第16話 具材たっぷりあったかシチューと繋がる絆

 私がレストランの外に出ると町の人が種まきを終えていた。

 生活魔法で綺麗にして彼らにレストランの中へ入るように促すと、「待ってました」と言わんばかりに雪崩なだれ込む。

 食堂に全員入ると、彼らの所へ料理を持っていった。


「出来上がったぞ! 」

「「「おおおーーー!!! 」」」


 寸胴ずんどう鍋ごと彼らの元へ行くと皆目を輝かせている。


「良い匂い」

「嗅いだことのない甘い匂いだ」

「くっ! 中身が見えねぇ! 」

「おあずけなんて拷問だ」

「早く食わせろ! 」


 暴動が起きそうな勢いに苦笑しながらも「いでいくから待て」と言う。

 

 人が多いから食器に入れず鍋ごと持ってきたが失敗だったか?

 が後悔してももう遅いみたいだ。


 あらかじめ取り出していた食器を積み上げる。

 並ぶように指示を出し食器ごと彼らに料理をくばる。


「喧嘩するなよ」


 我先に並ぼうとする奴らに注意する。

 喧嘩したら締め出してやる。


 並ぶ大人達の後ろでアデル達を発見。

 今回は礼儀よく並んでいるな。

 だが呑気のんきに並ぶ様子を見ているが、アデル達は後でこれを処理できるようにならないといけないの、分かっているだろうか?

 ま、今日だけは良いかと思いながらも彼らのおわんにスープを注いでいく。

 そして全員に行き渡った。


「……我のスープ」


 いや一人残っていたか。

 悲しそうな顔をする私の契約精霊相棒にも具材たっぷりのスープを注いで、全員席に着く。


「さ。食べるぞ! 」

「「「おおおーーー!!! 」」」

「恵みに感謝を! 」

「「「恵みに感謝を!!! 」」」


 祈りの言葉を口にして木製のスプーンを口に入れる。


「うぉぉぉぉぉ!!! なんだこれ! うめぇ! 」

「ジャガイモに味が染みこんでやがる」

「玉ねぎが口の中で溶けるようだ」

「くったことのねぇ肉だな。なんだこれ」

「しかし美味い! 」


 それぞれの感想を聞くと自然と頬が緩む。

 キュウ、キュウと上機嫌なソウの鳴き声が部屋に響く。

 それもあいまってか更に料理がおいしく感じられる。


 うん。美味い。

 大分煮込んだおかげか噛むとジャガイモが容易に崩れる。

 崩れた所から新たな味が解放される。


 玉ねぎもそうだが入れている緑色の薬草も白いスープに溶け込んでいる。

 スープがほどよく薬草の苦みを消してくれているようだ。


「おいねぇちゃん。これなんて料理だ? 」

「これはシチューだ」

「シチュー? 」

「聞いたことねぇな。おいルフド。聞いたことあるか? 」

「ないなぁ。ガリッツはどうだ? 」

「わしも聞いたことねぇな」


 短い緑の髪をした耳の長い男性がルフド、長く茶色い髪をしたひげもじゃな身長の低いドワーフ族の男性がガリッツというみたいだ。

 年齢にして二桁後半といった所か。

 まだとし若いが、この二人が聞いたことないということは、この町周辺には存在しない料理のようだ。


 にしてはラビは何の躊躇ちゅうちょなく食べたな。

 あの時は食欲の方がまさっていたのだろうか?

