第83話 人狼達と過ごす日々 6 リア町長の館にて

「……そのような魔物が」

「実物をみると肝が冷えましたよ」

「しかし大量に魔物肉が手に入ったおかげで肉事情は当分心配いらないかと」

「それだけが救いですね」


 リア町長がぶるっと体を震わせて受付嬢を見る。

 襲われていたら、を想像したのかもしれない。

 瞳に恐怖を宿らせ私を見るが、私に向けられたものではないと思っておこう。


「中層に入らないと出てこないから心配しなくてもいいと思うぞ? 」

「だな。普通に魔物肉を手に入れるだけなら浅層で十分」

「あそこなら町の肉事情は困らないだろう。むしろ外に出せるかもな」


 確かに、頷き浅層で出た魔物をリア町長に報告する。

 彼女の心労を少しでも減らすために話し合った内容を伝えよう。


「ウルフィード氏族の皆さんが冒険者についてくれるのですか。それはありがたいです」

「俺達は普通の人よりも感覚が鋭い。ヤバそうだったら逃げるようにするぜ」

「あぁ。俺達も危険をおかしたいわけじゃねぇしな」

「いやお前達は定期的に中層に行ってもらうがな」

「「「な……」」」


 ライナーの無慈悲な言葉が人狼達を襲う。

 人狼達は顔を引き攣らせ潤んだ瞳で私を見るが、すまない。力になれない。


「あ、姉さん」

「助けて下せぇ姉さん」

「さっきも言ったが私はレストランがあるからな。ライナーの事だから死ぬようなことはしないと思うから……その……、頑張れ」


 顔を逸らし頬を掻きながらエールを送る。

 その後話を詰めて会議を終えた。


 ★


 館を出てギルマス達と別れる。二人共若干顔が青かった気がするが、気のせいだろう。


 話し合いの結果、魔境で食料調達をする時は「町長から冒険者ギルドへ依頼」という形で冒険者グループに肉の調達を頼むことになった。そして一グループにつきウルフィード氏族の戦士を一人つけるということで話はまとまった。


 最初は町長が依頼するようだが、依頼方法が周知されてくると町長は手を引き精肉店や商人達に譲るとの事。

 肉を売るだけでかなりの利益が得られるはずなのだが、町長はしないようだ。

 まぁ今ですらオーバーワーク気味だから町の人に任せた方が効率的と言えば効率的だね。


「結局王城に行ったみたいだな」

「俺達のせいで申し訳ねぇが……」

「リア町長も言ってただろ? そう言う話しはしないようにって。ま、気楽にいこう」


 ライナーに声をかけて足を進める。


 リア町長が話の流れでこの前王城へ行ったことを教えてくれた。


 リア町長は緊張なくエンジミル国王に現状を口頭で報告できたようでなによりだ。

 まぁこの町には「王」と名のつくものが三人いるからな。慣れていたんだろうな。

 一介の町長が国王に堂々と事情を報告、か。

 彼女の胆力に驚き、上がった報告に顔を引き攣らせるまだ見ぬ国王を幻視した。


 けれどリア町長の勝負はこれから。

 是非とも腹黒社交パーティーの荒波を乗り越えてほしい。


「ん? あれは何ですかい? 」


 後ろから声が聞こえて来た。

 振り向き人狼の戦士が指さす方を見ると何やら大きなものがたっていた。


「巨大な石柱? 」

「叩く……、いや削るような音がするな」


 削る……。何か石像でも作っているのだろうか?

 

 確かあの石柱がたっているのは広場の方だ。

 何が作られているのか気になるな。


「行ってみるか? 」

「良いのか? 」

「気になるんだろ? 」

「……確かに気になるが。この後用事はないのか? 」


 言うと少し気まずそうに顔を逸らした。

 ……無いんだな。

 まぁこれからは肉の仕入れがライナーの仕事だ。

 無職ではない。


 ともあれ私達は広場の方へ行くことにする。

 町の人に呼び止められながらも広場へ向かい、それを見上げた。


「……なにを作っているんだ? 」


 私は見上げて呟き首を傾げた。

 本気でわからない。


 石像周りを見ると職人だろうか、大きな石柱に足場を組んでカンカンカンと石柱を削っている。

 目線を下に移すと大きな設計図のようなものを広げて指示を出している人がいた。

 ぐるりと全体を見渡すと種族はバラバラ。

 人族に妖精族、獣人族に一部人狼達も見える。


 ――本当に何をしてるんだ?


