第105話 弟子育成計画 3 アデルとソウ

 朝の仕込みを終えて私はアデルを連れて裏口に出る。

 ヴォルトがパンを焼いている良い匂いがする中、示し合わせたかのように卵配達の有翼獣人イアンがやって来た。


「おはようございます」

「おはよう」

「お、おはようございます! 」

「おや? 君は……」


 イアンはバサバサと白い翼を動かしながら荷台を置いて興味深そうにアデルを見る。

 二人は知り合いだったのか?

 まぁ同じ町の人だ。知り合いでもおかしくはない。


「確か昼にいた店員さん? 」

「おう! 」

「して今日は何でこんな早くに? 」

「エルゼリアさんに料理を教えてもらうためだ! 」

「それはそれは! 」


 イアンはどこか納得したような表情で大きく何回も頷いた。

 アデルはきょとんとしているがイアンはアデルを私の弟子と分かったのだろう。

 今回ここに彼女を連れてきたのはどんな人が私の仕事に関わっているか教えるため。

 言葉で教えるのもいいんだが、実際に見て見ないと誰がどんなものを運んでいるのかわからない。それに実感もわかないだろう。

 あと仕入れている食材の量や種類を教えるのもあるな。


「ではこちらが今日の分の卵と……、あとお酒になります」

「あれ? 酒類はイアンだったっけ? 」

「特に決まりはないのですが私の方でも取り扱うことになりました。私がこちらにもってくるのはエルムンガルドさんのお酒になりますが」

「あぁ……、エルド酒造は他から仕入れているから大丈夫だよ」

「畏まりました。では検品を」


 はいよ、と答えて荷台に近寄る。

 アデルを横につけて検品の様子を学ばせる。

 検品を終えて今月分の支払いを済ませてイアンを送った。


「あのおっちゃんが卵を持って来ていたのか。おっちゃんが鳥を飼っているのか? 」

「いや鳥……コッコを飼ってるのはエルムンガルドだ。彼はその中継役」

「ふ~ん」

「ぱっとしないが大事な役目だぞ? 幾らエルムンガルドが常識外れだからと言っても、町中に卵とか他の食材やフルーツを行き渡らせるのは無理だ。だから町の流通を担っている人達は重宝される」

「イアンっておっちゃんも凄いんだな」

「あまり目立たないけどな」


 実際問題エルムンガルドと町を繋ぐ「卸し」を担う商人がいないとここまで早くリアの町は回復しなかっただろう。


 確かにこの町一番の商人はコルナットだと思う。

 彼はイアン同様に町と他の農家と市場を繋いでいる。

 他にも彼は小物から大工道具まで様々な物を取り扱って、他の町まで影響を及ぼしている。


 コルナットが万能型とすればイアンは差し詰めエルムンガルド特化の卸しと言えよう。

 これはどちらかが優れているとかではなくどちらも重要なのだ。

 そういったことを話ながらレストランに戻る。

 キッチンへ入りまだ使っていないコンロを使い軽めの朝食をすぐに作る。


「オレが運ぶ! 」

「頼んだぞ」


 そう言いアデルは食堂に朝食を置きに行った。

 そろそろ他の人達も来るはず。

 アデルと一緒に朝を過ごしたが、特に遅れが出るようなことも無かった。

 これなら続けることが出来そうだ。


「おはようございます。……おや? 」


 キッチンから出てアデルと共に料理を運んでいるとヴォルトがパンを持ってきた。

 彼の目線の先にはアデルがいる。


「珍しいですね。おはようございます」

「おはようございます! ヴォルトさん! ヴォルトさんはいつもこの時間なのか? 」


 言われたヴォルトは少し首を傾げて私の方を見た。

 事情を話すと納得してアデルに向く。


「いつもはもう少し早いですね」

「もっと早いのか! 」

「パンを焼くには時間がかかりますからね。早く作れたらこうして持って来ているのですよ」


 ヴォルトが軽く自分の仕事を説明する。

 彼の一日は大忙しだ。

 というよりも私の知らない所で更に忙しくなっていた。


 ヴォルトがパンを作るのは朝と昼。

 余った時間で町に出かけたりエルムンガルドと会ったりと。

 これだけ聞くとそうでもないように感じるが内容が濃い。


 町に出ると言ってはいるが町に出るのは最近できた各農家へ指導を行うため。

 エルムンガルドと会うと言っているが、エルムンガルドの話を永遠に聞かされたり彼女を連れてどこかに飛んで行ったりとさせられているらしい。

 本人は大したことではないと言っているが、少なくとも私はこれだけの事を一日で行うのは無理だろう。

 時間的に。


「確かにスケジュールはみっちり詰まっていますが充実していますよ」

「充実しすぎだろ」

「はは。永遠の暇よりかはずっとマシです。過ごしてきた中で今ほど楽しい時間はありません」


 ならいいが、とだけ答えてヴォルトを誘導。

 店に出すようのパンを確認しているとソウが二階から降りてくる。


「最近我を蔑ろにし過ぎではないか? 」

「そんなことないよ」


 開口一番変なことを言い出した。

 宙に浮くソウは私にジト目を送り、そしてアデルを見つける。


「おはようなのである」

「おはよう! ソウさん」


 ライバル意識が再燃したのかソウの瞳に熱が宿っている。

 けどアデルはそれを気にした様子はなくいつものように挨拶をする。

 アデルをライバル視するのは良いけど邪魔だけはするなよ?

 昨日綺麗に収まったんだからそれで済ませてほしい。


「我の方がエルゼリアと付き合いが長いのである」


 ぼそっと呟いたかと思うとソウが私の肩に乗った。

 重さを感じて首をまわすと、ここは自分の場所だと言わんばかりに肩の上に寝そべり占領。

 思わない行動に頬を緩めて軽く撫でる。


 これは独占欲というやつだろうか?

 全くかわゆい精霊様だこと。

 ソウを起こさずにアデルと料理をしたことが彼を刺激したのかも。

 けど何度起こしても起きないソウも悪い訳で。

 しかし何度も機嫌を損ねる訳にはいかない。これからはもう少し強めに起こすとしようか。


「「おはようございます! 」」

「おはよう。ジフ、ロデ」

「おうおはよう二人共! 」


 アデルが腰に手をやり胸を張って二人に挨拶。

 すると二人共顔を見合わせて溜息をついた。


「アデルがすみません。エルゼリアさん」

「無理を、言ったかも」

「オ、オレは無理を言ってなんか……ないよな? 」


 自慢げな顔から一転、少し不安げな顔で私を見上げて来る。


「無理じゃないよ。大丈夫だ」

「ほら大丈夫だ! 」

「エルゼリアさん。無理だったら無理だと」

「アデルに振り回される、きついかも」

「お、お前達……。後で覚えてろよ」


 顔を引くつかせながらアデルが二人を睨みつけ怯ませた。

 危険を察知したのか二人はすぐに食堂へ向かうと玄関からウルリナとトルマの声がした。

 挨拶する二人を食堂に向かわせ私も席に着く。

 そして朝食を前に言葉を合わせた。


「「「恵みに感謝を」」」


———

 後書き


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