作っているのか。


 一口にツリーハウスと言っても様々なものがある。

 代表的なものはジフに説明したような木の枝の上に作ったもの。他にも古い大木の中をくりぬいて階段を作り居住区を作るというものもある。その時は保存魔法や硬化の魔法を使うんだっけか。

 エルムンガルドが作ったツリーハウスというのがどんなものかわからないが、外から見ることすら叶わない家とは流石精霊女王といった所か。


「では行くかの」


 エルムンガルドが手をかざすと、またもや景色が一瞬で変わった。


 ★


 最初に気が付いたのは温かみのある「木」の匂いだ。

 続いて巨大な空間に気が付いて周りを見ると茶色い木で出来た壁が見える。

 恐らく木の中をくりぬいたタイプなのだろう。

 壁には年輪のような線が見える。


「どうじゃ」

「これだけ広い空間だとは。正直驚いた」


 感想を聞くエルムンガルドに素直に答える。

 呆然としながらも少し足を進めると木でできた棚やタンス、ベッドのようなものも見える。

 他にも机や椅子に本棚にと色んなものが置かれているが、狭く感じない。


「空間拡張を使っているからの」

「……さらっと伝説レベルの魔法を使うのやめてくれませんかね。胃が痛い」

「カカ。昔に作ったものをそのまま持って来ているだけじゃからの。仕方ないと諦めてくれ」


 はぁ、と溜息をついているとエルムンガルドが椅子に座るように指示を出す。

 彼女の声に正気を取り戻したのか他の面々が騒がしくなった。


「これがツリーハウス」

「すげぇ」

「温かい」

「ジフ。これは普通じゃないからな? もっと狭いからな? 」


 椅子に座りながらジフに釘をさす。

 彼がツリーハウスを見るのは初めてだ。非常識を「普通」と捉えてしまったら他のエルフと交流する時困るからな。これはあくまで非常識な光景だと言っておかないとね。


「ほれ」


 正気を取り戻したメンバーが椅子に向かう。

 けれど明らかに数が少ない。

 と思うとエルムンガルドは床を軽く踏んだ。

 すると机の周りにニョキニョキっと木が生えて椅子の形をとる。


「「「……」」」


 今の何!!!


 ついさっき作られた木の椅子を観察しながら考える。

 精霊魔法? いや何も感じなかったから違うような気がする。

 さも当然かのように非常識な力を使うエルムンガルドに驚きながらも他の皆に座るように促した。

 起こってしまったのは仕方ない。

 そもそもエルムンガルドは非常識の塊だ。こういう存在だと割り切るしかないのだ。


「皆席に着いたの。ではしばらく茶会とでも洒落しゃれ込もうかの」


 私達が口を閉じているとエルムンガルドが「カカ」と笑い手をかざす。すると壁に普通の半分程度の大きさの扉が現れ音も無く開く。

 そこから木製のお盆を持った精霊達が飲み物を持って来てくれた。


 特に何もすることなく茶会とやらは進んでいく。

 精霊温泉に入る時間になるまで談笑は進んだのだけど、長く続いた茶会を思うともしかしたらエルムンガルドは少し寂しかったのかもしれないね。

 そう思うと、今日起こった非常識は彼女がウキウキした結果なのかもしれない。

 楽しく笑う彼女を見て、本当にそう思った。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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