 最近まではなかったはずだ。


 分からずぼーっとみていると声をかけられた。

 私達に気が付いたドワーフ族の男性が手を振りながら近づいて来る。

 軽く手を振り返すと地図を広げている人族が私を見る。


「エルゼリアさんじゃないですか」

「あれ? 氏族長も」

「お前ら何やってんだ? 」


 呆れるような声が私の隣から聞こえて来た。

 ライナーもこれがなんだかわからない様子。

 私達が戸惑っているとドワーフ族の男性と人狼族の男性がやって来た。

 丁度よかったので何をしているのか聞いてみた。


「見ての通り「リアの町の救世主」としてエルゼリアさんの石像を作っている所だ」


 腰に手をやり自慢げに言う。

 ドワーフに追いついた人狼もうんうんと頷くが……、なんだって?


「せ、石像?! 」

「そうですとも。聞くところによるとエルゼリアさん主導で町おこしをするとか。ならば町の象徴となるものが必要でしょう? 町のもんと話し合ったのですが満場一致でエルゼリアさんの石像を作ることになったんですよ」

「な、な、な……」


 ま、町に私の石像が立つだと?!

 恥ずかしすぎる!!!

 というか聞いてない!

 確かに町おこしはしたいけれども! そう言う話はあるけれども!


 顔の血の気が引く。逆に男性は笑顔のままだ。

 

 これは……何か言っても止まらない雰囲気だ。

 それにもう作り始めている。諦めて現実を受け入れるしかないのか。


「……」


 ソウが無言で私の頭にポンと手を置いた。

 首を横に向けると笑いを堪えた顔でこちらを見てる。

 ムカつく顔だ。

 しかし……待てよ?


「……石像を作るというのは、わかった。わかりたくないが、わかった。がこの石どこから手に入れたんだ? 」

「ここから幾つか町を挟んだところにある町だ。前から石が採れるってことで「石の町」として知られていたんだが、最近さらに良い石が採れるようになったからってな。知り合いが「世話になったし」といってこっちに回してくれたんだ」

「へぇ。もしかして余ってたりする? 」

「聞いてみねぇとわからねぇが」


 とドワーフの男性は石像の方へ顔を向けて仲間に聞いてくれた。

 すると返事がすぐに返りニヤッと私を見る。


「あるそうだ。練習も必要だし……。ま、素人がたった一回で作れるわけないしな」


 ははは、と豪快に笑いながら説明してくれる。

 余りはある、か。それは良い事を聞いた。


「町のシンボルをたてるというのならソウを作ってみたらどうだ? 」

「な?! 余計なことをエルゼリア! 我は――「そりゃぁ良い。形は難しいが竜を連れたエルフ。これほどえるものはないだろうからな! 」、……」


 言うとドワーフの男性が乗り気で答える。

 仕返しをしてやったと、隣を見るとソウが慌てて自分の像をたてるのを止めるように抗議している。

 けれど集中モードに入ったドワーフの男性には届いていない。

 何やらブツブツと呟いて取り出した紙にソウを模写していた。


 覗いたが、上手い。


 模写のレベル半端ない、と思っているとソウの声が鳴りやんだ。

 男性も書き終え手が止まる。

 彼が顔を上げるとソウが一言付け加えた。


「町の救世主ということならば我やエルゼリアだけでなく、ヴォルトやエルムンガルド、ライナーの三人の王も作るべきだろ」

「おお! 確かにそうだ! 」

「ちょ、なんで俺まで?! 」

「……一人だけ逃げれると思うなよ? 」


 ソウが後ろを向いてライナーに告げる。

 確かに町の救世主という話になると私の活躍は微々たるもの。ライナーはこれからとしても、ヴォルトやエルムンガルドの尽力は計り知れない。ならば彼らの像もたてるべきだろう。


「……それなら他の種族もいれたらどうだ? ほら、色んな種族が手を取り合ってる町としては、だな」

「確かに!!! 」


 天啓を受けたと言わんばかりに男性が何やらメモを取り始めた。

 ライナーが言っていることは分かるが、自分の像を目立たせないためのような気もする。

 それでいいのか、人狼王。


 ひたすらメモを取っていたドワーフ族の男性だが、結局の所彼の一存では出来ないとのこと。

 なのでまた話し合って決めるということになって彼は戻っていった。

 出来れば私が目立たないようにしてほしいと思いながら彼を目で追うと、石柱の下で「おおおーーー! 」と湧いていた。


「……これは話がまとまりそうだな」

「出来れば石像自体を止めてほしかったんだが……。というよりも俺は巻き込まれただけなのに」

「いいじゃないか。ライナーが言った通り「色んな種族が手を取り合っている町」なんだから」


 言うと口を閉じて顔を逸らし頬を掻いている。


 ま、こういうのも良いんじゃないのかな?

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