第80話 人狼達と過ごす日々 3 魔境と大型魔物
「うぉぉぉぉ。サクサク! 」
「……美味しい」
「リプルに合わせているのでしょうか。パンもいつもより固めですね」
粗方準備を終えると子供達が来たので朝食を摂っている。
メニューはもちろんヴォルトが出した焼きリプルトースト。
「……これ俺達が先に食べると後で怒られやしないか? 」
「だ、大丈夫よ。それよりも食べましょう? 」
元気よく子供達が焼きリプルトーストに食いついている中、ウルリナとトルマが戸惑っている。
彼女達が食べるのに
けれど甘い香りが食欲をそそるのかお腹が元気よく鳴いていた。
「まぁ試食と思って食べたらどうだ? 」
二人に向かって言うとごくりと喉を鳴らした。
二人の気持ちは分かる。
かなり美味しそうな匂いを出しているからな。しかしこのままではせっかくの出来立てアツアツのパンがもったいない。
机の上で遠慮なくパンを口に運んでいるソウを少し見習ってはどうだろうか。
「……では」
「試食、ということで」
まるで自分に言い聞かせるようにパンを手に取った。
同時に私も一切れパンを手に取って口に運ぶ。
「あっっまっっっ! けれどシャキシャキだな」
「甘さもそうですが食感も素晴らしいですね」
「流石ヴォルトさんです」
「喜んでいただけ何よりです。これは先日エルゼリア殿が焼きリプルを作った際に思いついたもので――」
とヴォルトの解説が始まった。
私の料理がこの美味しさの一つに貢献できていると考えると感慨深い。
嬉しく思いながらも更にガブリとパンに食いつく。
焼きリプルのシャキッという感触とパンのサクッという感触がする。
ジフが言った通りパンは固めにしているようだ。
甘さもそうなのだが、食感も楽しめるようになっている。
これは二重に美味しいな。
食べていると甘い雫が唇から出る。
おっと、とそれをペロリとなめとり最後の一口を食べ終わる。
ヴォルトの声が聞こえなくなったと思い彼の方を見ると、私が焼きリプルトーストを堪能している間に解説が終わったようだ。
「この一品は私一人では作れませんでした。エルゼリア殿のおかげですね」
「それをいうのなら甘く美味しい朝食を食べることができたのはヴォルトのおかげだよ。お互い様、お互い様」
言うと頬を掻きながら皿を片付け始めた。
ヴォルト褒められ耐性が低すぎ。
目を移し周りを見渡すと全員食べ終わったよう。
けれど空気を読まない精霊が一体。
「おかわりなのである! 」
「もうねぇよ」
がーん、と顎を大きく開けるソウを放置して、私はレストランを開けた。
★
新作パンが次々と出てくる中、私は私で幾つか料理を完成させていた。
リア焼きにエンジミル・ビーンズにと。私の異能でみた食事の数々である。
意外にも一番苦労したのはリア焼きだ。
リア焼きは焼き加減もさることながらつけるタレにこだわった。
まだ熟年の技といえるアロムさんの味には敵わないが、私はタレのバリエーションを工夫して様々な味を楽しめるようにして見た。
私が作ったタレの特徴はフルーツを材料として使っている所。
これによりアロムさんの辛めのタレよりも甘さが出るようになった。
リア焼きを出す時タレはお好みにしようと思う。
辛いものから甘いものまで、自分の舌に合ったものを選んでもらうのが一番だ。
そんなこんなのある日の事。
私はテレサ達やライナーが率いるウルフィード氏族一同と共に町の外に出ていた。
「ほ、本当に行くのですか? 」
「一応レストランに入ってくる肉は自分の目で確認しておきたいしね」
「帰っても良いですか? 」
「……絶対に足手まといになる」
「そうしてやりたいのは山々だがギルマス直々の調査依頼だろ? ボル達だけで行くよりかは私達がついていた方が良いと思うんだが」
「ですよねぇ~」
私が言うとテレサ達が肩を落とした。
私達が今向かっているのは魔境。
つい最近まで魔境指定されていなかった森である。
ライナー達は魔境で肉を採りに、テレサ達は「本当に魔境なのか」や「住んでいる魔物の調査」を行うために、こうして向かっている。
