男女混合でプールに行くなんて漫画の中だけっしょ①


 駅近くでも蝉の声がやかましく響いている。緑化事業とやらで植えられた街路樹が奴らの街コン会場となっている様子を見ると、夏は恋だのと騒いでいる人間も、本質的には蝉と変わらないのかもしれないと思う。



「みんな集まっちゃってる? 今日は久々のBBQメンでプールってことで、楽しんでいこーぅ♪」



 バス停でテンションを上げている蝉、もとい間宮は真新しいサングラスをいじりながら全員が集まったことを確認した。今回は間宮と美希の発案らしく、2人がメンバーを集めてくれた。



「男子は女子の水着をジロジロ見たら罰金だからねぇ〜。特に間宮、アンタは悪質だから一回五千円!」



 美希は間宮を諌めながら、腕にはめたゴムで髪を縛る。セミロングの髪を後ろでまとめると、少し日焼けしたうなじが見えて、『夏っていいなあ』と感じてしまった。



「アイツら、ああ見えて幼なじみなんだよ。そう思うとあのやり取りも仲良いなって思えるから不思議だよな」



 砂川は俺に耳打ちした。今日も白のTシャツで爽やかさMAXだが、そんなことより俺の胸中は罪悪感でいっぱいだった。



(デートを覗き見したことはもちろん、レイのことが好きっていうのも何だか申し訳ないな……合わす顔がない)



◇ ◇ ◇ ◇



「おおー! これがプール……! とてつもなく広いですわ! それに、あの大きな滑り台……攻略しがいがありそうですわ!」



 大きな屋内プールは3つほどのエリアに分かれており、そのうちの1つには荒々しい山の形をしたウォータースライダーが鎮座していた。しかし、男子はおそらく全員が違うものを見ていた。



 美希の水着はモノトーンのキャミソール。肩が出ているというだけで彼女のアヤシイ大人っぽさが強調されている。ひらひらと揺れるスカート部分は美希が動くのに合わせてはだけたり、はだけなかったり……。



 真里愛は袖までキッチリあるTシャツタイプの水着で、いかにも彼女が選びそうなデザインだ。しかし水着特有のピチッとした感じが何はともあれ素晴らしい。



 レイは競泳選手のような七分袖のウェットスーツを着ている。紺色の水着はレイの白い肌としなやかなスタイルをより美しく魅せ、俺は思わずドキッとした。



「あっれ〜、レイちゃんの水着そっち系? 俺はこう、もうちょっと肌が……」



 と言いかけた間宮の頭はスパーンと叩かれた。頭を抱える間宮を横目に、美希は慣れた手つきでパンパンと両手を払うように打ち鳴らす。



(まあ、レイは胸元に大きめのアザがあるしな。露出度の高い水着を着るはずがない。それにしても……結構筋肉質なんだな)



「それはともかく、オレってば今日のためにこんなものを用意してきました〜!」



 圧倒的な切り替えの早さで気を取り直した間宮は何故か右腕を天に向かって突き出した。手首には3色の輪ゴムが巻かれている。



「今日はこの『運命のリング』に導かれしペアで、それぞれ分かれて遊ぶというのはどうでしょうか〜!?」



 よく見ると輪ゴムは同じ色が2本ずつ、合計6本付いている。要するに間宮はこれでペアを決めるくじ引きをやろうというわけだ。こんな合コンっぽい提案はすぐに却下されるかと思ったが、事態は意外な方向に進んでいく。



「へ、へぇ。アンタにしては面白いこと考えてきたわね〜。私は別に構わないけどぉ、みんなはどうなのかな〜」


(美希がまた頭を叩くかと思ったが……案外乗り気みたいだな。俺はどうするのがいいだろうか)



 そんなことを考えていると、肩をちょんちょんと突っつかれる。真里愛だ。



「遊くん、ここは賛成してみてもいいかもよ。上手くいけばレイちゃんと……」


「そうか、それもそうだな。間宮! 良いと思うよ、やってみようぜ!」



◇ ◇ ◇ ◇



「じゃ、30分経ったらもう一回ここに集合な! よーし、あのでっかいスライダー行こっか、レイちゃん♪」


「間宮さんと歩くのはなかなか新鮮ですわね。さあ、あの山に向かってレッツゴー、ですわ!」



 レイとペアになったのは間宮だった。2人はウォータースライダーに向かってずんずん進んで行って、あっという間に人混みに紛れて見えなくなっていった。



「じゃ、俺たちも行こうか。三田さんと2人で話すのって新しいね、楽しみ!」



 砂川は恥ずかしそうにする真里愛を気遣いながら、一番大きなメインプールの方へゆっくりと歩き出した。



「じゃ、私たちは流れるプールにでも行こっか〜。と、その前に……これ膨らませてくれる?」



 美希は折りたたんでいた浮き輪を差し出してきた。受け取ろうと目線を下げると、ついつい胸元に目が行ってしまう。俺があたふたしていると、浮き輪を渡すついでに手を握ってきた。



(美希……魔性の女すぎるだろ……!)



 俺は浮き輪に息を入れることに集中することで、何とか邪念に囚われずに済んだ。美希は俺の隣に座って膨らんで行く浮き輪を見ていたが、やがて小さな声でこう呟いた。



「ユウくんの彼女に立候補したこと、覚えてるかなぁ? ごめんね、やっぱり私、ユウくんのこと好きじゃないみたいなの」


「なっ!? いや、えっと……なんて言えばいいのかな、とりあえずちょっと、残念、かなあ、ハハハ」



 突然の告白に驚いて、意味不明な返答をしてしまう。しかし美希はあくまで冷静だった。



「そう言ってくれてありがと。でもユウくんが好きなのはレイちゃんでしょ。見てたら分かるよ?」


「え!? マジで!? なんで?」


「ふふ、こーいう時、否定から入るのは図星だったからって決まってるんだよ〜」



 どうやらハメられたらしい。つまり、確証はないけど揺さぶりをかけた結果、俺がボロを出したというわけだ。なぜその推理に到達したのか問いただそうが、美希はそんなことはどうでも良いと言うふうに話し続ける。



「私さ、好きなんだよね、間宮のこと。小さい頃からずーっと一緒で。気づいたら、どこに行ってもアイツのことが頭にチラついて。あー、好きなんだなーって」



(何てことだ、俺は今、女子からの恋愛相談を受けてるのか!? 何もできないぞ……どうすればいい?)



 俺がそんな風にテンパっていると、まるでそれを見透かすかのように



「ごめんね、こんなこと急に言われてもどうしようもないよね。ユウくん、こういうの苦手そうだもんねぇ」



 と、俺の肩をぺしぺしと叩きながら話す美希。しかし彼女の笑顔はどこからどう見ても作り物で、それを見ていると胸が苦しくなってきた。



「なあ、だったらこういうのはどうだ?」




⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎



 2回目のくじ引きで間宮と美希を引っ付ける作戦は無事成功。だが俺とレイはペアになれなかった。そして迎える3度目のペア交換。しかしその場にレイと砂川は現れず……?


 次回!『男女混合でプールに行くなんて漫画の中だけっしょ②』

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