第103話 弟子育成計画 1 相棒

 一通り説明を終えた後軽く休憩をとる。

 特に質問がないかと聞いたが、今の所ないらしい。

 ま、今からあったらそれはそれで良い才能だとは思うが、知識のない状態だと無いのが普通である。


 昼を食べて眠くなっているのかソウが机の上で横たわっている。

 アデルがちょんちょんと面白そうにつつくとソウが寝返りをうっている。

 ……本当に怠惰になったなこいつ。

 苦笑を浮かべつつアデルを見ると彼女に変化があった。


「……なんか体格変わった? 」

「え?! オレ太った?! 」

「いやむしろまだ痩せていると思うけど」

「ならよかった」


 アデルも体型を気にするのか。これはこれで新鮮だ。

 彼女には言うと怒られそうなので言わないが、女性らしくなってきたと思う。


 私が来た時よりも凹凸おうとつが出てきている。

 今までは栄養失調気味だったから体に栄養が回らず同年代の女の子よりも成長が遅れていたのだろう。

 まぁおかげでロデやジフに「男子」と勘違いされていたのだから笑うに笑えない。

 性格まで女性らしくなってきているのは、食事とは別に余裕が出て来たからだと私は思うのだがね。

 総合的にここで働くようになって心身共に彼女が成長しているのだから今後が期待だ。


「今日の所はこの辺かな」

「エルゼリアさんありがとうな! 」

「そうでもないよ。じゃぁまた明日」

「うん! 」


 アデルが立ち席を戻す。

 私と話すために残っていたみたいだがそろそろロデやジフと遊ぶのがいいと思う。

 料理を教えるにしてもきちんと息抜きをとれる時間を作ってあげたいな。

 確か人族のこの時期というのは色々と大変だった気がするし。

 食堂の扉に向かうアデルを見てぼんやりと考えていると、その頃レストランの玄関の扉が開く音が聞こえてくる。


「こんにちは」

「今日もよろしくお願いします。エルゼリアさん」

「ウルル、ナトート。よろしくな。アデルは一先ず明日よろしく」


 アデルに手を振り見送ってディナータイムの準備に取り掛かった。


 ★


「人に仕事を教えるコツ、ですか? 」

「いきなりどうしたんで? 」


 遅い夕食を摂った後私は思い切ってウルルとナトートに聞いてみた。

 何せ初の弟子である。

 正直何を教えたらいいのかわからない。

 集団で暮らす人狼族なら技術を他の人に教えることがあっただろう。

 もろもろ事情を話すと二人は難しい顔した。


「流石に料理を教えたことがないので」

「いや料理じゃなくても良いよ。狩猟とかでも」

「基本見て盗む、でしたので」


 見て盗む、か。

 考えながら顎に手をやる。


 やり方としては知っている。よく鍛冶師がやる方法だ。

 確か手伝いをさせながら学ばせるんだったか。

 しかしアデルにそれが合うだろうか?

 もちろん今まで弟子を持った人達が築き上げた技術伝授の一つ。有効なのは間違いない。


 初めはみるだけで、徐々に包丁を持たせるという方法が良いのだろうか?

 合う合わないは人それぞれ。

 アデルにこの方法が合いそうならこの方法に限るのだが。


 順番はどうしようかと、コック時代の事を思い出しながら模索する。

 洗い物は皆に手伝わせている。だからこれは続けさせよう。

 包丁を持たせるようになったらみじん切りからはいって皮をむかせて……。


「決まったようですね」

「おっと悪い。没頭しすぎた。けど参考になったよ」

「ならよかったです」

「こちら。終わりましたよ」

「ありがとうな。ナトート」

「いえいえ」

「では私達はこれで失礼します」

「お疲れ様」

「「お疲れさまでした」」


 今日の仕事を終えて彼女達を見送った。

 レストランを閉めてキッチンをチェック。

 コンロに魔力が流れていないか確認してキッチンの中をこまめに見ていく。

 それも終えて一階の光球ライトの魔道具を消して二階へ上がる。

 部屋を開けると、――人間大の白い服を着たソウが長い白いコック用の帽子を被ってこちらに向いた。


「我も料理がしたい! 」

「却下だ」


 言いながら私は服を脱ぐ。

 寝る準備をしながらアデルに触発されたであろうソウを見る。

 すると諦めきれないのか金色の瞳を潤ませながらこちらを見る。

 ぐっ……。

 演技なのは分かっているがきついなこれ。

 服を脱ぎ終えソウの方を向き深く息を吐く。


「昔散々なことになったのを覚えていないのか」

「今なら……今ならできる気がするのである! 」

「何を根拠に……」

「成長……。そう! 成長した今の我ならば造作もないっ! 」

「と昔同じことを言った覚えがあるのだが」

「ぐっ……。しかし諦めんぞ! 」


 完全にやる気スイッチ入ってるな。

 この状態から戻すのは中々にめんどくさい。

 けれど明日からキッチンが悲惨なことになるのは避けたい。


「食べると作る、どっちが良い」

「無論食べるに限るのである! 」

「なら止めとけ」

「だが自分でも作りたいのである! 」


 ソウの気持ちは分かっている。

 けれどこれは了承できない。


 ソウが料理を作れるようになりたいと言っていたのは昔からだ。

 彼が本当に自分で出来るのならば任せているのだが、難しいのが現状である。


 ソウは強大な力を持った精霊獣でその力は計り知れない。

 その彼が微細な味の変化を嗅ぎ取ったり僅かな時間差や温度差で味が変わる料理が出来るだろうか?

 昔は出来るかもしれないとやらせたことがあるのだが……。

 軽くフライパンを持つだけでとってが無くなり、魔道具に魔力を込めると過剰に魔力を込められたせいで魔石が壊れ……、等々結果は散々だった。

 ともあれその時から私はソウに料理をさせていない。

 やりたい意気は買うが、それぞれには得意分野と言うのがある訳で。


「ソウは私を補助してくれているだろ? 」

「もちろんである! エルゼリアは我がいないとダメダメなのだから」

「私が出来ない事をソウが補っている。逆にソウが出来ない事を私が補っている。契約で結ばれているとはいえ、それ以上に堅固けんごな関係だと思っていたのは私だけか? 」

「そ、そんなことは無いのである! 親友、いやどこかの国で言われていたズッ友と言うやつなのである! 」

「安心したよ。なら料理は任せたまえ」

「うむ。よろしく頼むのである相棒エルゼリア

「あぁよろしく、相棒ソウ

 

 リアの町は変わりゆくが私達の関係はずっと前から変わらないようで。

 嬉しくもあり寂しくもある。

 私は寿命のあるエルフ。対してソウは寿命の無い精霊獣。

 私が生きている限りおいて行くつもりはないが、それでも不安が過ることはあるわけで。


 まぁともあれ今日の所はこれで終ろうか。


 お休み。


 相棒ソウ

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