第4章:第1回エレメンタル・フェスティバル・リア
第78話 人狼達と過ごす日々 1 スクランブルエッグトースト
「じゃぁ行ってきます、姉さん! 」
「「「行ってきます!!! 」」」
「おう行ってこい」
人狼達がつるはし片手に、私に手を振った。
彼らは最近この町に住み始めた人狼達である。
毛深い体にもふもふ尻尾。服は仕事用に町から支給されたものを着ておりキメている。狼顔で強面だけど良い奴らだ。
あの人狼グループはこれからエルムンガルドが見つけた鉱山で働くグループ。
住民達と円滑な関係を結んだ彼らならこれからも大丈夫だろう。
保護者でもないのに何を考えているんだ、と苦笑いしながら私はレストランへ向かう。
朝の仕込みが終わった所だったがやることは多い。
「今日はよろしく。ウルル、ナトート」
「「よろしくお願いします! 」」
レストランに入ると人狼の男女が笑顔で返事を。
先日雇った人狼達だ。
女性の方がウルルで男性の方がナトート。
他にもウルリナという女性人狼とトルマという男性人狼が働いているのだが、今回ランチタイムに入るのはウルルとナトート。
当初彼らの雇用はディナータイムだけだった。けれど彼らは「働き足りない」と申し出て来た。
正直な所、ランチタイムも客が増えているから彼らの申し出はありがたい。
給料をどうするか悩んでいた所で、彼らが給料はディナータイムの時と同じで良いと言ってきて即決した。
先に入って食堂で掃除をしている子供達にも挨拶をする。
食堂を出てそろそろかなと思っていると、案の定裏口からノックの音が聞こえて来た。
「おはようございますエルゼリアさん」
「おはようイアン」
裏口を開けるとそこには一対の白い翼を生やした
服は町でよく着られている服で、彼はこの町の商人の一人。
彼の奥に大きな荷台が目に映る。
私の視線を感じ取ったのかイアンはすぐに仕事に移るため荷台へ向かった。
イアンは細い腕で荷台を私の方に引いて来る。
そしてその上にある木箱を渡してきた。
「今日の分の卵になります」
「ありがとうな」
検品を済ませながらお礼を言うと彼が謙遜し始めた。
エルムンガルドのおかげ、といっているが、エルムンガルドとレストランそして町の店を繋ぐ彼の役割もかなり重要である。
「そんなに謙遜しなくても」と思いつつも「彼の性格だから仕方ないか」と割り切り受け取った木箱を倉庫へ運ぶ。
この卵はエルムンガルドの所で採れた卵だ。
彼はそれを定期で卸してくれている。
エルムンガルド自身も食材を卸してくれるのだが、彼女がすべてできる訳もないので、こうして商人達が仲介してくれている物も多い。
仲介料で儲けている人も多いので、商人からは神のように崇められ始めているエルムンガルドだが、きっと彼女は苦い顔をするだろう。
しかしまぁ……鳥が飛んでくるようになったからといって、コッコを捕まえ、こうして育てて卵を卸してくれるとは。
私達はとても嬉しいのだが依存しそうで怖いな。
「これで砂糖があれば色々とできるんだが」
「はは。それは無理というものでしょう」
「おっと心の声が漏れたか。けれど欲しいものは欲しい。ないものねだりなのはわかっているけどね」
倉庫に全部運び終えて苦笑が漏れる。
基本的に砂糖の原料となるビートはリアの町のような温かい場所には生えない。もっと北の方へ行かないと採れないだろう。
幾ら祝福があるとはいえ気候に合わないものは採れないだろう。
いやエルムンガルドならば無理やり作ることはできるだろうが、それは彼女の信条に反するからやらないと思う。
砂糖が手に入るとなっても問題はある。
――お金だ。
砂糖はどの国でも非常に、高い。
国によっては国策として独占的に事業をしているほどだ。
ある時私は砂糖が使いたくて王城勤務をしていたことがあるが、値段を知った時は驚いた。
けれどあの甘さは値段ほどの価値はある。
それに砂糖が使えるようになると作れるスイーツの幅が広がるのであるに越したことは無い。
まぁ後々だな。
「おお。イアン殿ではありませんか」
「これはヴォルトさん。おはようございます」
倉庫前で少し談笑していると、レストランからパンの匂いを漂わせたヴォルトが出て来た。
イアンがペコリとお辞儀をしていると「少し待ってください」とヴォルトが言う。
彼が首をかしげているとヴォルトは再度レストランの中へ行き、一つパンを持ってきた。
「これを新商品にしようかと思うのですが感想を頂きたく……」
イアンは言葉を聞いてヴォルトの手元を見た。
そこには四角いパンに軽く焼かれた黄色い卵が乗っている。
昨日の夕食後、ヴォルトに作ってほしいと言われていたスクランブルエッグだ。
こうするために頼んできたのか。
「い、良いので? 」
「ええ。代わりに感想を頂ければ」
ヴォルトが頷くとイアンはゆっくりとパンを手に取る。
大きく口を開けてゆらゆらと湯気を立てているスクランブルエッグごとパンをガブっと食べる。
もぐもぐと口を動かすと目を見開いてヴォルトに向く。
「……美味しい。単純な組み合わせなのに甘さが際立ちます」
「そう言って頂けて嬉しいですねぇ。これならばレストランに出せそうです」
「それは私としても嬉しいな」
「ふわふわなパンの上にさらにとろふわなスクランブルエッグが載るとこんなにも美味しいのですね」
感想を言いながらパクパク食べる。
イアンはいつのまにかパンを全て食べてしまっていた。
がむしゃらに食べたことが少し恥ずかしいのか僅かに顔を下に向ける。
恥ずかしい事じゃないのにと思っていると、彼は「次の配達があるので」と言いこの場を去っていった。
「ほほ。大袈裟な商品ではないのですがこれはいけそうですね」
「シンプルで美味しい料理が一番難しいはずなんだが……、むしろ何で今まで私は思いつかなかったんだ」
実際に誰かが作ると「あー。その手があったのか」となるのだが、難しい。
ヴォルトの発想の柔軟性が見えた所だ。
軽く頭を掻きながらヴォルトと一緒にレストランへ。
今日の賄いはヴォルトが作った新作パン。
朝食に軽いスープを添えて準備をする。
これも卵の焼き方でバリエーションを増やせそうと思いつつも並べ終わる。
ソウを呼んで子供達とウルル、そしてナトートと席に座り食前の言葉を口にする。
「「「恵みに感謝を」」」
ラビは遅れてやってきた。
———
後書き
第四章の開始となりました!
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