第89話 第1回エレメンタル・フェスティバル・リア 準備 1

 ロイモンド子爵領からヴォルト達が戻って来た。

 その間私達は特に何もなかったが、ライナー達ウルフィード氏族の皆が護衛に着いてくれていた。

 とてもありがたい反面町に出る時とても恥ずかしかったのもある。

 けれどとても嬉しくてやや複雑な気持ちだった。


 一度命を狙われた身である。

 慕ってくれている彼らの気持ちを考えると無碍にはできないが、今も護衛が着いている状態は少しやり過ぎな気もするわけで。

 そんな中、ヴォルトやエルムンガルドが帰ってきた。

 二人が帰宅した時私がホッとしたのは、この町での私の日常に彼らが組み込まれている証拠だろう。


「随分と若い領主殿でしたぞ? 」

「その言い方だと妾達が若くないといっているように聞こえるが? 」

「これは失敬」


 食堂で料理の片付けをしているとヴォルトが私にロイモンド子爵について教えてくれようとする。

 けれどまだ片付けが残っているから「ちょっと待ってくれ」と伝えて片付けのペースを上げる。

 片付けている時、ヴォルトがエルムンガルドにツッコまれていたが、少なくともエルムンガルドは「若い」とは思えないな。口にはしないが。


 昼食後の片付けを終えて子供達と別れた後、私も彼らの席に座る。

 ふぅと一息つくとタイミングを見計らってヴォルトが話し始めた。


「まずロイモンド子爵領ですがこの町よりも……、言い方は乱暴ですが荒れていましたね」

「それは物騒だな」

「誤解を招くような言い方で申し訳ありません。物理的に乱暴というわけではありません」

「発展途上、と言い換えた方が良いかのぉ」


 それならわかりやすい。

 ヴォルト達がロイモンド子爵領の領都に行った時、あまり出歩く時間はなかったはずだ。

 けれども、それでもわかるほどに荒れていたと。

 荒れていたというのは、リアの町と比べて「土地が」、ということだろう。

 よく考えれば農業系の技術者もいないだろうし、これから土地を作物が実る土地にさせるようとしている段階ということだと思う。


「ロイモンド子爵は事前に聞かされていたように女性の方でした」

「ぐったりとした黒ローブを引き摺れていったら驚いておったのぉ」

「そこからリア町長による状況の説明が入りまして」

「いやはや面白い物が見れた」


 カカカ、とエルムンガルドが機嫌よく笑う。

 面白いもの、か。

 どんなものか見てみたいがヴォルト達は言う気配がない。

 恐らくリア町長に関することだろうが、リア町長が教えないように言っているのかも。

 大概のことは話してくれるから、想像するに、ちょっと恥ずかしいことでも起こったのだろう。


「あの黒ローブ達はどうしたんだ? 」

「ロイモンド子爵に引き渡しました」

「必要な情報を抜き取った後刑に処されると聞いたのぉ」

「……因みにだが弱体化魔法は解除したのか? 」

「まさか、ですね。ワタクシが離れた後に暴れられても困るのでかけた状態で帰ってきました」


 もちろん説明は行いました、とヴォルトが言い私は深く頷いた。


 私を襲ってきた段階で捕まるとこうなる事は分かっていたはずである。

 事前に私の周りの情報を収集していただろうし、ヴォルト達の存在も知っていたはず。

 分かったうえで攻撃をしてきたのだから彼らに情状酌量の余地はない。


 今までどのくらい命を奪ってきたのかわからないがロイモンド子爵は甘い判断を下さないだろう。


 まぁどの道彼らの命は短いと思うが。


 彼らがもし闇ギルドに所属していたのならば組織から何かしらの沙汰が下されるだろうし、なによりヴォルトの減衰の魔法が強すぎた。


 私が黒ローブ達を見た時点ですで様々な弱体化魔法が施されていた。

 一つ一つは基本に忠実な魔法なのだが効果が桁違い。

 それぞれが相互に作用して動くのに必要な筋肉を削り取り、体内にある魔力を空中に放出させ、寿命を削っていた。

 一週間もてば良い方だろう。


「話しは変わりますが、行ったついでに町おこしの事についてお話してきました」

「おおっ! ヴォルト気が利く! 」


 少し身を乗り出してヴォルトに笑いかける。

 するとこそばゆいのか頬を掻いて少し顔を逸らしてしまった。


「……いつもは常識的なのに、ふと思い出すと場違いなことをするのは治ってなかったのぉ」

「もうこれは治りませんよ。諦めてください」


 カカっと笑っているエルムンガルドにヴォルトが言った。

 確かに場違いだな。

 想像すると笑えるシチュエーションだ。


 犯罪者、――それもかなり悪質な――を渡している時に町おこしの話を持ち出すヴォルト。

 きっと子爵は戸惑っただろうな。


「で話を戻すのですが今回ロイモンド子爵家として、町おこしのために援助は行えないとの事でした」

「まぁ当然と言えば当然の返事だな。作物が採れ始めたといっても軌道に乗せるにはまだまだ時間が必要だからな。資金もそっちに振り分けないといけないだろうし」

「ええ。しかし資金援助は出来ませんが許可は出せるとの事。一応許可書のような物を頂いて来たのですが」


 ヴォルトが突然出現した黒い空間に手を突っ込む。

 そこから一枚の紙を取り出し私に渡す。

 極小の異空間収納か。

 まぁ転移魔法が使えるなら異空間収納も使えるか。


「……よし。一先ずお墨付きを得ることができたという感じで一歩前進だな」

「援助が見込めないのですが」

「元から資金援助は計算に入れてないから大丈夫だ。自分達で行い、盛り上げる。その方が楽しいだろ? 」

「確かに、そうですね」

「そこに領主のお墨付きがあるのなら尚良しって所だ。勝手に「町おこしをしました! 」というよりかは「領主様が認めた町おこし! 」と言った方が、周りから人を集めやすいだろ? 」

「確かに。公式に認められるのとでは集まる人が違うでしょうし」

「加えるのならば集まる料理の品も違う」


 もちろん町の中だけで終わらせることもできる。

 けれど開くからには他の町から来てくれた方が嬉しい。

 私の希望が大分乗ったものだが、リアの町にも十分に利のある話だ。


 人が集まると物が売れる。

 それが今まで取引をしてこなかった町の商人の目に留まると商売が更にはかどるだろう。

 指揮ったり取り締まったりするのは大変だろうが、やりがいのある町おこしだ。


 紙を読み終え丸めて紐を括る。

 汚れないようにそっと机の端に置く。

 手を組みヴォルト達に向いて話を進めることにした。


「で町おこしをする上で次やらないといけないことがあるんだが」

「なんでしょうか? 」

「興味深いのぉ」

「それは実行委員会を立ち上げることだ」

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