第79話 人狼達と過ごす日々 2 焼きリプルトースト

 ディナータイムも終わり賄いを食べ皆で片づけをしていた時、ふとラビがウルリナとトルマに聞いた。


「そう言えば人狼族って金属が苦手と聞いたことがあるのですが……」

「突然だな」

「いえ鉱山に行っても大丈夫なのかなって」


 心配そうな顔でラビはウルリナ達に向く。

 彼女達はラビが本気で心配していることを感じたのだろう。

 笑顔を浮かべながらラビの問いに答えた。


「それはデマですね」

「なので大丈夫ですよ」

「よかったです~」


 へにゃぁ、と体を拭きたての机に伸ばすラビ。

 もっと聞き方があるんじゃないかと思うが彼女の優しさに免じて今回は見逃そう。

 ラビは思ったことをそのまま言ってしまう癖がある。

 直してほしいとは思う一方で、その表裏おもてうらの無い性格を好ましく思ったり。

 もちろんこの性格がいずれ好ましくない事に繋がることは明白だから、少しは口を閉じる練習をして欲しい。


「ラビ。そこまた拭けよ」

「えええ~~~。今拭いた所なのにぃ」

「そしてすぐに汚したのはラビだろ? あぁウルリナ達は手伝わなくていいから」


 今すぐにでも手伝おうとするウルリナ達に釘を刺す。

 優しいのは良いが、甘やかすのはまた違うからね。


 私は自分の場所を拭き終わりラビを見る。

 渋々と言った感じでラビが机を拭いているが丁寧にやっている。

 ドジは多いが彼女は綺麗好き。

 ドジ属性をどうにかしたらもっと良くなるんだがと思いつつも、今日の仕事を終えた。


 ★


 朝起き暗い中服を着替える。


「ソウ。朝だぞ」

「フルゥティィィ! 」


 ベッドの上で寝る精霊様はまたおかしな夢を見ているようだ。

 今日に始まったことではないが私のベッドで寝るのは如何なものかと。

 ミニマムサイズだからいいものの、サイズが大きいと狭くなる。

 まぁその時はソウを抱き枕にするのだが、兎にも角にも起きてほしい。

 けれど何度呼び掛けてもソウは起きない。


「仕方ない。一人で行くか」


 白いローブをひるがえし私は扉に向かう。

 今日の朝は畑を見に行くだけ。特に護衛はいらないだろう。それに寝ていても私に危機が迫ると察知して飛んでくるし放置の方向で。

 しかしまぁ最近ソウの眠りが深い気がする。

 ちょっと前は声かけるとすぐに起きていたのだが、最近はその様子もない。

 きっと夢のせいだなと考えるも、寝る必要のない精霊がどんな感じで夢を見ているのかとても興味深いが知る方法もない訳で。


 思いつつも扉を閉める。

 廊下にある光球ライトの魔道具に魔力を流して光を灯す。

 レストラン中が明かりに照らされ私の影を作る中、階段を降りて一階へ行き、そのまま裏口からレストランを出た。


 レストランを出ると香ばしい匂いが漂ってくる。

 少し顔を上げると白い煙が立っている。

 ヴォルトがパンを焼いている匂いだ。

 今日も美味しいパンを作っているのだろうと思いながらも、すんすんと匂いを嗅ぐといつもと違う。


「何か新しいパンでも開発しているのか? 」


 研究熱心なヴォルトの事である。

 もしかしたら色々と研究しているのかもしれない。

 しかしこの甘い匂い。

 何を作っているのか楽しみだ。


 パン工房を後にして畑に向かう。

 暗い中魔杖を掲げて光球ライトを発動させて光を灯す。

 少し強めの光源にあてられながら先に進むと見慣れた光景が広がっていた。


「おはようございます」

「あ。エルゼリアさん」

「姉さん! おはようございます」

「お姉様おはようございます! 」

「あぁ。おはよう」


 光で私に気が付いたのか畑の管理人アデムさん達と最近畑で働き始めた人狼達が私に声かけた。

 私も挨拶を返しながら彼らに近付く。

 仲良く畑の様子を見ている彼らを見てほっと一安心した。


「朝早くからどうしたんですかい? 」

「まさか何か困りごとでも?! 」

「そうじゃないさ。朝目覚めるのが早かったから様子を見に来ただけだよ」


 突然な行動に出るとこうしてすぐに心配してくれるのはありがたいが、本当に何もない。

 ただ彼らが上手くやっているか気になっただけだ。

 私が心配性なのか過保護なのか。

 大丈夫だとはわかっているんだけどね。


「こっちは大丈夫そうだな。人参畑は……どうなってる? 」

「すくすくと育っていますよ。そろそろ収穫できるかと」

「ラビが喜びそうだ」


 少し濁しながら尋ねると、アデムさんが「確かに」と笑いながら言う。

 ラビの事だ。自分で育てた人参ということもあってんで喜ぶ姿が目に浮かぶ。


 一通り畑の状態を教えてもらう。

 今の所問題なしと。

 様子見とチェックを終えて後を任せる。

 彼らに背を向け私はレストランに向かった。


「おはようございます。エルゼリア殿」

「おはようヴォルト。新作パンか? 」

「ええ。今回は焼いたリプルを合わせてみました。朝食にでもどうぞ」

「頂くよ」


 裏口へ回りレストランに入ろうとすると、ヴォルトが香ばしくも甘い匂いを漂わせて現れた。

 手に持つ盆を覗くと白いパンの上に少し泡立つリプルが載っている。

 美味しそうだなと思いつつも自重してヴォルトと共にレストランに入る。


「っと! 何だソウか」

「何だ、ではない! ヴォルトのパンを独り占めしようとしたな! 」

「そんなことないさ」

「ならば何故我を起こさなかった! 」

「起こしても起きなかったからだよ」


 甘い匂いで起きたのか激おこなソウが食いついてくる。

 この様子だとソウは本気で私が独り占めしようと勘違いしたようだ。


 チラリとヴォルトを見ると面白そうにこっちを見ている。

 いつもの光景とはいえいかれる精霊様の相手はめんどくさい。

 できれば助けてほしいのだが、微笑ましいようなものを見る目でこちらを見るヴォルトを見て諦めた。


 軽く嘆息して宙に浮き前に立ちはだかるソウを軽く手で避けて中に入る。

 ヴォルトも後ろをついて来る。

 私の返事に納得がいかないのかソウが更に食いついて来るがヴォルトに頼んでパンを一つ貰った。


「ほらこれでも食ってろ」

「――だから……、むごぉ?! 」


 ソウの口にパンを放り込む。

 ソウは少し硬直した後頬を緩めつつもぐもぐと口を動かす。

 ゴクリと飲み込んだあとバサリと軽く翼をはためかせて私の前を一周した。


「焼いたリプルの甘さがパンに染み込んでいるのである! 美味! 真に、美味である!!! 」

「好感触のようでなによりです」

「ソウが言うのなら本当に美味いんだろうな」

「馬鹿を言えエルゼリア。これは本当に美味い。とろふわなヴォルト製白パンにシャキシャキ感が残る甘いリプル!!! 反則級の美味さなのである! 」

「それは気になるな」

「ならばおひとついかがですかな? 」

「とても魅力的な提案だが朝食にとっておくよ」


 今だに上機嫌に宙を舞うソウを見ながらヴォルトに答えた。

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