第106話 弟子育成計画 4 テラーの元へ
朝食を終えてランチタイムを乗り越えた後昼食を摂る。
アデルが今まで以上に張り切っている姿は初々しいな。
独占欲から派生して変に対抗意識が再燃してしまったソウも珍しく片付けを手伝っている。
食器を壊されなっかヒヤヒヤしているが今の所は大丈夫そう。
「アデル。町に出よう」
「町? 」
「アデルの服を合わせに行く」
「服……。まさか料理用の?! 」
「まぁコックが着るような白い服、だな。かなり早いとは思うけど採寸だけしておこうかなと」
ロデやジフが寮に帰った後、アデルに言うとハイテンションで騒ぎ出す。
私はアデルを育てるのを放棄する気はない。それは彼女が本格的に料理人の道に行く行かなくても、だ。
アデルに買ってあげるというのはある意味自分の決意表明のようなものでもある。
彼女が嫌になるまでは、見守っていこうと考えているわけで。
流石にまだ彼女に包丁を持たせるわけにはいかない。
だからこうして少しでもモチベーションを保つ方法を取り組みたいと思う訳で。
それにコックの服を着ると自覚が出て来るもの。見て学ぶにしても従業員の服のまま行うのとコック用の服を着て行うのとでは気合いが違うだろう。
「さ、行こう」
「うん! 」
「我も行くのだ! 」
声をかけるとアデルだけでなくソウも大きな声を上げる。
バサバサッと私の肩を陣取ると肩の上で丸まってしまう。
言わなくても来るだろうに、と思いつつも言葉にせずそのまま仕立て屋テラーへ向かった。
★
いつもよりも機嫌のいいアデルを隣にして町を歩く。
思えばアデルと一緒に町へ出るのは初めてか。
思うと感慨深い。
一方ソウはどこか不貞腐れた感じを受ける。
いつものように隣から何かと文句を言っているのではないが、ムスッとした雰囲気が漂ってきている。
出来ればソウが早めに対抗意識を解いてくれると嬉しいのだけれど、そうは上手くいかないか。
全く困った精霊様だ。
「何か宿が多くなってないか? 」
アデルが見上げて聞いてくる。
言われて周りを見渡すと確かに宿が多くなっている。
単に多くなっているだけでなく人も出入りしているな。
「祭りの効果か」
「祭りの効果? 」
「この前の祭りでこの町の事を知る人が増えたからな。それで人が集まるようになったんだろう」
言うとアデルは「へぇ~」と興味深そうに周囲を見る。
まだ建設途中の建物もあるみたいだな。
これは宿だけじゃなくて食堂も出来そうない勢いだ。
「けど多すぎないか? 」
「それだけ余裕が出来たんだろうね」
わからない、という表情をするアデルの髪をくしゃっと触って軽く説明する。
この前この町に侵攻してきたグランデ伯爵家は潰れた。
高位貴族が潰れるようなことなんてあまりないのだけれど、あれだけの事をしたんだ。潰れても仕方がない。
潰れた影響でグランデ伯爵の取り巻きが一気に瓦解。
そしてこの領地を囲う包囲網が完全に崩れたというわけだ。
けど不自然なほどに動きが早かったのも事実。
怪しい所もあるけれど一先ずそれはおいておこう。
グランデ伯爵家の消滅により元グランデ伯爵領を纏めるものがいなくなった。
通常この場合だと貴族派閥から声が上がるのではないかと思ったが、この国の王様は領地復興を成し遂げたロイモンド子爵を伯爵に昇爵させてグランデ伯爵領を丸々吸収したらしい。
実績と言う点でみると確かに適任だ。
しかし荒れた領地の復興なんて罰ゲーム以外の何でもない。
まだ見ぬ憐れなロイモンド伯爵様に「ドンマイ」とだけ送り話を締めた。
「何か難しいな」
「まぁお貴族様の仕事だ。この町が活気に溢れることを素直に喜ぼうじゃないか」
「そうだな! 」
アデルは明るい表情をして先に進む。
駆け足で行く彼女に小走りで追いつき宿泊施設を通り過ぎる。
すると一軒の店に辿り着いた。
「はぁ~い。あれ? エルゼリアさんではないですかぁ~」
「やぁテラー」
「来たのである! 我、来訪なのである! 」
「こんにちはテラーおばさん」
「……ぁはぁい。こんにちはぁ~」
おばさんはダメだ。おばさんは。
まだその呼び方なおってなかったのかと思いながらもテラーに来た要件を伝えた。
「コックさんの服ですかぁ~」
「あぁ。ま、とりあえず採寸だけでもと思ってな」
「アデルちゃんはコックさんになるんですかぁ~」
「オ、オレは、その……」
テラーがゆったりとした口調でアデルに聞いた。
優しい瞳で見つめているが当のアデルはチラチラとこちらを見て挙動不審。
助け舟を出しておくか。
「コックになるかはこの先決めるだろうよ。将来アデルが何になるかはわからない。ま、将来の彼女に再度聞いてみてくれ」
「ではぁ~、明日聞いてみますぅ~」
「かなり近い将来だな」
「冗談ですよぉ~」
クスリと笑いながらテラーはアデルを手招く。
採寸を始める前に少しだけ注文を付けておくか。
「少し大きめに作っておいてくれ」
「大きめにですかぁ~? 」
「これから成長するだろ? 流石に毎年換えるわけにもいかなしね」
「分かりましたぁ。けどちょっとだけにしておきますねぇ~。お料理の邪魔になったらいけないのでぇ~」
「助かるよ」
軽く頭を下げるとアデルがテラーに連れられて行く。
その様子を見ながらぐるりと店内を見まわした。
店内は普通の衣服店のような感じだ。
メイド服が置いてあるのが若干気になるが、それ以外は至って普通だな。
少し歩き詳しく見る。
町の人が来ている一般的な服が殆ど。
けれど様々な種族が生活しているせいか種族特性に合わせた服も置いてある。
大体が一セットで売ってあるみたいだけど、同じ服でも種族によって幾つかに区分されている。
例えば有翼獣人のコーナーならば背中に翼を出入りさせる用の穴が合ったり、尻尾を持つ猫獣人や狼獣人ならばその大きさに合わせて出入りさせることができるような穴がズボンに開いている。
買う人は間違えたら困るだろうな。
この町で暮らしている人なら大丈夫だろうけど、新しく来た人とかは混乱しそう。
「終わりましたよぉ~」
奥からテラーの声が聞こえてくると私は足を止めて声の方を向く。
するとアデルが駆け寄って来た。
「服はぁ~、お届けしましょうかぁ~? 」
「そうだな。頼むよ」
「ではレストランの方へ送りますぅ~」
「ありがとう。じゃまたな。テラー」
「ありがとう! テラーおばさん! 」
「……ご来店ありがとうございましたぁ~」
アデルが若干いらない言葉をつけたした気はするが、まぁ良いか。
申し訳なくなり再度お辞儀をして、私はアデルを連れて店を出た。
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