第14話

「ちょっと待ってて」

莉央奈は、そう言って紙を奪い取ると、店の入り口にある公衆電話に走って行った。よし子は何が起こったのか分からずに、莉央奈を目で追っていた。


少しすると、莉央奈がテーブルに戻ってきた。そのとき、テーブルの上に置いてあるよし子のポケットベルが振動して、アラームが鳴りだした。


「リオ、もう入れたの?」

よし子が不思議そうな顔をして、窓を見ようとしたポケットベルを、立ったままで莉央奈が横から奪い取った。よし子が莉央奈の顔を見上げると、一瞬顔色が変わるのが分かった。


「どうしたの?」

よし子は、心配して声をかけたが、莉央奈は何も言わずにポケットベルをよし子に返した。


「それ何て読む?」

莉央奈が、真面目な顔つきで訪ねた。ポケットベルの窓には『33414 34』と入っていた。


「サ・ミ・シ・イ・ヨ。……ミ・ヨ。えっ、美夜っ!」

そう言いながら、よし子の顔色も変わった。立ったままの莉央奈を見上げて、よし子が聞いた。


「何を入れたの?」

莉央奈は少し微笑んで、

「ほら、米のヤー、サン、ヨ」

と、言ってさっきの紙に番号を書いて見せた。よし子は紙を読みながら、

「*834ヤーサンヨ、……本当だ」

と、言って大きく頷いた。

今回の『*8』は、番号と番号の間にひとつスペースを空ける意味であった。


莉央奈が、椅子に座りながら呟いた。

「姉さんは、連絡したいときにポケベルを入れて、相手からの電話を待っていたんだ。『最後は、米のヤーサンヨ』と、いうのは連絡してほしい番号を入れた後に、美夜34と入れる意味なんだ」

莉央奈は、自分で言いながら頷いていた。よし子も莉央奈の顔を見て頷いている。


「ありがとう、よし子のおかげで、少し姉さんに近づけた気がする」

莉央奈は、嬉しそうにお礼を言った。


「任せなさい」

よし子は自分の手柄だとは思っていなかったが、得意げに微笑んだ。

ただ、少しでも友達の役に立てたことに、よし子も嬉しそうであった。


これで、姉とつき合っている既婚の男性が、ポケットベルを持っている事が分かった。莉央奈は家に戻ったら、姉の電話帳の中からから、ポケットベルの番号を探し出さなくてはならないと思った。

店の窓の外は、すっかり暗くなっていた。五月の雨は、まだ降り続いている。

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