第108話 弟子育成計画 6 レアの町
アデルの服を注文し冒険者ギルドに依頼を出して数日後。
私は休業日の朝、いつものようにリアの町の門にいた。
「今日もよろしくお願いします! 」
「よろしく」
テレサが代表して一言挨拶。
私も挨拶をすると追って他のメンバーも挨拶をしてくれる。
近くの町に行くだけに護衛を雇うのも変な感じだが、ソウ一人だと不安だからな。
もし誰かが襲ってきてソウが対処すると加減を間違えるかもしれない。私は辺り一面を消し炭にしたいわけじゃないんだ。
だから彼女達のような一般的な冒険者の護衛が必要なわけで。
「じゃ、行こう」
一言告げるとレアの町へ足を進めた。
多くの人がリアの町とレアの町を行きかっている。
種族も様々で賑やかだ。
歩くとすれ違うが、中には途中腰を降ろして道脇で休んでいる人もいる。
これだけ人が多く行きかっているのはリアの町で大きな祭りがあったからだろう。
この様子だと他の町の町長は「自分も」と思うかも。
もしかしたら他の町でもやるかもしれないね。
その時は是非呼んで欲しいものだ。
「エルゼリアさん」
「ん? なんだテレサ」
「ありがとうございました」
心底助かった、という風な雰囲気を出しながらテレサがお礼を言って来る。
するとすぐに他のメンバーもお礼を言う。
はて? お礼を言われるような事をした覚えがないのだが、これは一体?
「おかげで……おかげさまで魔境に行かずにすみました」
「ううう……。あの地獄から解放された」
「一時的とはいえこうして魔境以外に連れて行ってもらえるのは本当にありがたいですね」
「確かにお肉は重要ですが、採りに行く私達の事を考えてほしいです」
「……浅層でよかった」
五人が涙ながらに喜んでいる。
そんなに嫌だったか、魔境。いや私も行くのは嫌だが、浅層くらいならソウがいなくても大丈夫だと思うけど。
「この前ちらっと商人の依頼書を覗いたけど、そんなに大変? 」
「それはもう! 」
「質はともかく量が厳しいですね」
「毎日採りに行くとなると体力も精神力もギリギリです」
「ウルフィード氏族の戦士達が着いて来てくれているから何とかなっていますが、いなかったらもう私達はこの世にいませんよ! 」
「……エルゼリアさんが異常なだけ」
何気に私、ディスられていない? いやまぁ良いけど。
けど彼らの様子を見る限りこの前見たのはほんの一部のようだ。
商人達は当然の如く依頼するが魔境産の魔物は屈強なものばかり。
売れるから依頼しているんだろうけど、採る側からすればたまったもんじゃないだろうな。
けど商人からすればこれは非効率。
ならば——。
「直接商人の元へ行く冒険者、いや元冒険者はいないのか? 」
私が言うと五人が一斉に首を横に振った。
あれ? 私の見当違いか?
「もちろん最初はそのような話が出てきました」
「けれどすぐにその話はなくなりました」
「え? 何で」
「冒険者業を辞めて商人の元へ行くとなると、――当然ですが、冒険者としての職を辞めることになります」
「そうだな」
「で冒険者を辞めるということは冒険者ギルドの庇護が無くなるということ」
「ウルフィード氏族方々には冒険者に同行する形で手伝ってもらっています」
「ウルフィード氏族の戦士達と共に戦えないと俺達はすぐに――」
「死ぬ」
ガラックとボルがきっぱりと言った。
なるほど。
確かにこれはきついな。
人狼族であるウルフィード氏族の戦士達は種族的に強者である。
感知能力もさることながらそのパワーにスピードは尋常ではない。
今は彼らが共に戦ってくれているおかげで何とか肉の調達が出来ているが、彼らと共に戦えないとなると浅層とはいえ魔境で活動できないということか。
「しかしよく商人達がそれで納得したな。粘ると思ったんだが」
「そちゃぁ納得しますとも」
「私達一人の力でないことを力説しましたので」
「ふむ。じゃぁウルフィード氏族の戦士達に話はいかなかったのか? 」
「行ったみたいですよ? 」
「けど断っとか」
「なんで? 」
「なんでも「姉さんとの約束をたがえる訳にはいかねぇ! 」とか「お姉様はつきますか? 」とかよくわからない事を言ったとかで」
理由がまさかの私関係だった……。
というか「お姉様はついてきますか? 」ってなんだ?!
困惑する商人の表情が思い浮かぶな。
彼らの判断基準が私になってしまっているのが悩ましいが、嬉しく思う自分もいる。
我ながら困った性格をしているなと思うよ。
「さ。着きましたね」
テレサの声に顔を上げるとそこにはレアの町の看板が。
話しているとレアの町に着いたようだ。
門番に軽く挨拶して中に入る。
今日は日帰り。目的の物を買ってすぐに帰るつもりだ。
それらをテレサ達に伝えて鍛冶工房へ向かう。
「いらっしゃい! って、エルゼリアさんじゃねぇか。どうしたんだ? 」
「やあ。今日はちょっとした買い物だ」
工房の中に入ると鉄の臭いと一緒に元気なおっちゃんの声が響いた。
軽く挨拶をして要件を告げるとおっちゃんは興味深そうな目で私を見た。
「弟子でもとるのか? 」
「ま、そんな所」
「レストランはその弟子に? 」
「いやそれはまだわからない。彼女が料理人の道を進むかもわからないしね」
「なのに教えているのか? 」
「自分でも変なやつだと思うよ。私は」
普通自分の工房や店を継がせる以外の理由で弟子をとることはあまりないだろう。
あるとすれば貴族とコネクションを作るために、弟子を作り派遣するくらいかな。
私みたいに曖昧な理由で弟子をとる料理人は少ないだろうね。
「ま、弟子をとる理由なんざ人それぞれだからな。俺が口を出すことじゃねぇな」
言いながら親方は調理器具の基本セットを持ってくる。
色んな種類の調理器具を広げたかと思うと「これでいいか? 」と確認してきた。
特に問題はない。
どれも一般的な調理器具だ、と思ったが……。
「これ刻印魔法が刻まれていないか? 」
「それはあっちの魔道具工房と一緒に作ったやつでな。一緒につけてやるよ」
「ありがたいが……、なんで? 」
「……最近お前さん達の町、リアの町で良い肉が手に入るようになったようじゃねぇか。それを切るためさ。この包丁に刻まれているのは
「それは良い案だ」
普通の調理器具と魔化が施されている器具の扱い方はかなり違う。
手入れの仕方も違うのだけれど、それを覚えさせるためにこれを渡した、ということか。
「他のセットと値段は一緒のようだが……」
「魔化が施されているといってもそこまで良いもんじゃねぇ。確かに初心者には十分すぎるが、練習にはどの道必要なことだろ? 」
「助かるよ」
「構わねぇよ。今度リアの町に行った時にでもうまいもんを食わせてくれ」
おっちゃんが軽快に笑う。
敵わないね。
これは突き返すわけにはいかない。今度竜の巫女に来た時にでもとびっきり美味しいものを振るってあげよう。
思いながらも支払いを済ませる。
あと何軒か店を周ってその日のうちに竜の巫女に戻った。
———
後書き
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