第18話 仕立て人「テラー」

 アデル達の両親と話し合い、彼らはりょうが出来るまでは今住んでいる場所からの出勤となった。

 私達が話していると「おお~い」と野太い声が聞こえてくる。

 声の方を向くとそこには獣人族からなる集団がこちらに向かっていた。


「この前はありがとな」

「美味かったぞ」

「また食いてぇ」

「同じ食材を出されても、かぁちゃんじゃ無理だろうな」

「ああ。あれは作れねぇ」


 美味しいと言ってくれるのは料理人として最高だ。

 しかしそれを奥さんに聞かれると怒られるぞ?

 私も少し頬を緩めつつ彼らの無事を祈りながら寮予定地へ足を向ける。

 といってもすぐ隣だが。


「ここで良いのか? 」

「無理か? 」

「いや大丈夫だ。広めに作るが……それでよかったんだよな? 」

「もちろん」

「掃除が大変だぞ? 」

「こっちには家事妖精がいるから大丈夫だ」


 そりゃぁ心強いなと納得したリーダーの男が指示を出し始める。

 すると部下達がテキパキと作業を始めた。


「流石に今日には出来上がらねぇ。何週間か、かかるが……」

「構わない。というよりも早いな」

「これでも親父直伝じきでんの建築技術だ。任せておけ」

「それは心強い」


 親指を立ててキラリと歯を輝かせるリーダー。

 彼は部下の元へ行き一緒に作業を始めたので、「あとは任せた」と言い私は彼らに背を向けた。


 ★


 レストランの中へ入り親子を待たせている食堂へ向かう。

 この後、日程や報酬等の細かな話し合いをする為だ。

 しかしその前にやる事がある。


 やる事をピックアップしながら食堂の扉を開けようとしたら、玄関からノックの音が聞こえて来た。


「どうぞ」


 答えると眼鏡の女性が「こんにちは」と明るい挨拶をしながら入ってくる。


「昨日はありがとうございました」

「こちらこそ」

「今日もよろしくお願いしますね」


 この二十代後半の人族の女性は服の仕立したて屋をしている人だ。

 昨日知り合ったのだが、彼女に従業員の服を頼むことにした。

 彼女の明るい声が聞こえたのか食堂の方が騒がしくなる。

 彼女と共に顔を向けると、扉が勢いよくガバっと開き子供達が飛び出て来た。


「「「テラーおばさん! こんにちは!!! 」」」

「はいはい、こんにちは」


 やめろ。

 彼女はまだ「おばさん」という歳じゃない。

 笑っているように見えるが目の奥は笑ってないぞ。


 彼らに従業員を任せるにあたって「こういう所も改善していかないといけないのだろうな」、と考えながらも彼女・テラーに子供達を任せる。


採寸さいすんと試着が終わったら呼びますね」

「部屋は反対側を使ってくれ」

「二つありますけど両方使っても? 」

「? 良いが」

「ありがとうございます」


 何故二つ? と思いながらも彼女に背を向け私は今後について話し合った。


 テラーから声がかかったのは、私達の話し合いが終わって一息ついていた頃。

 彼女に呼ばれて私達は受付に出た。


「お披露目ひろめということで順番に出てきてもらいます」


 ずれる眼鏡を戻しながらテラーが笑顔で言う。

 それは楽しみだが、少し大袈裟おおげさな気もするな、と思いつつ最初は熊獣人のロデ。

 キィーっと扉が開いたと思うとそこから一人の立派なウエイターが出て来た。


「似合ってるぞ」

「あ、ありがとう」


 顔を俯かせながらもじもじとする。

 良いガタイを包むのは茶色い服。しかし不快感を感じるようなものではない。

 所々ところどころほどこされた肉球のような刺繍ししゅうにほんわかしているとテラーが口を開いた。


「彼の服は汚れが目立たないように深めの色にしました」


 なるほどと納得しているとテラーが次を呼ぶ。

 開いた扉から出てくるのは髪と同じ色をした服に包まれたジフだ。

 親の前でお披露目をするのが恥ずかしいのか耳まで真っ赤だ。


「髪と瞳の色に合わせたのか。凛々りりしいな」

「ありがとう、ござい……ます」


 凛々しいといったものの一歩間違えると女の子に見えてしまう姿である。

 ジフは褒められたせいかこれ以上ないくらいに顔を真っ赤にした。

 そのまま中央で止まらず、彼はロデと共に両親にもみくちゃにされにいった。


「服の構造は同じですが少し大きめの服を着させました」

「線が細いから? 」


 聞くと頷くテラー。

 これからの成長もあるだろうが、時に自分を大きく見せないといけない事もあるだろう。

 そんな時彼の体の細さは弱点になる。

 弱々しいとあなどられて喧嘩に発展したら目も当てられない。

 まぁそんなことを起こさないためのラビなのだが。


「さて最後は……」


 とテラーが声をかけるがで来ない。

 私が首を傾げるとテラーはロデやジフがいた部屋とは別の部屋へ足を向けて呼びかけている。

 アデルはそっちにいるのか、と思っているとやっと扉が開いた。


「「「!? 」」」


 そこから出て来たのはウエイターではなかった。


 顔を真っ赤にしてうつむく、――「ウエイトレス」だった。


「う”う”う”……。なんかスース―するぞ」

「女の子なのですから慣れないと」

「「「女の子?! 」」」


 唖然あぜんとしていると中央に向かって歩くアデル。

 お、女の子?!

 驚きながらロデ達を見る。

 彼らも気付かなかったようだ。口を開けて目を点にしている。


 彼らの後ろにひかえる大人達は苦笑い。

 大人の中で知らなかったのは私だけのようだ。

 先入せんにゅう観は恐ろしいな。


「やっぱり気付いていなかったのですね」


 テラーは眼鏡を直しながらも「してやったり」といった表情を浮かべている。

 顔を真っ赤にしたアデルは赤いスカート姿。

 白い前掛けをかけているが、上は他の二人と同じ制服を着ている。


「その……なんだ。似合ってるぞ」

「う”う”う”……。ロデ達のようなズボンが良い」

「女の子なのですから着飾らないと」


 テラーが微笑み優しく言うが、アデルの意見を受け入れない意思を感じた。

 アデルは目線でロデ達に助けを求めている。

 目線の先を追うとロデ達が顔をそむけていた。


「な、なんだよぉ。助けてくれたっていいだろぉ~」

「い、いや……」

「まぁ……」


 声をかけられた二人はオロオロとしていた。

 助けようがない。

 まぁ私の一言で「チェンジで」といえば変わるのだろうが、結構似合っているし可愛いし、これで良いような気がする。

 いやアデルにはこれが良いだろう。


 うんうんと頷いているとロデ、ジフがアデルに詰め寄られてしどろもどろになっている。

 これはこれで問題が起こりそうだなと思いつつ対策を考えていると、玄関の扉が急に開いた。


「畑を見終えてきました! ってアデル……、え……」

「アデルは女の子だったらしい」

「えええーーー!!! 」


 ラビが耳をピンと立てて驚きった。

 大きな胸をこれでもかという程にバウンドさせた彼女を見て、思いつく。


「あとは任せたぞ。リーダー」

「え? ちょっと。エルゼリアさん?! 」

「テラー。会計なんだが」

「いえいえ、今回は良いですよ。次からお金を取るということで、ここはひとつご贔屓ひいきに」


 遠慮えんりょしながらも店を売り込むテラーを見送り、私はキッチンへ向かった。


 後ろからヘルプの声が聞こえてきたが、気にしない。


———

 後書き


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