第93話 いつも頑張る君達へ 1 ガラス細工
エレメンタル・フェスティバル・リア――略して
新しい料理を出すのはもちろん、祭り本来の「楽しみながら行う」という基本的なことを思い出した私はその足で町の中心部へ向かっている。
「レストランに帰ってとりかかるのではないのか? 」
「せっかく町に出て来たんだ。ちょっと市場を見に行きたい」
「我、聞いてない……」
「今言ったからな」
肩の上からしょんぼりとした声が聞こえてくる。
新しく料理を作るとして、ソウは早くそれを食べたいのだろ。
レストランを出る時の拒絶はどこへやら。
全くもって食いしん坊なことで。
基本的に私はレストランにいるか外で魔物を狩るかのどちらかである。
時折こうして町に出るが、あまり頻度は高くない。
よって機会があるごとに足を運ぶのだが、今回ソウは待ちきれなかったようだ。
今リアの町は変化の途中。
その変化に応じて市場に並べられるものが行くごとに変わっているから面白い。
少し時間を空けて町に行くのも私の密かな楽しみだったりする。
願うのならば今からでも遅くないから私の石像を撤去して欲しいのだがそうはいかないだろうな。
「はぁ」
と軽く息を吐き周囲を見る。
時間帯の割には人が多い。
彼らも私と同じようで市場に向かっているようだ。
人の流れに沿うように私も足を進めて市場に向かう。
市場に足を踏み入れると一瞬「ギョッ」と周りの人が私を見て、すぐに買い物を再開した。
「な、なんだ? 」
「……エルゼリアの銀髪が珍しいのではないのか? 」
「この町の人なら慣れているだろう? 」
「確かにそうだが」
若干引きつつも足を進める。
本当に何だったんだ?
一瞬見たと思ったらいつも通りに戻ってるし。
声をかけてくれる店の人も変わりないし。
周りを見ながら何かあったのかと少し心配する。
EFRのことだろうか? いや違うな。それなら直接相談にくるだろう。
この前暗殺未遂事件のことか? 町長の館に行った時ぞろぞろ引き連れ注目を浴びたのが原因か?
いやいやあのくらいいつものような気がするし……謎だ!
まぁ考えても仕方がないと言えば仕方がない。
聞けば教えてくれるのだろうけど聞く必要性も感じられないし、本当に困っている事なら直接私に言うか、町長を通じて相談に来るだろう。
町の人が困っているのならば手を差し伸べるが、困っていることがわからないのならばやりようがない。
気を取り戻して買い物をしようか。
と顔を上げて何か珍しい物でもないかと探していると
「……石像、出来つつあるんだな」
丁度広場の方に顔を向けた時、それが目に入ってしまった。
私を先頭に多くの種族が横並びになっている様子の石像だ。
口角が引き攣る感じを受けながらもよく見る。
すでに顔の部分は出来ているのか綺麗に彫られている。
なるほど。
そう考えるとさっきの注目の浴び方がわかるというもの。
しかし……、私はああいうものに詳しくないが、普通低い所から作り上げていく物じゃないのか?
「エルゼリアさんじゃないか」
「お。店主」
「この前はありがッ?! 」
声の方を見ると急に「ピカッ」と光が襲い腕で目を隠す。
目が慣れ開くといつものように露店が目に映った。
けれど前来た時と店構えが違う。
挨拶をし直し様子を見ながら店に向かう。
一番に目に映ったのは店の両脇に手で何かを招いている猫のガラス細工を二体。
あれは私が買ったやつと同じだ。
少し色が違うけど形は同じもの。今あれはレストランの受付台に飾ってある。
恐らくあれが光を放ったのだろう。
周りから猫の置物に差し込む光が反射して周りに光を放っている。
「今日はあまりお客さんいないのか? 」
「そんなことはないよ。これは第三段目だからね」
「そんなにも売れているのか」
「あぁ。これもエルゼリアさんのおかげさ。いやはや猫が招くのは運だけじゃなくてエルゼリアさんだったかね? 」
「そこはお客さんでは? 」
少し的外れなことをいう猫獣人の女店主に苦笑気味に話掛けながら広げられているガラス細工を見せてもらう。
前よりも品揃えが良くなっているな。
私でもわかるほどに多様になっている。
確か店主もEFRに参加するはずだたが……。
「もしかしてEFRを意識した? 」
「これは違うね。今売ってるやつは一般用さ」
「ということは他に? 」
「もちろんさ。やっぱ祭りだからね。特別で、楽しい物を作らないとね」
「はは。その通りだ」
本当に、その通りだ。
さっきまで私が忘れていたことを素で言ってくれる。
「町長は他の町の人達も誘うって話をしてたけど、集まりそう? 」
「出入りしている商人に聞くと、「まだわからない」、だってさ」
「いきなり祭りに参加しないかって言われても難しいか」
「急な話だからね。仕方ないよ。けど悪い感じではないらしいよ」
「というと? 」
「話しを聞くと店を出したいって奴らは多いらしい。けれどどうやら纏まらなくてね。要は間に合うか間に合わないかわからない、ってことみたいだ」
「町の評判が悪くて、じゃなくてよかったよ」
腕を組み「そうだね」と頷く女店主に笑顔で返して、再度品物を見る。
見るだけ、話すだけというのも彼女に悪い。
種類も豊富で値段も手頃だし幾つか見繕って行こう。
買うのはいいけど、私が身に着けるのもあれだな。
なら……、レストランの人達にでも買って帰るか。
「さてどれがいいか」
どれも良さそうだ。
ブローチにちょっとしたアクセントとしてガラス細工が嵌め込まれているものから、ネックレスもある。
置物もあるけどやっぱり身に着ける者の方がいいのかな?
「これとこれとこれと……」
どれが良いか考えながら選んでいく。
店主がそれを袋に詰めていく。
「ん? 二つは置物にするのかい? 」
「ラビは転んで壊しそうだし、ソウは変身する時巻いている部分が壊れそうだし」
「わ、我はそんなに大きくならないぞ?! 」
「今の数十倍以上になる奴がなにをいうか」
ソウが抗議してくるが無視をする。
店主は納得したのか何度か頷きにこやかに置物も詰めていく。
「あいよ。お待たせ」
「ありがとな」
「時々で良いから寄ってくれるとありがたいねぇ」
「市場に来る時は寄ってみるよ。じゃ、次は祭りで」
軽く手を振りながら私はその場を立ち去りレストランへ戻った。
———
後書き
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