一軍グループのリーダー
なんとも気まずい空気になってしまったものの、駅を出てからはなんとか世間話が出来るくらいは調子を戻せた。
世間話といっても主に俺から話題を振って、それに対して
でも入学式後の時よりも断然話せている。
お姉さんとは仲が良いとか、好きな食べ物はイチゴだとか色々と教えて貰った。
もちろん俺の方も家族構成とか好き嫌いは伝えている。
入学初日の塩対応が嘘みたいにたくさん話してくれる彼女に好感を覚えつつ、学園に着いた俺達は揃って教室へと入った。
だが俺は重要なことを二点失念していた。
一つは自分が曲がりなりにもクラスの一軍グループに所属していること。
もう一つは……鴉庭さんが孤立しながらも『闇姫』と呼ばれる有名人であることを。
そんな二人が一緒に登校したとなれば、他の在学生達による注目は免れない。
鴉庭さんの手前、平静を装ってはいるが四方からチクチクと刺さる視線の嵐に居たたまれなさを感じている。
「闇姫の隣にいる男、誰?」
「なんか弱味でも握られてるのかな?」
「いやむしろ男の方が握られてんじゃない?」
軽く聞こえた声だけでも相当心に来る。
一応これでも一クラスの一軍なんだけど、鴉庭さんと並んだらつり合っていないようだ。
どれだけ彼女の容姿が突出しているのか痛感させられる。
肩身を狭くしてる俺と違い、鴉庭さんは注目もひそひそ話も特に気にした素振りはない。
それもそうか、他人の評価を気にしてるようじゃ孤立なんてしないだろう。
流石は闇姫というか、むしろそんな彼女だからこそとも言える。
そんな感心を秘めつつ教室に着いた俺と鴉庭さんに、クラスメイト達は目を丸くして驚いていた。
きっと俺もそっちの立場なら同じ反応する自信はある。
「翔真。またね」
「う、うん……」
教室に着くなり鴉庭さんはそう言ってから、自分の席へと向かって行った。
隣の席のままなんだけど、俺の付き合いを優先してくれたんだろう。
そうして一人になった瞬間、バタバタと同じ一軍の友人である
その表情は信じられない光景を目の当たりにしたように愕然としている。
「
「え? あ、あぁ。偶然一緒になったから……」
興奮した様子の野々倉を宥めながら偶然だと主張した。
当人の許可も無しに痴漢に遭ったからなんて話す訳にはいかないので、俺が言えるのは精々がこれくらいだ。
その返答に対して納得がいかないのか、野々倉は訝しむように見つめたまま続ける。
「いやいやそれにしては仲よさげだったぞ? 闇姫が人の名前を呼ぶとこなんか初めて見たし」
「そ、そうなのか? 普通に呼んでくれるからよく分からなかった」
動揺と歓喜に声を詰まらせ掛けながらも、なんとかはぐらかした。
野々倉にここまで断言されるなんて、鴉庭さんって本当に人の顔と名前を覚えるのが苦手なんだなぁ。
その観点から見れば確かに俺は現状、クラスにおいて闇姫に名前を覚えられてることになる。
今も一人で席に座ってスマホを眺めている彼女の様子から、それが真実だと突き付けられてるようだった。
少なくない優越感に胸が弾みそうになって……。
「──ちょっと。さっきからなに鼻の下伸ばしてんの?」
冷ややかな声に呼び掛けられ、熱した石に水を浴びせられたような寒気が走った。
声の主へ視線を向ければ、隠そうともしないくらい不機嫌になっている。
相手は派手な金髪とメイクが目立つ女子だ。
長いつけまつげで彩られたつり目は今にも発火しそうなくらい鋭くて、俺より背は低いはずなのに威圧感はハンパない。
──
彼女こそ俺と野々倉が属する一軍グループのリーダーだ。
背後に他二人の女子を引き連れており、まさにこのクラスの女王といった存在感を示している。
そんな彼女が不満げな理由は十中八九、俺が鴉庭さんと登校して来たことだろう。
若瀬良さんはクラスの中で一番と言って良いくらい闇姫を嫌っている。
恐らくは孤立しているのに自分より有名なことが気に食わないからだと思う。
下僕もといグループの一員である俺と一緒だったのが相当お気に召さないらしい。
もし連絡先を交換したり、今日から毎朝一緒に登校すると知られたら一気に怒髪天を衝きそうだ。
面倒だと思いつつ、愛想笑いを浮かべながら口を開く。
「デレデレなんかしてないって。単に同じ電車に乗ってただけだよ」
「そんなことはどうでもいいのよ。重要なのは闇姫があんたにちょっかい掛けたかどうかよ」
「何もされてないから大丈夫だってば」
「ふぅ~ん……」
淀みなく答えたのが功を奏したのか、
「はぁ最悪。なんであんなのが私より有名なのよ」
「ね~地雷系とかかまってちゃん極まってて引くわ~」
「痛々しすぎてみてらんなぁい」
「巽も気を付けなさいよ。どうせ金目当てだろうから」
女三人寄れば姦しいとはまさにこのことだろう。
鴉庭さんが気に留めないからって、好き放題に陰口を飛ばす様子に反吐が出そうになる。
そもそも
『──助けてくれてありがと』
あの夜、素顔を見せながらお礼を言ってくれた思い出がバカにされたようで腹が立つ。
一方的な嫉妬から来る浅ましい憶測に微塵も笑えない。
でも一番ムカつくのは……。
「は、ははは……」
そこまで苛立っておきながら、孤立を恐れて反抗出来ない俺自身だ。
今だって苦笑して曖昧に濁すだけ。
昨日、鴉庭さんを助けた時に出した勇気は一眠りしたら消えてしまっていた。
そんな情けない自分がどうしようもなく嫌いになりそうだった。
「……」
一方で、気怠げな紫の瞳が俺達をジッと見つめていることには気付かないまま。
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次回は18時に更新です。
どうしてかって?
ストックの都合ですねぇ←
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