便りがないのはいい便り、便りがあるのは……

 お盆休み。世間は帰省したり家族で旅行に行ったりと賑やかに過ごしているが、俺たちは家でのんびり過ごしていた。お互い帰るべき実家もないし、休みはまだまだ残っているから混み合う日に出かけることもない。



「む〜……負けましたわ! 次はユウが使っていたキャラクターを使わせていただきますわよ!」


「いやいや、たまに俺が勝ったくらいでそんなにムキになるなよ……」



 レイは何をやらせてもすぐにコツを掴んでしまう。今は『相手のキャラを画面外にふっ飛ばす』ゲームをしているが、レースゲームもパズルゲームも上手い。なんならソシャゲのガチャすら神引きを連発する。



(ゲームが強いだけなら本人の負けず嫌いもあるし納得なんだが、ガチャまで強いのはおかしいだろ。まさか異世界転生特有の『チートスキル』ってやつじゃないよな……)



 こんな風にのんびり一日ゲームをして過ごしたり、スーパーで食材を買い込んで自炊パーティをしたり、はたまた2人で家中を掃除したり。お盆休みの数日はこんな風にして過ごした。



 俺はこれまでお盆だろうと登山をしたり旅行をしたり新しい趣味を開拓したりと予定をひたすらに詰め込んできた。そうしなければ満たされないと思っていたからだ。



 しかしなんだこの充足感は。数日間ほとんど家から出ていないというのに、もの寂しく感じることなど一度もなかった。



(これが、父さんがいつも言ってる『人脈』の力ってことか……。まあ『脈』というより、レイ1人しかいないんだけど)



 前に両親と会ったのはちょうど半年前、俺の誕生日の頃だった。あれから考えると信じられないほど俺の生活は様変わりしている。この状況、胸を張って両親に伝えられるかもしれない。



 そんなことを考えながら迎えたお盆休み最終日。つい先ほどまで散らかっていた部屋が掃除の仕上げを経て、見違えるように綺麗になった。



「う〜ん……疲れましたわ。でも、やり切った! って感じですわ。今日のお夕飯はちょっと手を抜いて、何か頼みませんこと?」


「おお、いいね〜。俺ももうへとへとだし大賛成だ。何か適当なもの頼んでおこうか?」


「ええ、お願いしますわ。わたくし、少し休ませていただきますわね」



 そう言うとレイは部屋に戻って行った。楽だからという理由で家でも着ている学校のジャージの後ろ姿。下ろした金髪と美しいスタイルとはまるで合っていないが、もう慣れてしまった。



 さて、と呟きながらスマホの画面から緑色のアイコンを探す。レイは疲れた時は味の濃いものを食べたがるし、今日は中華でも探すか……と画面をフリックしていると、上部に通知が表示された。



 メッセージの差出人は父だった。ちょうど両親のことを思い出していた矢先にこれだから、どうも運命めいたものを感じてしまう。すぐに既読をつけるのも何だか気恥ずかしいので、先に注文を済ませることにした。



◇ ◇ ◇ ◇



 チャイムの音で目が覚める。どうやら注文を終えてすぐ、ソファで眠ってしまったらしい。硬くなった身体を跳ね起こしてインターホンを取ると、画面には配達員らしき人物が映っている。スマホの時間を見ると18:30だった。30分くらい寝ていたらしい。



 エントランスのドアを開けてからスマホを握りしめたまま、くぅ〜っと伸びをする。ああそうだ、父から連絡が来ていたんだった。そう思い出しメッセージを開くと、



『仕事の予定が空いたので、月末に母さんと帰るからよろしく』



 と表示されていた。



(ん……? 帰るって、どこにだ? ここか? 月末って……あと数日後、か?)



「うそだろーーーっ!!」



 俺が大声を出したのと玄関のチャイムが鳴ったのは、同時だった。



◇ ◇ ◇ ◇



「私はいいと思いますわ。ぜひ『お友達』として紹介あそばせ」



 両親の帰国をレイに伝えてみると、あっけらかんとした反応だった。



「いやいや、高校生の男女が一緒に住むなんてことは、この国ではなァ……それに友人と言っても、その、一応結婚式を挙げるつもりというか……」


「あら、『試練』の件でしたら、おそらく鍵になるのは『クラスの人と全員友人になること』ですわ。結婚式は形だけでも構いませんわ。……それとも、本気で」


「わーーー! 分かった、その話はもういい。とにかく! 男女が一緒に住むということはだな……」



 などと色々話してみたものの、結局悩んでいるのは俺一人だった。



(できれば『友達』としてじゃなく、『結婚相手』として紹介したい……なんて思うから悩んでるってのに)



 結婚する覚悟は決まっているのに、好きと伝えてすらいない。一緒に住んでいるのに、触れることすらできない。この摩訶不思議な状況、俺でも理解できないのに両親に理解させられるわけがない。だからこそ、せめて正式に付き合ってはおきたいのだ。



(まあ、フラれたらそれでおしまいなんだけどな……)



 その時、スマホの通知が鳴った。砂川だ。



『今度、夏祭りあるよな? あれみんなで行こうぜ』



 お盆が過ぎて落ち着いたかと思ったが、ドキドキバタバタの夏休みは最後の最後まで続いていくようだ。




⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎



 四人で行くことになった夏祭り。レイと真里愛の浴衣姿はそれはもう良くて……というのは置いといて、今日はレイに自分の気持ちを伝えたい! 頑張れ、俺!



 次回!『りんご飴は人が食べてる姿を見るのが一番美味しそう』

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