第12話

―――約、三ヶ月前。

信濃大町の喫茶店にて。


「最後は、コメノ、ヤーサンヨ……」

「リオ、どうしたの?」と、よし子が、前に座って居る莉央奈の顔を見た。


莉央奈は、それに気がつくと、

「姉さんがね、こっちから、彼氏に連絡する時は『コメノ、ヤーサンヨ』って言ってたんだけど、何だと思う?」


「米のやーさんよ?」と、よし子が首を傾げると、考え込んだ。


「米、こめ、コメ……」

と、よし子が繰り返しながら、なにかを思い出したらしく、バックから手帳と取り出すと、ペラペラと捲った。


「どうしたの?」

莉央奈が不思議そうに、その手帳を覗き込んだ。よし子は旅行代理店に勤めていて、先月まで、九州地方のバスツアーの企画を先輩と二人で担当していた。


「あった。ほら、これ」

と、よし子が指差したページには、

(宮崎県日向の観光スポット。米ノ山こめのやま展望台、日向灘ひゅうがなだの水平線と入江を一望できる絶景ポイント)と、書かれていた。


「今回のツアーの企画で検討した場所の一つよ。米ノ山」

と、よし子が言うと、

こめの、山……サン。コメノサン、ヨ?……宮城県の日向」

と、莉央奈が首を大きく傾げると、横に振った。よし子が莉央奈をみながら、

「だけど聞いた話では、米ノ山は昔から、いわくつきの心霊スポットで相当やばいところらしいわ」

と、神妙な面持ちで身をすくめた。よし子は、このジャンルがとても苦手だった。


「そうよね。こんな所にまで、リオの姉さんが連絡しに行くわけ無いわよね」

と、少し重苦しい空気になってしまったので、よし子が明るい声で続けた。


「米屋のヤーさんにでも頼むんじゃないの。彼氏に連絡してくださいって」

よし子も、会うたびに莉央奈の行方不明の姉の事は気になっていた。今回のオーストラリア旅行も、莉央奈を元気づける事が目的だった。


「お米屋のヤクザ屋さん?姉さんに、そんな怖い知り合いがいるとは思えないわ」

莉央奈が、クスッと笑って言った。よし子も莉央奈の笑ったのを見て微笑んだ。


「じゃあ、米之野こめのや参代さんよっていう名前の女性友達は居なかった?」

よし子がいうと、莉央奈は、

「もう少し真面目に考えてよ」

と、少しふくれた顔で言ったが、目はまだ笑っていた。

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