第2話
恩音トンネルを抜けた南側にも、いま引き返してきた北側と同じような、低い欄干の石橋が架かっている。トンネルの両側に細い川が横切っていて、南下した先で
蒼斗は、トンネルを出た先の、弓なりに反った石橋の中腹に来ると、走りながらシフターを一気に高速ギヤに切り替えた。後輪のリアディレイラーが外側に
蒼斗は、重くなったペダルを力一杯に踏み込んで、さっき蓮と来た道を、国道四〇三号線に向けて、スピードを上げて引き返して行った。
恩音トンネルの北側にいる蓮は、マウンテンバイクを草むらに隠すと、朱塗りの木橋の
蓮は、顔を上げた。草の間から、キラキラと煌めいて、透き通るような小川の流れが見えた。
そんな二人は、女の子と、お笑いが大好きな、青春ど真ん中にいる高校二年生であった。
五ヵ月前、蒼斗は高校一年生を終えると、家の事情で、ここ長野県から神奈川県の高校へ転校して行った。そして夏休みを利用して、転校する前のクラスメートであった蓮の所に遊びに来た。二人は大の親友である。
蒼斗は引っ越しをする前の家に近い、長野県の父方の叔父の家に泊めてもらうことにした。広い田舎の家から、狭い横浜のマンションに引っ越した為に、家族四人の入りきらなかった家具や衣類などは、今もこの叔父の家に預かって貰っていた。
昨日の昼過ぎに、蒼斗は叔父の家に着いた。
そして、その足で親友の蓮のところへマウンテンバイクを飛ばして会いに行った。
そのマウンテンバイクも、横浜に持っていけなかった物の一つである。
蒼斗は、ペダルを漕ぎながら顔を上げた。
視界の中には、見渡す限りの田畑が広がり、秋の刈り入れに向けて、稲は誇らしげに、真夏の太陽に揺れていた。
八月も、もうじき終わりだというのに、まだ夏は、その気炎を少しも衰えさせてはいなかった。
炎天下の照り返すような陽射しが、容赦無く突き刺し、蒼斗のマウンテンバイクの金属部分は熱せられて悲鳴を上げている。背中のデイパックに付けたガイコツのキーホルダーも、
(……なんで、こんな事になっちまったんだ)
蒼斗は、目前に広がる田園に遠い視線を向けて、今朝の出来事を思い出していた。
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