第13話

「じゃあさ、じゃあさ、……」

と、よし子が話しかけた時に、バックの中から電子音が鳴り出した。

よし子は、ソファの横に置いてあるバックを引き寄せると、中からポケットベルを取り出した。


「よし子、ポケベルなんて持ってたの」

莉央奈が、そう言ってポケットベルに視線を向けた。


よし子は、ポケットベルのアラームを切りながら、

「最近は携帯電話を持ってる人も少し増えてきたし、今時の女子高生なんて、半分以上がポケベル持っているって噂よ」

「そうなんだ。……それで誰から?」

莉央奈が、ポケットベルをのぞき込むようにして言った。莉央奈は実物を見るのが始めてだった。


「恵美子が、寂しいってさ」

ポケットベルの窓を見ながら、よし子が微笑んだ。莉央奈が手を出すと、その上によし子がポケットベルを乗せた。


「何で、そんな事が分かるの?」

と、言って莉央奈がのぞいた窓には、『33414─53』と数字が表示されていた。


よし子が、テーブルから身を乗り出して、ポケットベルの窓を指差しながら、説明した。

「『サ・ミ・シ・イ・ヨ-イツ・ミ』って、入ってるでしょう」


莉央奈は少し考えて、

「あ、本当だ。33414サミシイヨだ」と、ポケットベルの数字を読んだ。


よし子が、バックから可愛いボールペンを取り出すと、横に置いてある紙ナプキンをテーブルの上に広げた。


「じゃあ、問題よ。『114106』はなんでしょう」

と、よし子が、眼鏡を人差し指で押し上げると、イタズラ顔で書いて見せた。


莉央奈は、紙ナプキンを覗き込んで考えると、

「イ・イ・ヨ・イ・オロ」と、首を傾げている。


よし子は笑いながら、「オロってなによ、オロって」と首を振ると、

「これはね、『アイシテル』って読むのよ」


「へぇー」


「じゃあ『724106』はなんて読む?」と、二つ目の数字を書いた。


莉央奈は、フムフムとしたり顔で微笑むと、

「ええと、106がテルだとすると、……ナ・ニ・シ、テルでしょう」

と、よし子に顔を向けた。よし子も微笑んで頷いた。


「そうだ、リオには、まだポケベルの番号を言ってなかったよね」

と、よし子が紙ナプキンにポケットベルの番号を書いた。

莉央奈は、まだ珍しそうに、掌のポケットベルを弄っている。


「逸見恵美子は53イツミ番、田上奈緒70ナオ番、私は445ヨシコ番だから、莉央奈は、ア・イ・ザ・ワ・リ・オ・ナだから……」と、ボールペンを持った手を止めてよし子が言った。


少し無言のままで考えていたよし子が言った。

「リオには、良い番号が見つからないから、特別に最強の99番をあげよう」

よし子は、名前から数字が思い浮かばなかったようで、紙に99番と書いて莉央奈に渡した。


「これ、最強なの?」

「そうよ。私に連絡してほしい時に、リオの掛けてほしい電話番号を入れて、よ。覚えておいてね」


(最後は、ピカの299ニーキュウキュウ?)―――よし子は今、ハッキリとそう言った。

莉央奈はその時、何かが頭の中で引っかかったが、それが何なのかは分からなかった。


「よし子、ピカってなぁに?」

莉央奈が聞き返すと、よし子が今渡した紙をもう一度引き取って、紙を裏返して『*299』と大きく書いて見せた。


<ポケットベルの数字対応表>

┌────┬────┬────┬────┬────┬────┐

│ 操作 │ *2 │ *4 │ *6 │ *8 │ *0 │

├────┼────┼────┼────┼────┼────┤

│ 表示 │ -  │ (  │ )  │スペース│ U  │

├────┼────┼────┼────┼────┼────┤

│ 内容 │ハイフン│左括弧 │右括弧 │ 空白 │ 緊急 │

└────┴────┴────┴────┴────┴────┘


「その、最初に書いたコメ印みたいなものが、プッシュホンの電話機の左下の方にあるでしょ。『ピカの2』って入れると、番号の間にハイフンが入ってくれるから、電話番号と、メッセージの区別ができるのよ」

「米印?……あっ!」莉央奈の頭の中で、何かが閃いた。

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