第91話 悩めるエルゼリア 1 ヴォルト
第一回エレメンタル・フェスティバル・リアの会議を終えた翌日、私はむくりと起きて目を擦る。
朝には強い方だと思うが今日は眠い。
きっと最近濃密な日々を送ったせいだろう。
体にかけていたブランケットを少しずらすとそこには蒼白い竜を発見。
私が時々抱き枕にしているソウである。
人間大になるとほどよく私の腕に埋まって心地良いから抱き枕にしていたりする。
ちょっと尻尾が邪魔だなと思うのは黙っておこう。
起こそうかと思ったが、今回はやめておこう。
まぁここまで深く寝ている時は私が起こそうとしても無駄なのだが。
ソウを起こすことを止めてブランケットを持ち上げる。
それをソウにかけ直して私はベッドから降りた。
窓際まで行き、窓を開ける。
早朝の心地いい風が部屋に入る中私は
クローゼットに向かい服を取り出し鏡の前へ。
――白銀色の長い髪に蒼い瞳のエルフ族。
それが私の姿である。
鏡に映るエルフ族こと私は女性エルフにしては平均的な身長にすらりとした手足をしている。肌は白く、雪降る国「イナバ」でみた雪の様な肌をしているが、肉付きが良い体つきとは言えないな。
「いやいや。まだ成長の可能性も」
黒く薄いインナーの上から手で寄せる。
がすぐにラビがぴょんぴょんと走っている様子が浮かび上がり肩を落とした。
「あれは反則だろう」
ため息交じりに独り言ちながらも緑の上着に袖を通す。ボタンを締めて青いズボンを手に取ると片足を上げて黒いショーツの上まで上げた。
鏡の前で「よし」と気合を入れて白いローブを手に取る。
それを羽織り私は畑を見に行った。
今日も一日頑張ろう!
★
昼の仕事を終えた後、私は食堂で悩んでいた。
「何を出したらいいものか」
「EFRの出し物か? 」
机の上から見上げるソウに大きく頷いた。
エレメンタル・フェスティバル・リア――略して
長かったので頭文字をとったのだが……それはいいとして何を出すか本格的に困った。
「ん~~~? 」
「エルゼリアが悩むなど珍しいな」
「私とて悩むさ。町おこし、――いやこの場合は祭りか、をするんだ。いつもと同じメニューというわけにはいかないだろう? 」
「我としては新料理が待ち遠しいのである、が……。作ろうとして作れるものではないことは知っている。慌てず今回はいつもどおりでいいのではないか? 他の町の者も来る予定ならば、目新しい料理を見つけることも出来る。そこで新しい刺激を受ければいいと思うのだが」
ソウにしては珍しく私の新料理を待つという。
いやソウだから「他の町の料理」というのを楽しみたいだけかもしれないな。
今回子爵から援助を得ることは出来なかったが、ある程度自由にやってもいいというお触書を頂いた。
この町で開催して町の料理や商品を楽しんでもらう。
第一回はこういう方針で行こうと考えていたのだが、町長が周りの町にも出店の声をかけてみるとの事。
急な呼びかけなのでどれだけ集まるかわからないが、それはそれで面白いかもしれないとおもい私も賛成した。
「いやぁしかし出したいだろ? 新料理」
「他の町の者にとってはエルゼリアの料理は新料理だと思うのだが」
「そうかもしれないが……、やはり出してみたい」
「……好きにするが良い。我は美食を楽しむのみゆえ」
「っと逃がさんぞ? 」
机から浮こうとしたソウを掴み引き留める。
ギギギという擬音が出そうなぎこちなさで私の方を振り向いた。
「付き合ってもらうからな。新料理開発」
「ま、まて……」
「待たない」
「そ、そうだ。他の者達を見て回るのはどうだ? 」
その言葉に足を止める。
「他の者達を見て周る? 」
「そ、そうだエルゼリア。他の者達がどのようなテーマをもって店を出すのか調べると、新料理のヒントになるんじゃないのか? 」
焦っているのか口早にソウが説明する。
明らかに逃れるための言い訳だが、確かにその通りだな。
「なら行くか」
「わ、我はこれで……」
「発案者が逃げれると思うなよ? 」
にやっとソウに笑いかけ彼を鷲掴みにして、まずはヴォルトの所へ向かった。
★
「ヴォルトは何を出すんだ? 」
「
ヴォルトは作業服のまま振り返り私に言った。
EFRまでまだまだ時間がある。ソウの案で新料理開発の為のヒントを得るべくヴォルトの所へ行くことに。
レストランの裏口から出ると早速美味しそうな香りが漂ってきた。
ヴォルトもさっそく新作に取り掛かっているようだ。
「因みにテーマは? 」
「素朴ならがも多様なパン、といった所です。しかし何故
ヴォルトはパンを机に置いて私に向いた。
特に隠すことでもないので素直に答える。
「エルゼリア殿でも新料理に悩むことがあるのですねぇ」
「悩んでばかりさ」
「そのようには見えませんが? 」
「そうか? 」
笑みを浮かべてヴォルトに返す。
私はそんなに悩みの無い人間だと思われているのか?
それはそれでショックだが、振り返ると確かに直線的な行動に出ているから、仕方ないのか?
「今までの料理を、というのは求められている答えではありませんね。
「祭りだからな。日常が大事とわかりつつも、特殊なものを求めてしまうのは仕方がない」
「その日限定の料理というのも面白いと思いますねぇ。これならば次回、更に次回と「その料理」を求めて繋がっていくでしょうし」
「それに応じて「その日限定料理」が増えたりして」
「はは。有り得そうですから怖い所です。発明にしろ発見にしろ、無尽蔵ではないので」
「だな。最初の期待値を上げ過ぎるのも困りものか」
「しかし手を抜く気はないのでしょう? 」
「当たり前だ。その時に出来る最高の料理を振る舞う。これが私の信条だからな」
「美味いのである!!! 確かに素朴。しかしほんのりと甘い香りが食欲をそそり……む、これはフルーツ! 何種類ものフルーツが入っているのである! とろふわなパンから溢れるフルーツ!!! 彼女達が見事に溶け合っているのである!!! 」
ソウの声が響き、ジト目を贈る。
私の目線に気が付かないのかソウはヴォルトのパンを食べ続けている。
「……本当に、悪い。管理不行き届きだ」
「いえいえあれは試作品。レストランに出す予定でもありませんでしたし、まだまだ改良の余地があるもの。お気になさらず」
「なんと! これよりも美味しくなるのか! 」
「お前は自重しろ!!! 」
呆れ怒り溜息をつく。
ヴォルトが笑う中、私は礼を言って町に出た。
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