第7話

自分の話を聞いてから口数の減った蓮を見て、蒼斗が聞いた。

「どうした?」


蓮の顔色は冴えない。

「白い着物の女……」と、蓮は少し真顔になり、消え入りそうな声で言った。


「そうそう、その女がまた、いい味出してんのよ。さすがの俺もちょびっと、ビビッちゃったけどね」蒼斗は、わざとおどけて見せた。


「聞いた事が、……あるんだ」蓮の声は、やけに低かった。


「なにを?」と、蒼斗が真顔の蓮に視線を向けた。


「夏休みに入る前に、学校中で噂になったんだ」

「………」


「恩音トンネルの辺りに、……」

蓮が、ゆっくりと顔を上げると、遠い視線で続けた。


「白い着物を着た、が出るって」

蒼斗が、きつい目をして向き直った。


「おまえは、四月に転校して行ったから、知らないと思うけど」

蓮は、ここで蒼斗に視線を戻した。


「何でも、車に乗ったドライバーがトンネルの辺りに来ると、白い着物を着た女が急に現れて、走って追いかけて来るとか。私の子供を返して、って声を聞いた人もいるって」


「ああ、知ってる、知ってる。その女、車より足が早いんだろ。スカイラインのターボエンジンよりも早いっていうぜ。後、人間の顔をした犬とかも追いかけてきて、ニッって笑うとか……」蒼斗は、強がって見たけど、内心は相当怖がっていた。


そんな蒼斗には構わずに、蓮は話を続けた。

「それで六月に、この辺りで本当に事故を起こしたダンプカーがあって。その運転手は、警察で『あの白い着物を着た女を捜してくれ』って、『全部、あの女のせいだ』って、騒いでいるらしいんだ」


蒼斗は、反論する言葉を探していた。蓮が蒼斗を見て、

「それに、良く考えるとあのトンネルも、何でおまえを抜け出させないようにしたんだ。何回トンネルに入っても、南側の入り口に戻って、おまえを先に行かせないようにした理由って何だったんだ?」と、そこまで言うと、蓮は視線を自分の足元に落とした。


「まぁ、考えていてもしゃーないんで。時間も無いから、先を急ごうぜ」

と、蒼斗が空元気で立ち上がった。蓮も顔を上げると頷いた。

―――蓮の時間は限られていた。

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