第81話 人狼達と過ごす日々 4 アダルト・エレファント肉

 巨大なエレファント種を単騎で倒した後ライナーがウルフィード氏族の人狼達に魔物の相手をさせた。


「くそぉぉぉ! 」

「やってやるよぉぉぉ! 」


 なんだかんだでライナーの言うことを聞く人狼達。

 きっとライナーの事を信用しているからだろうと思う。

 決して断った後が怖いとかではないと信じておこう。


 けれどライナーは無茶を言っていない。

 相手はドラゴン種でもなく普通に「巨大な魔物」。

 飛んでいるわけでもなく地面に潜っている相手でもないので、決して無茶な相手ではない。

 攻略方法も、初見の相手は私とライナーが見せて倒しているので体格差だけが戦闘力差ではないことは明白。

 そして戦いは無事に終わった。


「おーい。起きろ」


 今日何十回目かの気絶をしたテレサ達を起こす。

 ぐったりと横たわっているが徐々に瞼を開けてぱちくりとした。


「……また気絶していましたか」

「みたいだな」

「というよりもこんな場所が近くにあったなんて」

「……本当によく気が付かなかったよな。お前達」


 少し呆れながら魔物達の方へ顔を向ける。

 そこでは十人ほどの人狼達が仕留めた魔物を背にしてぐったりとしていた。

 息も絶え絶えとはこの事だろう。


「……生きてる。俺達生きてるぞ」


 大袈裟なと思いつつも彼らに近寄りねぎらいの言葉をかける。

 ぐったりしつつも笑顔で手を振り返事を返す。

 まだドラゴン種を倒していない事は彼らには内緒にしておこう。


「まだ食べたらダメなのか? 」

「……何体か余分に倒しているから、食事にするか」

「おお! やっとか。やっとなのか! 」

「作ってやるから結界を張ってくれ。ソウ」

「任された」


 食事と聞いて張り切りだしたソウが結界を張る。

 血抜きを終えた食材を使って何を作ろうか。

 焼肉系は手堅いが……。

 チラリとウルフィード氏族の連中を見る。

 どこか期待に満ちた表情をこちらに向けている。

 肉か……。

 なら敢えてここは変な味付けをせずに素材の味を生かすとしようか!


 ★


 ゴォォォォォォォォ!!!


「「「おおおおおーーーー!!! 」」」


 幾つかに切り分けたアダルト・エレファントをソウがブレスで焼いている。

 豪快な音と共に肉の焼ける匂いがする。

 エレファント種の肉は焼いた時の温度によって旨味が変わる。丁度良い旨味を出す瞬間を見計らってブレスを止めさせないといけないので私は魔法で感覚を強化。


 まだだ……。まだ。


 肉質が変化する数歩手前で匂いが大きく変化する。

 よって私は『魔法効果増大: 嗅覚センス・オブ・スメル』で瞬間を逃さない。もちろん温度も重要だ。だから『温度測定メジャーテンプ』で深部温度を注視しつつソウにいう。


「今だ! 」


 声と共にブレスの音が止まる。遅れて芳醇な香りが一帯に漂った。


「これだこれ! ドラゴンステーキもよいがエレファントもよい! 」

「ソウ次の肉な」

「な……」


 今すぐに食べることができない事に絶望したソウを放置して皆に食べるように促した。


「いいんですかい? 」

「今が食べ時だ。私とソウは最後に食べるから良いよ」

「しかし……」


 とウルフィード氏族の戦士の一人が食べたそうにしているソウを見上げる。

 私が見るとソウが「その通りだ」とばかりに目線で訴えてくる。

 けれど却下だ。


「結局の所私達は最後までやらないといけないんだ。だから順番に食べると良いよ。それとも……ずっとここにいたいか? 」

「すぐにいただきます! 」


 私が言うと彼らは切り分けられた肉に飛びかかっている。

 切り分けられたといっても大きいが。


 少しだけ様子を見ると渡した包丁で丁寧に外側から削っている。

 大丈夫そうだなと安堵して次の肉へ取り掛かることにする。


「さ。今回の分を焼いて食べようか」

「わ、我もあの肉……」

「ソウは丸ごと食べるだろ? 今は我慢」

「分かったのである! 」


 ソウは丸ごと食べれると知って目を輝かせて次の目標を定め始めた。

 全くもって現金な精霊様である。


 ★


「では頂きます」

「頂くのである! 」


 切りわけられた肉にフォークを刺す。

 芳醇な香りを漂わせる薄い肉を口に入れる。


「おっ! うまうま! 」

「美味である! 」


 噛んだ感触が無かった。


 とろけるような歯応えに心躍らせながらもじっくり味わう。

 芳醇な香りが口の中に「ぶわっ」と広がり自然と喉を通過する。

 一切れ食べ終わり余韻を楽しむ。

 口の中では穏やかだが体の中に入ると暴れん坊なエレファントの焼肉を堪能して次の一切れに移る。

 隣のソウはもう一体に取り掛かっていた。


 今回食べる分を堪能した後ライナー達の元へ向かう。

 私達は楽しんだが彼らはどうだろうか?

 楽しんでくれていると嬉しいな。

 そう思いながらも近付くと何やら倒れている奴らが見えた。


「……どういう状況? 」


 俯き加減で腰に手をやり立っているライナーに聞くと、私の方へ振り返り苦い顔を浮かべた。


「エレファントの焼肉に感激しすぎて倒れた」

「……気持ちはわからなくないが大袈裟じゃ? 」

「大袈裟なら倒れてない」


 確かに、と思いつつも彼らを遠くから注意してみる。

 顔には「満悦」と書いたような表情で瞳を閉じている。

 その様子にクスリと笑いライナーにこれからどうするか聞くことに。


「まぁ……報告、だよな」

「するしかないだろうな。ドラゴン程ではないけど貴重な魔物が多かったし」

「だな。食べれるものかどうかはギルドか町に判断してもらうことにしようか。それともエルゼリアが決めるか? 」

「私の基準で決めていいのならやるが……」

「ある程度一般冒険者でも倒せるような魔物じゃないとダメだろ」

「確かに。けれど、ま、今回はドラゴンが出なかっただけマシということで」

「ドラゴンが出るのか?! 」

「出たなぁ~」

「マジか。飛ばれたらこいつらじゃ、ちと難しいか」


 顎に手をやり考えるライナー。

 というよりもこの面子メンツで食材調達させる気なのか。


「冒険者にウルフィード氏族の人材を何人か付き添わせたらどうだ? 彼らならドラゴンの気配を察知できるだろ? 」

「それは良い案だ。俺達も冒険者も、被害を最小に抑えることができる。あとは倒す魔物をどうするかだが……」

「冒険者につけるときは一般冒険者でも倒せるものを、氏族集団で動くときは少し欲張るのもいいんじゃないか? 」

「そうだな。あとはちょっとドラゴンに慣れさせれば……」


 なにやら不穏な言葉が聞こえたが気にしないでおこうか。

 これなら冒険者ギルドや町が定期的に魔境の魔物肉を仕入れることができる。

 一番困るのが不測の事態だけど、感知に優れている彼らならそれを最小に抑えることができるだろう。

 あとは冒険者ギルドで議論ということにしてもらおうか。


「じゃぁ行くぞ。テレサ」

「……はっ?! あまりのおいしさに気を失って」

「……吃驚」

「毎日くらい食べてぇ」


 テレサ達を起こして出口に向く。

 リアの町に戻り、そして冒険者ギルドへ戻るのであった。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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