因みに私は自分の目で肉を見定めるためについて行っている。
本当は行きたくないがやむなしだ。
「し、氏族長。浅い所で帰りませんかね? 」
「なに弱気な事言ってやがる。その持て余した力を発揮するところじゃねぇか」
「持て余していませんって」
「この前また殴り合いをしていたやつが何を言う? 」
「「ぐっ……」」
ウルフィード氏族の皆さんも乗り気ではないようだ。
私達よりも感覚に優れている人狼族。
恐らく魔境から何か感じ取っているのかもしれない。
「大丈夫だ安心しろ。骨は拾ってやる」
ライナーがとても安心できない一言を放つと私達は魔境に着いた。
★
「Paooooooo!!! 」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 」
「今日が命日なんだ……」
「……祈りを」
ズンズンズンという大きな音を立てて見上げる程に巨大な象型の魔物が向かってきている。
私達を見つけた瞬間から巨大な鼻を左右に振って木々を薙倒して向かってきていた。
「ん~エレファント種のどれかだと思うんだが」
「歳もかなりいってるな。エルダーまでいってるか? 」
「流石にそれはないだろう。いくら魔力が豊富な魔境で育ったとはいえ、よくてアダルトだと思うが」
「まだか。まだ倒したらいけないのか?! 」
「お三方は何でそんなに冷静なんですか! 」
「逃げましょうよ。不味いですってあれ! 」
私とライナーが観察する中、人狼達も焦りながら訴えて来る。
けれどこの程度で戸惑っていたらドラゴンの相手は出来ない。
やろうと思えば彼らだけでも倒せると思うのだが、自分達の三倍以上ある体格に怖気づいたのだろう。
軽く恐慌状態になっている。
「ソウ」
「……仕方がない」
本来の大きさに戻っているソウが溜息をつきながら物理結界を張った。
その瞬間巨大な鼻が結界を襲う。
ズドン!!!
「「「ひぃぃぃ! 」」」
「この程度でビビる事はないと思うんだが」
「あ、姉さん。こ、これどうするんで……ひぃ! 」
涙目な人狼が聞いてくる。
彼らが聞いて間も鼻による攻撃は止まらない。
むしろスピード上がっている。
フラストレーションが溜まっているようだ。
「はぁ。最初は私がやるか」
「良いのか? 」
「頑張れば彼らでも倒せると思うんだが、普通のエルフでも倒せると見せておいた方が良いだろ? 」
「普通じゃねぇと思うんだが……、ありがたい」
「聞かなかったことにしてやるよ」
軽く微笑みながらライナーから魔物に視線を移す。
「まずは講義といこうか。ソウ。私だけ結界の外に出してくれ」
言うとソウが頷き一部結界を弱める。
魔杖を握り外に出る。
後ろから心配する声が聞こえてくるが気にせず自身に強化魔法を重ね掛けする。
「巨大な魔物を相手する時の基本は攻撃を喰らわない事だ」
言いながら加速する。
相手も私に気が付いたのか大きな鼻を振り回してきた。
「当たらないよ」
右に左に攻撃を仕掛けてくるがそれを大きく回避しつつ足元に魔法を放つ。
「魔法効果増大・魔法範囲拡大:
青白い魔法陣を展開させて四本の足を氷で固める。
急に周りが冷え、足が動かない事に気が付いたのか、無理やり足を動かそうとするが――。
「それは悪手だ」
「Paooooooo!!! 」
痛みゆえか苦悶の表情を浮かべながら体を仰け反らせて頭を上に向け悲鳴を上げる。
けれども私は待たない。
加速したままタタタと脚を登り軽くジャンプして背中をとる。
「大型の魔物は背中をとって倒すのが一般的だ」
言いながら首元まで走り魔杖を突き立てる。
「魔法効果増大・
槍を形どった白い電撃が魔物の首を貫いたかと思うと、「ズドン」と大きな音を立てて倒れた。
軽くジャンプして私は着地し「こんな所だ」と言いながら人狼達の所に戻る。
「……俺、一生姉さんには逆らわねぇ」
何か聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がする。
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