 私の疑問はさておき彼らの疑問を解消することに。


「これは寒冷な国で作られる料理だよ」

「なら聞いたことないのは当然だな。ガリッツ」

「そうだな。このあたりはお世辞にも寒いとは言えないからな」


 ガハハハハ、と笑いながらドワーフ族のガリッツが笑う。

 それにつられて周りも笑う。


「おいお前ら。水はいるか? 」

「エルド酒造しゅぞうルフドの水か? 高くねぇだろうな」

「馬鹿言え。酒じゃねぇんだ。魔法で水を注いでやるからコップを出せ」


 男がコップを出すとルフドが手をかざして水を出す。

 次から次へと水を注いでいく様子を見つつ「見事な手際てぎわだ」と感心かんしんする。

 しかし酒造か。


「ルフド」

「ん? どうした銀髪エルフのねぇさん」


 また新しい呼び方が増えたが、ぐっとこらえて話を続ける。


「もしかして酒を造っていたのか? 」


 ルフドはそれを聞きにやりとする。


「おうよ。この町一の酒造と言えば俺達のエルド酒造! 酒の事なら任せろ! 」

? 」

「エルド酒造はエルフ族のルフドとドワーフ族のガリッツが共同経営しているのですよ。エルゼリアさん」


 声の方を見るとジフの父がこちらに向かってきていた。

 説明の邪魔すんな、とルフドが声を大きくしているが気にせずこちらへ近寄っている。

 だがルフドは怒っている様子ではない。ほほが緩んでいるのがわかる。


「エルド酒造は確かにこの町一の酒造です」

「だろ? もし酒の素材となるものを手に入れたら真っ先に俺達の所へもってこい。最高の酒をおろしてやる」

「……よくもまぁ強気で言えますね。町のかんぼうのルフドが」

「……何十年も前の事は言わないでくれ」

「「ハハハハハ!!! 」」」


 一斉に場が笑いに包まれる。

 ルフドも長い耳を赤くして縮こまっていた。


「ルフドじゃねぇがわし達エルド酒造に素材を卸してもらいたいものだ」

「なんだガリッツ。食材を独り占めするつもりか?! 」

「そんなつもりはねぇよ。だがお前達。酒を飲みたくねぇのか? 」


 ガリッツの言葉に食いついた狼獣人の男は「んなことはねぇ」と顔をそむける。

 今度は狼獣人の男が周りにからかわれて体を縮こませていた。


「酒はレストランに卸してくれるのか? 」

「無論率先そっせんして卸そう」

「なら交渉成立だな。だが酒の素材となるものを育てる余裕が出来るかわからないぞ? 」

「それは心配無用だ」

「俺達が開発した新魔法で、これまで酒にならなかった素材を酒にすることが出来るようになったんだ」

「それはすごい」


 ルフドとガリッツが肩を組んで堂々と言う。

 私が褒めると気恥ずかしいのか二人はポリポリとほほいた。


 新魔法を開発するのは国直属の研究所の専売特許せんばいとっきょだ。

 逆に言うとそれほどの資金を投じなければ実現が難しいということ。

 それを民間の、それも酒蔵が発明するとは恐れ入る。

 

「なら頼むよ。あとで必要な素材を教えてくれ」


 二人からいい返事をもらい契約成立。

 本契約は後になるが酒事情はどうにかなりそうだ。


 食事会は更に進む。

 寸胴鍋もあとわずかになった所で熊獣人の男性が聞いてきた。


「なぁねぇちゃん」

「なんだ? 」

「これだけの事をしてもらって俺達は何も出来ていねぇんだが」

「そんなことはない。農作業をしてもらっているだろ? 」

「いやいや今日食べさせてもらった料理に比べると割に合ってねぇよ」


 単純作業とはいえ農作業はかなりの重労働だと思うのだが。

 まぁ体力のある獣人族からすればそう感じるのかもしれない。

 気にする必要はないのだが集まった人達は全員「うんうん」と頷いている。


「で、だ。俺は元々大工をしていたんだが……、りょうでも作らねぇか? 」

「寮? 」

「そこのラビっていう元冒険者に聞いたんだが、こいつはここで働くんだろ? 」


 熊獣人の大工が太い親指を後ろに向ける。

 指の方向に目線をやるとラビが胸を張っていた。

 事情を理解した私は肯定して頷く。

 すると熊獣人の大工が「なら」と口を開いた。


「寮を作った方が良いんじゃねぇか? 」

「今の仕事はどうするんだ? 」

「この状況で仕事があるとおもうか? 」

「……悪かった」


 気にしてねぇという大工に顔を向け少し考える。


 寮、か。

 ラビだけじゃなくてアデル達も従業員になるんだよな。

 しかし彼らは子供。家からの出勤となるが……。

 いやそもそも彼らの両親は仕事があるのか?

 少し気を悪くするかもしれないが後で聞くか。


「寮を作るにあたって少し頼みたいことがある」

「おう。何でも言ってくれ」

「何世帯せたいか住めるくらい広めに作ってくれ」

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