第82話 人狼達と過ごす日々 5 冒険者ギルド・ギルドマスターの苦悩の始まり

 エレファント種を代表とした魔物を討伐して町に戻る。

 魔物達はソウの異空間収納の中。

 運びきれるはずがないので仕方ない。

 町の前まで行くと多くの人が出入りしている。


「賑やかになったな」


 ぽつりと呟きながらも、外からくる商人達と共に、町の門番に挨拶をして、賑やかな町並みを歩き、冒険者ギルドに入った。


「お疲れさまでした」

「帰って来たぞ」

「……本当に魔境でした」

「……もう行きたくねぇ」

「久々に良い運動をした」


 私とライナーを除く面々がネガティブな言葉を張りのある声で放つ。

 そのせいかエルフ族の受付嬢は「冗談が上手いですね」と笑顔で言っているが冗談じゃないんだよな、これが。

 彼女の返事に苦笑いを浮かべながら私達はギルドに備えられた椅子に座る。

 ライナー達も机についた所でテレサ達が依頼達成の報告を始めた。


「しっかし珍しい魔物ばっかいたな」

「長く放置されたせいだろうな」

「放置されただけでは説明がつかない魔物もいたが? 」

「となるとあの魔境の反対側に何があるのか気になる所だな。ライナー」


 椅子の背に体重を預けるライナーにいうと大きく頷いた。

 今回魔境で見られた魔物はオークやゴブリンのような通常種に加えてエレファント種がいた。前はドラゴンがいたことを考えると中々に厄介な魔境のような気がする。

 一言に魔境と言っても多種多様だ。

 今回のように珍しい種類の魔物がいる場合もあれば、単純に通常種を異常進化させる魔境もあれば。

 魔物肉分を手に入れるだけだから浅層で狩るだけでいいんだが、何かの拍子でレアなエレファント種が浅層にまでくるとこの町の冒険者では対処が難しいだろ。


「私はレストランがあるから間引きを頼んでも良いか? 」

「おう任せとけ。こいつらの訓練にもなるしな」

「ちょ……、待ってくださいよ。姉さんに氏族長」

「今日俺達いっぱいいっぱいだったんだ。そう簡単に倒せる相手じゃねぇって」

「倒したのをもってくると焼いてやるからそれで手を打ってくれ」

「「「わかりました! 」」」


 ウルフィード氏族の戦士達は嫌がっていたのにすぐにオーケーを出した。

 焼肉の事を思い出したのかよだれを垂らしている。

 現金なやつらだ。

 微笑みながらも立っている戦士達の後ろを見ると、テレサ達が私の方へ向かってきていた。

 報告を終えたようだ。


「エルゼリアさん。その……魔物を見たい、らしいのですが」


 若干顔を引き攣らせているテレサが聞く。

 まぁそれはそうだよな。

 魔境だったって報告されても証拠がないと信じられないよな。


「わかった。ソウ、行こう」

「ん? 俺もついて行こう」


 立ち上がりソウを肩に載せるとライナーも席を立つ。

 そして私達はギルドの外に出た。


 リアの町の冒険者ギルドには解体場という所がある。

 けれど倒した魔物が解体場に入らない事は事前に分かっていた。

 だからギルド館の裏側に移動して魔物を出すことに。


「これから何が始まるんだ? 」

「倒した魔物のお披露目らしいぞ? 」

「なんでわざわざ……」

「さぁ? 」


 一緒に着いて来た外野が騒ぐ。

 ウルフィード氏族十名以上が一緒に移動したから「何事?! 」と思って野次馬根性で着いて来たのだろう。

 着いて来るのは良いが仕事はどうしたのだろうか?

 今日は休みか?


「ではエルゼリアさん。よろしくお願いします」

「了解。ソウ」

「分かっているのである」


 気怠けだるそうにソウが異空間収納を発動させる。

 巨大な魔法陣が地面に展開されると周りからどよめきが走るが気にせず魔物を出した。


「な?! 」

「ちょ、なんだこれ?! 」

「まじか……」


 巨大なアダルト・エレファントが最初に出てきてしまったため、一瞬で私達に影が落ちた。

 暗くなる中どんどん出すと受付嬢が「ストーップ!! こ、この辺で一旦止めてください! 」と大声で訴えてきた。

 まだ半分くらいしか出していないのだがと思いつつ、ソウに頼んで展開していた魔法を止めてもらった。


「一先ずギルマスを呼んできますので……、呼んできますので少々お待ちください」


 そう言い彼女はギルド館の中へ走っていった。


 ★


「……これがアダルト・エレファントですか」

「あぁ。近隣の魔境で採れたやつだ。私の持ち込みじゃないぞ? 」

「近隣の魔境という言葉ほど恐ろしいものはないとおもうのですが……、にしてもこのような魔物が近くにいたとは」


 リアの町の冒険者ギルドのギルドマスターが口をあんぐりと開けて感想を口にした。

 彼がギルド館から出てきた時少し驚いた様子だったが受付嬢程驚いてはなかった。

 流石熟練のギルドマスターと思ったが、聞くとどうやら執務をしていた時巨大なアダルト・エレファントが窓から見えて、十分に驚いた後だったとの事。

 ギルマスは最初これがアダルト・エレファントとはわからなかった。

 なのでギルドに残る資料を片っ端から調べたらしい。


「アダルト・エレファントだけではありませんね……。ウィンドエレメンタル・グリズリーにキラータイガー……、それに見たことのない魔物も」

「あれはファイティング・コッコだな」

「コッコ……。人の身長程あるコッコとは」


 説明するとギルマスの顔が死んだ。

 確かにこのレベルの脅威魔物が近くにいたらと思うと気が気でないだろう。

 本当によく今までこの町が襲われなかったな。

 一体でも魔境から出ていたらこの町は壊滅していただろう。


「ま、こいつらは中層までいかねぇと出会わねぇ。もし出てきたら、任せな。俺達が何とかしてやるよ」

「おおお。頼もしいです。ありがとうございます! 」


 ライナーの言葉にギルマスが喜ぶ。

 私にはライナーの後ろで「え? 」と驚いたような表情をするウルフィード氏族の戦士達は見えない。

 頑張れ皆。


「では今後の事について話し合いと行きましょう。ささ皆さんこちらへどうぞ」

「魔物に関しては私達が切り分け処理をいたします。町長との話し合いにもなりますが、これから卸す肉に関しては冒険者ギルド・リアの町・ウルフィード氏族の皆さんのすり合わせで決めることになるでしょう」


 ギルド嬢が説明をしてギルマスが応接室に誘導してくれる。

 質素ながらも清潔感ある部屋で資料を作りながらギルドに魔境の環境、出現する魔物の報告。

 これからの事も踏まえて町長と話し合う必要が出て来たので、私達はギルマスとエルフ族の受付嬢と共に冒険者ギルドを出て、町長の館へ向かった。

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