第107話 弟子育成計画 5 冒険者ギルドへ
一先ず服の発注は終わった。
服に関しては待つだけだな。
さて時間が余ったわけだが――。
「冒険者ギルドに行くのである! 」
「ギルドに? 」
「エルゼリアはアデルに調理器具を買いに行くのであろう? ならば早めに依頼を出していた方が良いのである」
確かにそうだ。
魔境で肉を仕入れることが出来るようになった。
だから今この町の冒険者ギルドは大忙しと聞く。
ならば先に指名依頼を出しておくのが良いだろう。
「ソウにしては良い案じゃないか。変な物でも食ったか? 」
「……それは流石に我に失礼なのである。我はこれでも役に立つのである」
「役に立たないなんて思ったことは……ないが」
「今さっきの間については何も言わないのである。我は「役に立つ」「空気の読める」
空気が読めるやつはそれを口にしない、と言いたいがそれを飲み込み冒険者ギルドへ足を向ける。
アデルに対抗意識を燃やしているのは分かるが、変な所で役に立とうとすると逆に失敗しそうで怖くもある。
今回ソウは確かに良い案を出してくれた。
けれどアデルと仲が悪くなるのではないかと少し心配。
チラリとアデルの方を見る。
何も気にしていない様子でスキップしそうな雰囲気で隣を歩いていた。
もしかしたらアデルの気にしていない態度もソウを燃え上がらせている原因の一つなのかもしれない。
けどこれはアデルが悪いわけじゃないし……。
というよりも何千年以上も生きている精霊獣が十二歳の子供にむきになるって……ある意味すごいよな。
「っとついたか」
「へぇ~。今こんな感じなんだ」
「最近来てないのか? 」
「ずっと働いてたり遊んでたりだからな」
いつもお馴染みの冒険者ギルドに着いた。
アデルはニシシと笑いながらこちらを見て、また興味津々といった様子で冒険者ギルドに顔を向けた。
それもそのはず。ギルド館は今まで以上に綺麗になっているのだ。
祭り前後は忙しくて気付かなかったがあとから聞いた話だと、祭りの時に外から人が来るからせめて見栄えだけでもと冒険者達が洗ったらしい。
清潔さというのはどの職業でも、どんな店でも重要だ。
町長の手の行き届かない町の雑用に防衛に関わっているギルドとなると尚更。
町の入り口付近にある冒険者ギルド館だと町の顔といっても過言ではないだろう。
よって掃除が行き渡っているのは重要である。
これは外観が豪華でなければならないということではない。掃除してあるか、だ。
ギルド館やそのほかの建物が清潔であるかどうかはその町がどれだけ余裕があるのかを示していると、私個人的には思うわけで。
「ん? あれ、なんだ? 」
アデルが何かに気が付いたようだ。
服を引っ張るアデルの方向を見るとそこには肩を組んでいる人狼族と人族がいた。
その後ろで大きな荷台を引っ張る獣人族が見える。
「恐らく魔境から帰って来たのである」
「魔境か! 」
「そうなのである。屈強な魔物が所狭しと住んでいる魔境である」
「うぇ~。行きたくねぇ」
「軟弱なのである。我ならば一瞬で殲滅することが出来るのである! 」
「すげー! ソウさんすげーーー!!! 」
「う、うむ」
キラキラとした瞳を向けれてソウが足にギュッと力を込めた。
アデルの純粋な賞賛が眩しいのだろう。
けれど仕方ない。
まずもってソウとアデルが行き違っているのだから。
これならソウの変な対抗意識が無くなるのも時間の問題かなと思いながらも、私はギルド館の中へ足を踏み入れた。
★
「では受け付けました。しかしテレサさん達の答え次第になりますのでご容赦を」
いつも同じみエルフ族の受付嬢が申し訳なさそうな表情をしてペコリと頭を下げて来た。
指名依頼でも厳しいか。
「やっぱり今忙しい? 」
「お肉が多く採れるようになりましたので……。その......商人からの依頼が多く」
