第17話 レストラン従業員と畑の管理者
第一回農作業兼食事会を終えた翌日。
軽く食事をとった後外に出るがまだ暗い。
足元に注意をしながらも畑へ行って様子を見る。
「大丈夫そうだ」
独り
「
暗闇に水色の魔法陣が三つ輝く。
そこから大量の水が周りに飛ぶ。
あわや濡れそうな所で
「陽が昇るまで水を与えれば大丈夫か。ま、やり過ぎには注意だが」
「……綺麗」
私が呟いていると上から声が聞こえてくる。
顔を上げるとラビが長い耳と大きな胸を窓から覗かせて畑の方を見ている。
暗闇に光る青い魔法陣は神秘的に見えるかもしれない。
だがそれに熱中しすぎると――。
「わぁぁぁぁぁ~」
「ほら窓から落ちた。全くラビは。
っ! おもっ!
魔杖を向けて落下していた彼女を止めたが予想以上に重かった。
元々人を空中で止める魔法ではないが、それにしても重すぎる。
これはあれか。胸という無駄な脂肪の影響か?
……このまま落としても良いような気がしてきた。
「エ、エルゼリアさん~。早くおろしてくださいぃ~」
ラビが空中で手足をじたばたさせている。
本当に落としそうになったがぐっと堪えてゆっくりとおろした。
……もしかしてラビはドジっ子なのか?
泣きべそをかく彼女をみてヒヤリと嫌な予感が
★
「エルゼリアさんの作る食事は美味しいです~」
手に黒パンを持つラビが、ちぎってオニオンスープにつけて口に頬張っている。
もぐもぐと口を動かしリスの様に頬を膨らませていた。
「ん~。甘い! 染み込んだ味がゆっくりと口に広がりますぅ~! 」
ラビも本当に幸せそうな顔をする。
人が幸せそうな顔をするとこちらも幸せになるから不思議なものだ。
朝の農作業を終えた私達は昼来るであろう人達の食事の準備を行い、朝食をとっている。
今日の朝のメニューはオニオンスープと黒パンに、そして軽めのサラダ。
ラビの食事は、
まだレストランは開業してないが。
白パンも在庫にあるが今日は黒パン。
硬いことで有名な黒パンだがスープを染みこませると柔らかくなる。
スープの種類によってその味も変えるからまた面白い。
今回はオニオンスープを染みこませたということで塩の効いた味がするのだが、これもまた楽しみの一つ。
毎日スープを変えて楽しんで良い程だ。
「そういえば昨日見つけたパンの
パンを食べ終え「ご馳走様でした」と言うラビが聞いてくる。
彼女の問いで思い出した。
昨日レストランの裏側にパンを焼く
趣味で使っていたのか、それもと自家製のパンを出していたのかわからない。
前の持ち主のものだが、ありがたく使わせてもらうとしてどうするか考えているうちに寝てしまったのだ。
「一応私もパンは作れるが、本職じゃないからな」
「えええ~。またまたそんなこと言って出来るんじゃないですか? 」
「丸焦げのパンを食べたいのならばエルゼリアに頼むが良い」
「……」
ソウが机の上でラビに言うと彼女は「本当に? 」と硬い口調で言ってきた。
「……こればっかりはな。私とて万能じゃない」
「食べて見たかったのですが……。諦めます」
「普通にパン職人を見つけて雇うのが一番だが」
後は見なかったことにするか、だな。
見つけたからと言って絶対に使わないといけないというわけでは無い。
時に諦めることも重要だ、と考えていると玄関の方からコンコンコンと音が聞こえてきた。
★
「子供達をよろしくお願いします」
人族の子・アデルと熊獣人の子・ロデ、そしてエルフ族の子・ジフの両親が一斉に頭を下げる。
遅れて「よろしくお願いします! 」と三人も頭を下げた。
「こちらこそよろしくな」
「よろしくです! 」
ラビが一歩前に出て大きな胸を張った。
それにロデとジフの目が集中するがじーっとアデルは二人を見ている。
ロデやジフのように
「彼女はラビ。君達の上司になるからきちんと言うことを聞くように」
「え? エルゼリアさんが上司になるんじゃないの? 」
「私は料理をしないといけないからな。流石に付きっ切りで君達を見ることが出来ない。だから彼女にまとめ役を頼んだ」
「言うことを聞くがよろし! 」
するとどこか不満げな顔をする三人。
子供とは言え初めての部下を持って張り切っているのか少し言葉がおかしいラビ。
残念さを出ている彼女が上司になることに対して不安があるのだろう。
しかし私一人で彼らをみきれるのかと言うと不可能だ。
悪いが我慢してくれ。
「それで私達に聞きたいことがあると
アデルの父がおずおずといった感じで聞いてくる。
聞き
するとやはりというべきか今は
よって私は提案する。
「ここの畑の管理をしないか? 」
言葉を聞き三組の親は目を開く。
何を言われたのかわからないような様子だ。だが遅れて理解したのか口をパクパクさせている。
しかし私は続けて説明する。
「この畑はまだ管理者がいない。無論私が最終的な管理者となるが、この広大な土地を一人で切り
「それで私達に管理を? 」
「そうだ」
「しかしやったことがないのですが……」
「それはこの町の人達全員に言えることだろ? それに……」
「それに? 」
「このくらいの子供ならば独り立ちの時期だろうが、親と一緒にいた方が良いだろう。子供達を預けるのは親としても心配かもしれない」
「確かにそうですが……」
「昨日大工に
私がそう言うと三人とも戸惑っている。
子供達はそれに猛反発しているが親は気にせず話し合いに入った。
子供の事が心配になるのはどこの家庭でも同じと思う。
この前食事を振る舞ったとはいえ、預ける先の私はついこの前この町を訪れた
心配しない方がおかしいだろう。
出来れば畑の管理を任せたい。
一緒に住んで子供達の面倒も見てもらえれば更に良い。
私としては料理や町の復興に集中したいのだ。
そして結論が出たのかこちらを向く。
「お世話になります」
「こちらこそよろしく」
頭を下げ顔を上げた彼らの瞳にはうっすらと光るものが見えた。
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