第3話 兎獣人の冒険者ラビ

「大丈夫か!」


 呼びかけながら走り横たわっているうさぎ獣人に近付く。

 服装は軽装だが腰に剣をつけている。

 騎士というよりかは冒険者の前衛のような印象を受ける。


「ふむ。息はしているようだ」


 ソウが兎獣人の上で一回くるりと回ってこちらを見て言う。

 そのまま地面に着地して片手でぺちぺちと叩いていた。


「怪我人を乱雑に扱うな」

「そうは言うが軽症だぞ? 」


 軽傷と言えど乱雑に扱っていい理由にならない。

 ソウに注意をしていると「ん」と兎獣人から声が漏れた。

 彼が何かやらかしたんじゃないかとハラハラしながら見下ろし、気付いた。


 女性のようだ。暴力的なまでの双丘が性別を自己主張している。

 しかし衣服に乱れはない。

 強姦に襲われたというわけでもなさそうだが、いたるところに切り裂かれた跡や歯型が残っている。

 戦闘痕、か。


「おい起きろ」

「それで起きたら苦労はしない」


 無理やり起こそうとするソウをわし掴みにして肩に載せる。

 どうしたものかと考えていると兎獣人の体がモゾっと動く。

 これは、と思っていると「んん」と声が漏れて目がゆっくりと開いた。


「………………エルフ? 」

「無事でなによりだ」


 上体を起こして私を見る。

 目をぱちくりとさせたと思ったら「ぐぅ~」と可愛らしい音が聞こえて来た。


 余程恥ずかしかったのか白い顔が更に白くなる。

 長い耳に手をやってぺしゃりとたたんでうつむいた。


「何か食べるか? 」

「……はい」


 兎獣人の女の子は顔を赤くしたままチラリと見上げて小さく頷いた。


 ★


 ソウに頼み異空間収納に保存していたシチューを取り出す。兎獣人の女の子は驚いているが気にしない。

 彼女の反応が嬉しいのかソウがドヤッている。

 彼女は遅れてソウに気が付いて「竜?! 」と驚く。

 するとソウが更に満悦な表情をするがそれよりも早く食器を出してくれ。


「食べれないものはないか? 」

「食べることのできないものでなければ」

「ならよし」


 何でも食べれるということで寸胴ずんどうの大鍋に魔力を流し始める。

 この鍋には加熱ヒートが施されている。

 簡易的な加熱しかできないがこういった不測の事態に対応できるため重宝している。


 軽くお玉を回し熱を均一にする。

 シチューの匂いが周りに広がる。

 回しながらお腹を鳴らす兎獣人に向くと座った状態で木でできたおわんとスプーンを持っていた。


「良い匂い。……むむ。これは人参の匂いですね! 」

「……よくわかったな。普通嗅ぎ分けれないぞ」

「人参は特別です! 」


 元気になった彼女を見て顔がほころぶ。

 再度お玉を回して目を落とす。

 そこには白いスープに浮かぶ人参やジャガイモ、豚肉といろんなものが浮かんでいる。

 人参のみならず全ての具材に味が染みこんでいるはずなのに彼女は嗅ぎ分けられるのか。

 兎獣人の人達は人参が好きだが全員ではない。

 彼女はよっぽど人参が好きなようだと好みを把握しながらも再度お玉を回し匂いを振りまいた。


「エルゼリアのシチューは格別だからな」

「そうなんですね! 」


 ソウの手にも小さめな食器がある。

 こいつ。まだ食べる気か。

 さっきドラゴンステーキのソテーを食べた所だろ、と心の中でツッコむが口には出さない。もう諦めた。


 クルクルとお玉を回しながら魔力供給を止める。

 「出来たぞ」と振り向き伝えようとしたら、そこにはおわんをもった二人の兎と竜がいた。


「魔力が止まったということは、もういいんだな」

「す、すみません」


 ソウは魔力感知で私がシチューを温め終わるのを待っていたのだろう。

 ソウは小さなお椀をこちらに出して早くつげと無言で訴えている。

 逆に兎獣人の女の子は遠慮がちに両手で持ったお椀をこちらに出していた。


「この子からな」

「な! 」


 口を開け固まるソウを放っておいて彼女の器を受け取る。

 そんなに人参が好きなら多めに入れてやろうか。

 思いながらお玉にシチューを入れる。

 茶色いお椀が白く満たされると下を向き申し訳なさそうにしている彼女に手渡した。


「しっかりと、食べろよ」

「はい! 」


 受け取った兎獣人は良い笑顔で答えた。


「……我のシチュー」


 しょんぼりし尚も欲する契約精霊相棒に苦笑しながら彼にもシチューをついでやった。


 ★


「んんん~~~! 人参の甘さに加えて固めの食感! 美味しいです! 」

「ならよかった」

「しかし食べたことのない人参の味ですね。どこの産地でしょう? 」


 兎獣人の女の子、——ラビと言うらしい——は顔をほころばせながらも首を傾げた。

 そうか、わかるのか。確かにこの辺の人参ではない。

 匂いをかぎ分けることができるのならば、食べただけでこの辺の人参ではないことがわかっても不思議ではない。


 獣人族は総じて身体能力が高い。

 加えて感覚器官が優れているから他の種族にはわからない微妙な味や匂いの違いを感じ取れる。

 その代わり個性が強い。

 例えば、同じ兎獣人でも人参の好みで喧嘩するほど。

 私達が他から来たと言っても納得するだろう。


「道理で」

「ラビはこの周辺の人か? 」

「いえ僕は最近この先にある町、リアの町に来た冒険者……で、す」


 言うとラビは顔を沈ませた。

 膝にお椀を置いて耳もしょんぼりと垂れている。


「僕は村から出てリアの町で冒険者を始めたのですが失敗しちゃって」

「……討伐依頼か? 」


 私の言葉に軽く頷く。


「大丈夫だと思ったんですがね。この有様です」


 彼女は切り裂かれ噛まれた服を見せてそう言った。

 村から出て来た、ということは恐らくなりたてのFランクかEランクといった所か。


 冒険者になる人は様々だ。

 お金に困った農民がなることもあれば、はくをつけるために貴族子息子女がなることもある。


 しかしそうじていえるのは、大半の人が「自分に自信を持ちすぎていること」だろう。

 自信を持つのは良い。

 だが過剰になると目をくもらせて彼女の様に失敗する。


 初心者脱却の指標となるのは「ゴブリンの討伐」。

 けれどそれがなぜ冒険者ギルドに依頼されているのかを理解せずに受ける人が多い。

 ゴブリン討伐もそうであるがわざわざお金を払って依頼に出されるのには理由がある。


 彼女も依頼を軽く見た例に漏れないのだろうと考えるも何も言わない。

 私に出来ることなど食事を振るうことくらいしかないのだから。


「……元気を出すがよい」


 ソウが自分のスープから人参を取り出してラビの椀に入れる。

 すると少し元気が出たようで再度シチューを口に運んでいった。


 ソウにしては気が利くじゃないか。


———

 後書き


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