嬉しいのか悲しいのかわからない、形容しがたい表情をして受付嬢は言った。
何でそんな表情をするのかと思いチラリと依頼ボードをチラリと見ると、そこには大量の依頼書が張られていた。
「もしかして周りの町も欲しがってる? 」
「……依頼書が全てです」
この町の近くに魔境があるとわかった。
それに屈強なウルフィード氏族達がついて魔境に肉を狩りに行くことが出来るようになった。
これによって肉の供給が過剰になったので周囲の町に流し始めた、と言う所か。
早すぎると思ったが、すぐにこの前の祭りの事が頭を過る。
祭りで使った肉は魔境産。
それを嗅ぎ取った他の町の商人が発注しているということか。
「町が潤うのは良い事だけど体に気をつけてな」
「ありがとうございます」
「あと肉の仕入れの注文なんだが」
「エルゼリアさんはオーガですか」
ガクリと肩を落として依頼書を作り始める受付嬢。
自分で採りに行っても良いが、どうせだから冒険者ギルドでの依頼の出し方も見せておきたい。
依頼を出すとなるとかなりのお金が吹き飛んでいく。
しかし食材も教育も必要なわけだから必要経費――。
「こちらにご記入ください」
言われて再度羽ペンを持つ。
シュッ、シュッと書いていると隣からアデルの気配がする。
料理に関しては見るようにとは言ったが、今回は言っていない。
私の意図を察したか。中々に利口だね。
「こちらも受け付けました。では後程——」
と説明し終えた受付嬢に手を振って受付から離れる。
一息つくために席を探すがくたくたの冒険者達で埋め尽くされていた。
「これは大きな怪我をしないか心配だ」
ふぅ、と軽く息を吐いて彼らの身を案じながらギルド館を出る。
レストランへ戻るために足を進めているとアデルが服を引っ張り私を見た。
「ん? 」
「一つ聞いても良いか……ですか? 」
「あぁ構わないよ」
「なんで肉を市場で買わずに冒険者ギルドに依頼したんだ? 」
至極真っ当な意見である。
少し高くても市場で買う方が依頼を出すよりは安いしね。
けどそれなりの理由がある訳で。
「今回依頼した魔物肉は少し特殊なんだ」
「特殊? 」
「普通の肉も鮮度が命のものもある。今回依頼した肉はその類で、出来れば早めに仕入れて調理するかソウの異空間収納に放り込みたいんだよ。だから直接採ってきてもらうように依頼したんだ」
「へぇ~。なんか肉一つでも違うんだな」
「そうだな。逆に時間を置いた方が美味しく出来上がる肉もある。だからどんな肉を使ってどんな料理を作るのかは、肉料理にとって重要なんだ」
「勉強になる! 」
それは何より、と微笑んで私は更に足を進める。
冒険者ギルドから大きな荷台が通る。
恐らくライナー達ウルフィード氏族が集団で中層に行ったんだろう。獲物に商人の顔がホクホクだ。
多くの人が行きかう中、ふとあることに気付いて足を止める。
「そういえばアデル達は読み書きとか計算は出来るのか? 」
「ふふん! これでも得意だぜ! 」
「それは凄いな。けど何で……」
「ジフの母ちゃん、ジニーナさんに教えてもらったんだ! 」
ジフの両親、ジルとジニーナは私と同じ長命種のエルフ族だ。
多分今まで生きてきた中で文字の読み書きや計算を勉強したのだろう。
それをアデル達に教えたと。
なるほど。これなら依頼書や商人とのやり取りを心配する必要はあまりなさそうだ。
変な業者に引っかからない限りは、だけど。
「頑張ったんだな」
「もちろん! 」
大輪が咲いたかのような笑顔で見上げるアデルを見て私も少し胸がポカポカするね。
あれやこれやと話ながら帰路に就く。
さ。まだ仕事はこれからだ。
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