第11話

蓮は、大体話し終わると蒼斗を見た。今度は、聞いていた蒼斗の顔色が冴えない。

「そういえば、さっきの女子高生もフラフラと走っていたな。恩音トンネルを出たところでパンを食べているときに、誰も通らなかった。……という事は、この一本道で前を走っていた彼女あいつは、一体どこから?」

蒼斗はまだ、そんな怪談話を信じたくは無かった。蓮は黙っている。


蒼斗は虚ろな目で考えて、

「と、いうことは、やっぱり鳥居の広場しかないか?」

と、腕を組んだ。蒼斗は考え事をするときに腕を組む癖がある。


「蓮、でもあいつ何か探してたよな?ほら、片手を離してフラフラ運転しながら、道の脇を見ながら……」

その言葉に、蓮の顔色が一瞬曇った。蓮は、蒼斗にまだ話していない事を話すべきか迷っていた。


視線を感じて蓮が顔を上げると、蒼斗が真顔でこっちを見ていた。

「実は、……まだあるんだよ、話の続きが」

「えっ」

蒼斗は、息をのんだ。蓮は、視線を逸らすと、躊躇ためらいながらも話を続けた。


「俺が聞いた話では、森口はトラックの後輪に巻き込まれた時に、……左側の顔半分がえぐり取られていた。その上、左腕が根元からもぎ取られていて。みんなでお通夜に行った時も、彼女の白いひつぎの窓は閉じられたままだった」

蒼斗は、一瞬心臓が止まりそうになった。


「……あいつの左腕は、今も見つかってないらしい」

と、蓮が付け足した。蒼斗は、背筋がゾッとした。


「じゃあ、あいつは、……いまも自分の左腕を探しているのか?」

蒼斗は、腕を組んだまま吐き捨てるように言った。その時、表の道を一台の赤い車が、恩音トンネルの方向へ走っていくのが見えた。

そういえば、この竹林の間から微かに見える表の道を、さっきの女子高生が通って行った形跡は無かった。二人は顔を見合わせた。


「あいつ、それにしても遅いな?」

蒼斗が、口を開いた。幽霊が苦手な蒼斗は、蓮の話をなおさら信じたくはなかった。


「そんな馬鹿な事があるかよ。どこか壊れている着物の女の次は、片腕のないフラフラ女子高生か。これじゃあ、まるでお化けのオンパレードじゃないか。今度は、竹林ここの奥から入れ歯を無くして探している、杖をついた婆さん幽霊でも出て来るのか?」蒼斗は幽霊には弱いが、短気で気性も激しかった。


「何で、俺達ばっかり」蓮が俯いた。

「まっ、パトカーが居たら前進できないんで、戻るしかないな。蓮、どこかに隣町に行ける別の道は無いか?」

蒼斗は、こんな所でウダウダしていても、らちが明かないと思った。


「たしか鳥居の広場を抜ければ、隣町に続く細い林道があったと思う」

と、言った後も、蓮はまだ脅えて背後を気にしていた。この薄暗い、林の中に居ることさえ心細かった。いまにも背後の竹林から、白髪の婆さんの幽霊が、杖をついて出てきそうな気配であった。


「じゃあ戻ろう。戻って、もしさっきの女子高生がまだ捜し物をしていたら、一緒に探してやろうぜ」蒼斗の、空元気で二人は立ち上がった。


「出るなら、出ればいい」

蒼斗の威勢の良さが、少しだけ戻ってきたようだ。


「でもさぁ、本当にまた出たらどうすんだよ」

蓮が、立ち上がりながら、ビクビクと背後を気にして言った。


「そん時は、……逃げるっきゃないっしょ!」

きっぱり過ぎる蒼斗の言葉に、蓮が首を横に振った。

蒼斗が、林の隙間から覗いたが、パトカーはまだそこに止まっていて、無線機で連絡を取り合っているようであった。

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