第94話 いつも頑張る君達へ 2 これからもよろしく
アクセサリーや置物を買ってレストランに戻った。
ディナータイムの準備があるため今日のディナータイムの当番であるウルルとナトートが出迎えてくれた。
「お疲れさまです」
「何か珍しいものでもありましたか? 」
「珍しいもの、じゃないんだが……」
彼女達の目線が下を向いている。私が何か買ってきたのを察知したようだ。
これは彼女達に渡すものだ。
丁度良い。渡そうか、と思ったが顔が熱くなり腕が止まった。
……いざ渡そうとなると気恥ずかしいな。これ。
これを一人一人にやらないといけないのか?
いやいやこれは私のメンタルをゴリゴリと削りかねない。
なら全員一緒に渡す方がダメージ少ないんじゃないのか?
「……ウルリナやトルマは今日どっかにいってたりしないか? 」
「いえ? そんな話は聞いてませんが」
「なら……よし。二人を集めてくれ」
「何かありそうですね。わかりました。今すぐ二人を呼んできます」
「あとラビとアデル達もいれば一緒に呼んでくれるとありがたい」
「寮と家が近いので呼んできますね」
なにか気付いたのかもしれない。
気付かれても特に問題はないのだがやっぱり少し恥ずかしい。
彼女達が作業の手を止め呼びに行く中、私は熱を持つ顔を隠すように二階へと上がった。
★
竜の巫女の従業員を全員呼び寄せ食堂に集めていた。
立っている彼らを見ると「おもしろいことでもやるのか」と期待に満ちた瞳をするアデルに状況を読み込めずオロオロするロデ。ジフは「何かやるのか? 」と訝しめに私を見ているな。
ラビはというと能天気にぼーっと宙を見ているのだが、逆に今どんな感情なのか聞きたくなる。
彼らよりも一層大人なウルル達ウルフィード氏族の四人は背筋を伸ばしてニコリとしている。
年の功なのか落ち着いた雰囲気を出している。
――本当に多くなったな。
右から左へとぐるりとみるけど、感慨深い。
一から始めたレストランだったけど皆の支えがないと、ここまで繁盛できなかっただろう。
思うと目頭が熱くなる。
けれど我慢。不安にさせたらいけないからね。
「皆に渡すものがある」
「お。なんだなんだ。エルゼリアさん! 」
「コラ、アデル。いつも言っているけど言葉使い」
「今日くらい良いよ、ジフ」
「ま、まぁエルゼリアさんが言うのなら」
アデルは荒っぽい言葉使いをする癖はまだ抜けてないようだ。
しっかり者のジフからするとどうにかして直してほしいのだろう。
まぁこれがお客さんの前ならダメだろうけど今くらいは良いだろう。
「じゃ、早速行きますか。これだ」
皆を見て机の上に人数分の袋を置く。
「目の前にあるやつが自分達のものだ。受け取ってくれ」
頭に疑問符を浮かべる子供達に、「食べ物?! 」と意味不明な推察をするラビ。
四人に苦笑いを浮かべながらウルフィード氏族の四人を見ると、まだ中身を見ていないのに瞳を潤ませていた。
「げ?! ネックレス?! 」
「俺もだ。……綺麗」
「オラも」
ウルフィード氏族の四人を見ていると子供達が早速開けたようだ。
ジフとロデは光にかざし目を輝かせて覗いている。アデルは不満だったのか苦い顔をしていた。
けれど、知っている。
女っぽいものが苦手なアデル。けれど彼女は人一倍アクセサリーとか可愛い物に興味がある事を。
だからきっと彼女は寮に帰るとガラス細工のネックレスを身に着けて喜ぶだろう。
男友達二人がいる手前それを前面に出すわけにはいかないのだと思う。
その証拠にほんのりと頬を赤くしてちらちらと輝いているジフのネックレスを覗いているし。
「私達にまで……。ありがとうございます」
「受け入れてくれただけでなくこのようなプレゼントまで」
「ううう、姉さん……。もう言葉が出ねぇ」
「大事にします」
ウルフィード氏族四人組ことウルル、ウルリナ、ナトート、トルマにはブレスレットだ。
それぞれ腕に嵌めて喜んでくれている。
腕の大きさが合っているか若干不安だったけど大丈夫そう。
贈った甲斐があったな。
とほんわかしていると――。
「な、な、な、何で僕だけリプルの置物なんですかぁ?! 」
「嫌だったか? リプルの置物」
「いえとんでもございません! しかし皆と違うので……驚いただけです」
「本当か? 」
「……あと人参だったらもっとよかったかなって」
「残念ながら人参のガラス細工はなかったんだ」
「それなら仕方ありませんね。しかし何で僕だけ置物なんですか? 」
「……身に着けるものだとラビは転げて壊すだろ? 」
「そ、そんな頻繁に転げては……「今日も頭からすっころんでいたぞ? 」……、すみません。見栄を張りました」
大きく長い耳をしゅんとさせてラビが謝った。
それに苦笑して「あまりものを壊すなよ」とだけ注意をする。
返事を返すラビに子供達は冷めた目線を向け、大人達は残念そうなものを見る目で見ていた。
いつもミスばっかりするラビだけど彼女には彼女の良い所がある。
何事にも前向きなラビはこのレストランのムードメーカー。
「ま、持ち前の明るさで周りを元気にしてくれ」
「頑張ります! 」
「あと出来るだけものを壊す頻度を落としてくれると嬉しい」
「……善処します」
気分上昇からの急転降下。その様子に全員がクスクスと笑い場が和む。
ラビは笑う皆に反論するが、温かい目線が彼女に送られる。
これもまた「竜の巫女」の一日である。
「皆」
少し落ち着いた所で声をかけると、従業員がこちらを見る。
「これからもよろしく! 」
レストラン「竜の巫女」は今日も平常運転である。
★
「我は食べれないリプルよりも食べれるリプルの方がいいのである」
「食べれる方はいっつも食べてるだろ? 」
夜。
ソウにリプルのガラス細工をあげると、予想通りの返事が返って来た。
「ま、いらないのなら渡さないが」
「い、いらないとは言ってないのである! もちろん頂くのである! 」
ソウが机の上に置かれたリプルを小さな手で取る。
体程あるリプルの置物を持ち上げて自分の異空間収納に仕舞い込んだ。
「しかし中々の技術者だったのだ」
「だな」
「今度は我の置物も作ってもらうのである! 」
「いや体が複雑すぎて無理だろ」
「石像が出来るのである。我のこの美しい体をガラスで表現できない事はないのである! 」
「難しいとおもうけどなぁ~」
笑いながら服を脱ぐ。
下着だけになってベッドに入りブランケットを被り寝る準備をする。
「一層の事ガラスだけ手に入れて変形の魔法で……」
「それ作ったとして嬉しいのか? 」
「むむむ……。確かに美学がないのである。反省なのである」
「分かればよろしい。じゃ、お休み」
「お休みなのである」
これからもよろしくな。
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