第65話 レアの町、再び 3
「こんにちは~」
リリが扉を開けて魔道具工房の中に入る。
彼女について行く形で中に入る。
「……広いな」
思わず言葉が漏れた。
けれど魔道具工房にしてはかなり広いのは確かである。
一般的に魔道具工房は他の鍛冶系の工房と異なり清潔感溢れる場所である。
それは刻印魔法が使える魔法使いの性質が影響しているのか、それとも貴族を相手に商売することが多いからなのかはわからない。
広い店内を見渡し先に進む。
足を進めると同時に食べ物の匂いが漂ってきた。
「ここは食堂もやっているので」
「なるほどそれで」
私が戸惑っているのをリリが察したのか説明してくれた。
この魔道具工房は魔道具を売ると同時に、自作の魔道具を使って食堂をしているらしい。
魔道具は高価だ。
刻印魔法を使う者が少ない上に買う人も少ない。
ならばということで生活用の魔道具を使って料理を振る舞っているとのこと。
「むむ。これは美味しそうな匂いなのである! 」
「なにか焼いているような匂いじゃのぉ」
「嗅いだことのある匂いなのである! 」
「多分これは――「待つのである。我が当ててしんぜよう! 」」
ご機嫌斜めから一転。
首を少し横に向けるとソウが小さな手を額にやって「むむむ」と考えている。
可愛らしいミニマムサイズのソウを見ていると「クワッ」と目を開いてこちらを向いた。
「これはリアや――「いらっしゃいませ。今日はどのようなご予定でしょうか? 」、……」
いたたまれない。
非常に、いたたまれない。
店員がニコリとして要件を聞いてくる。
しかし重い沈黙が場を支配している為か彼はどんどんとオロオロとし始めた。
「わ、私なにか……」
店主は悪くない。ただタイミングが悪かっただけだ。
チラリとテレサ達を見ると、彼女達も気まずいのか顔を逸らしている。
だがボルの顔は真っ赤に染まっている。
ツボに入ったのか笑いを堪えて体を震わせていた。
しかしこのままではいけない。
よって私が前に出て要件を言い幾つか店内を見せてもらうことにした。
店内を軽く回る。
ここは魔法が刻印された魔石売り場のようだ。
「水生成に発火、保温に……一般的なものだな」
「この工房のお客様の殆どがレアの町の方々になりますので生活に根差したものが殆どになります」
「あぁいや責めているわけじゃない。魔法が使えない人からすれば便利なものだからな」
しゅんとした店主にフォローを入れる。
町民を客にしているだけはある。どれも手に取りやすい価格だ。
魔石は基本的に魔物から採れる。
時々魔石が見つかる鉱山や洞窟のようなものもあるがそれは例外。
けれどこの様子を見るとこの町にある鉱山は鉄だけでなく魔石も採れるのかもしれないな。
この価格だと多分自分の技術料とかは入れていないのだろう。
「魔力保存の魔石もあるぞ? 」
「……珍しいな。これは店主が? 」
「少ない魔力しか保存できませんが」
褒めると少し頬を掻きながら謙遜した。
珍しいものも見せてもらったので幾つか商品を買う。
丁度発火の魔石が劣化しかけていたし換えるにはいいタイミングだ。
「ありがとうございました」
「いやいや良い買い物をさせてもらったよ」
袋に詰めてもらい受け取る。
帰ろうとするとソウの声が聞こえてくる。
「エルゼリア。ここまできてそれはないと思うぞ? 」
「なにがだ? 」
「分からぬのか? 」
「全く」
「はぁ……。これだからエルゼリアは」
ソウはやれやれと手を広げ首を振る。
いつものことだが、ちょっとイラっと来るな。
「ほれ。もう一つやる事があるじゃろ? 」
「やる事? 」
「うむ。それは――」
エルムンガルドもソウの隣に浮いて言う。
魔道具工房でやることなんて終わったぞ?
今日の予定を思い返すが心当たりがない。
「「リア焼きだ (じゃ)!!! 」」
……この食いしん坊さんめ!
★
この魔道具工房では食堂も開いている。
魔道具の方は旦那さんが、食堂の方は奥さんが仕切っているようだ。
「はいお待ち! 」
「「「おおおーーー!!! 」」」
小麦色をした分厚い円形の食べ物が皿に置かれてやってきた。
リア焼きレアの町風の香ばしい匂いにそそられてソウとエルムンガルドのみならずテレサ達も声を上げた。
美味しそうな匂いだ。
「リア焼きは食べたことあるのかい? 」
「うむ。我はあるぞ」
「妾もあるのじゃ」
「なら味の違いを楽しんでおくれ」
ニコリと笑い奥さんは次の注文を取りに行った。
料理に目を移すと熱気が顔にまで伝わってくる。
アツアツだ。
ソウ達はどうしているんだろうかと隣を見ると、ソウとエルムンガルドがフォークとナイフを手に取りまだかまだかと構えていた。
いつも品のある
体の小ささもあってか
「早く食べるのじゃ」
「そうだな。じゃ」
「「「恵みに感謝を」」」
レア風のリア焼きにフォークを刺す。
ナイフで少し切り分けると生地から野菜が飛び出した。
「薄味だな」
「妾はレア風の方が好みじゃの」
「不満か? ソウ」
「まずいとはいっとらん。もちろん、美味いのである! 」
ソウがフォークでレア焼きをもぐもぐ食べる。
私も口に運んで味を楽しむことに。
おお。シャキシャキ感がこれまた堪らない。
それに――。
「これは塩、かな」
「タレの代わりといったところかのぉ」
リア風のようにパンチの効いた感じではないが、塩味も程よく効いて食欲をそそる味だ。
食べながらももう一つ切り分け食べる。
そうしているうちにテレサ達は食べ終わっていた。
「フォークが止まりませんね」
「奥さんもう一切れ! 」
「あいよ! 」
もう一切れ頼んでいた。
まぁ気持ちはわからなくもない。
私ももう一枚頼みたいところだがここは我慢。
帰ると夕食が待っているからな。
「お待ち」
「「「おおおーーー!!! 」」」
それぞれにリア焼きレア風が置かれていく。
しかし頼んでもいないのに私の所にも一枚置かれた。
はてこれは?
「一枚はサービスだよ」
「サービス? 」
あぁ、と腰に手を当てて私に向いた。
「あんただろ? この町や他の町に食料をまわしてくれたのは」
「確かにそうだが……」
「これを作れるのもあんたのおかげということで、一枚サービスということさ。もっと作れるようになったらさらに一枚サービス。本当は無料にしてもいいんだけど、それじゃ示しがつかないからね」
「確かに」
はは、と奥さんは豪華に笑う。
手を振りながらキッチンへ向かったのを確認して再度フォークとナイフを手に取ろうとしたが……。
「この塩味も癖になるのである! 」
「自然あふれる味じゃの」
「……今晩抜きな。ソウ」
私のレア焼きを食べているソウに一言告げた。
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