カラオケは採点モードON、一択だ

「えー、和倉くん採点あり派なの? そんなのいいからどんどん歌おうよー! さて、初めは何を入れようかなー」



 5月16日。テストを終えた俺はレイ、三田さんとカラオケに来ていた。三田さんが「打ち上げだよー! テストの後はカラオケに決まってるでしょ!」と半ば強引に誘ったのだ。



 常に新しい遊びに興味津々のレイは即刻OK、近くにいたので俺も誘っていただいた、というわけだ。



(カラオケの採点モードはON一択だろ……まあ今度1人の時にするってことで、今日は三田さんに合わせてやるか)



 俺が3人分のジュースを持って部屋に戻ると、三田さんはマイク片手に立ち上がり熱唱していた。レイは青い瞳を丸めながらタブレットを操作している。



(三田さん、結構古い歌が好きなんだな……何となく似合うな。三田さんが最近の曲をガンガン聴いているイメージがない)



 俺がガン見していたのに気づいた三田さんはサビまでがっつり歌いきって、間奏の間に



「この曲割と古いでしょ! お父さんの影響なんだ!」



 と教えてくれた。



 一曲目が終わっても三田さんのターンは終わらなかった。まだ何曲も予約が続いている。勉強のストレスをマイクにぶつけている三田さんは一旦置いておいて、タブレットをつつき回しているレイに声を掛けた。



「レイ、これは歌いたい曲を入れるための機械なんだよ。なんか知ってる曲……って、ないよな。カラオケ楽しめないかもな、ごめん」



「いいですわ。わたくし、2人が歌っているのを見るだけでも十分に楽しいですわ。それに次来るときには何か歌えるようになっておこう、という目標もできましたもの」



 レイは熱っぽい目で三田さんを見ながらそう答えた。多分、タンバリンを渡したら喜んで叩き続けるだろう。



「私、レイちゃんが歌える曲わかるよ! 貸して貸して!」



 まだ曲の途中だったが三田さんがレイに何かゴニョゴニョ伝えて、タブレットで曲を予約した。



「割込予約にしたからすぐ始まるよ! さ、レイちゃんも立って立って!」



 始まった曲は俺も聴いたことがあった。体育の授業の時に聞こえてくる音。2人の話から察するにダンスの授業か何かで使っている曲なんだろう。



 ……洋楽か。歌詞の内容まではよく分からないが、レイは結構歌えている。透明感のある、どこまでも届きそうな美しい声。残念ながらアップテンポなこの曲にはあまり合っていない。



 分からないところは三田さんの助けを受けつつ何とか歌いきったレイ。2人とも達成感や満足感を隠しきれないといった、にこやかな表情をしていた。



「レイちゃん、上手だね! 私、こうやって友達と遊ぶの初めてだからすごく新鮮で楽しい!」



「あれ、そうなの? 三田さんいつも笑顔で優しいし、だからたくさん友達いるだろうしよく誘われるのかと思ってた」



「あー、実は私ちょっと、学校に行けてない時期があって……友達とは疎遠になってたんだ。だからね! 今年は日ノ本ラストイヤーだし、クラスのみんなと仲良くしたいなと思って!」



(そうか、三田さんも俺と同じで孤独だったんだな……)



 恥ずかしさのせいか、顔を赤らめ俯きがちに話す三田さんを見て、俺は申し訳ない気持ちになった。



「マリアさん、貴方は素敵な人ですわ。お友達、必ずすぐに増えますわ。私が断言いたします。さ、飲み物のお代わりを取ってきますわね」



 そう言ってレイは三田さんの肩をトントン叩いて励ました後、コップを3つ持って部屋を出た。三田さんはまだ耳まで赤く染めて俯いている。



「あ、あとね、和倉くんに、お願いが……」



「ん? 何か困ってることがあったら言って! 俺いつも三田さんに学級委員の仕事任せてばっかりだから……」



「その、『三田さん』っていうの、やめにして……し、下の名前で呼んでくれる? レイちゃんとか美希ちゃんみたいに……」



 三田さんの顔はもう赤くなれないようで、今度は肩から震え出した。俺はそれを見て……。



◇ ◇ ◇ ◇



「ついにテスト全部返ってきたね。真里愛、勉強の成果は出てたか?」



 水曜に終わったテストは金曜の昼には全て手元に戻ってきた。俺たちいつメンはこれまたいつも通り中庭の木陰で駄弁っていた。



「うう、あんなにやったけど数学だけは平均に届かなかったよ……2人ともありがとう。私の勉強に付き合ってくれて」



「私の方こそ、マリアさんと勉強するのはとても楽しかったですわ。テストとは関係ないことでも、マリアさんから色々と教えていただきましたし」



 真里愛はがっくり、と聞こえそうな程に肩を落とし、レイは落とした両肩をがっしりと掴んでいる。



「でも遊くんはすごいよね。また90点超えばっかりだったもん!」



「いや、多分これじゃ学年一位は難しいだろうな。今回は俺も身の回りで色々あって勉強に身が入らなくてさ」



 真里愛が「私の立場ないじゃん!」とポカポカ俺の背中を叩いていると、昼休み終了のチャイムが鳴った。レイが先に歩き始めたのを見計らって、



「こないだのカラオケは、ごめん。その、急に抱きしめたりして」



 と謝った。真里愛も小さな声で、



「いやいや! 私こそ変なこと言ってごめんね。でも……ったけど……」



 と返事した。最後の方は声が小さすぎてほとんど聞き取れなかったが、レイと離れすぎまいと早足で追いついたのでそれ以上は聞けなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



「じゃ、テストも終わったし体育祭のメンバー決めするぞー! 勉強も大事だが、青春も大事! どうせやるなら勝とうぜお前たちー!」



 大川の号令に真里愛や楓馬などが反応する。始まったばかりの頃とはクラスの雰囲気が変わってきている。



 俺と真里愛が黒板に競技の名前を書き出していく。我が校の体育祭は1日目が球技、2日目が陸上競技に分かれており、この二日間はガッツリ運動漬けとなる。



「よし、じゃあ席立っていいからどれに出たいか話し合ってみろ。楽するんじゃなくて、勝つつもりで競技を選べよ! ただ部活入ってる奴は、それ以外の競技を選ぶんだぞー」



 大川の指示でクラスがざわめき出す。俺とレイは事前に示し合わせておいたとおり、男女混合バレーボールにエントリー。これなら人数を集めて練習する中で友情が芽生えやすい、と考えたからだ。俺たちが入るのを見て真里愛もバレーを希望した。そしてそこに、意外な人物が声を掛けてきた。



「ねえ貴方たち。私もバレーボールに入れてくれるかしら。『アイツ』もバレーに出るらしいの。私、バレーなら出来るから」



 宮永さんだった。相変わらず、というかいつもよりさらに冷たい目をしている気がする。それでいてどこか闘志、いや、憎しみすら感じる凄みがある。



「もちろんですわ。私たち、勝ちを目指して自主練もしていくつもりですの。どなたか勝ちたい相手がいらっしゃるなら、力を合わせて頑張りましょう」



「あー、んじゃ楓馬にも声掛けるか。あいつ運動神経良さそうだし、もう1人運動できる男子連れてきてくれそうだし」



 そうしてトントン拍子に話が進もうとしていたが、そこへ割り込んできたのは金森だった。



「おいゴリ、またお前『運動できないヨー』って足引っ張るんじゃねえだろうな? そんなことしたら承知しねえぞ。最後の体育祭なんだからな」



(……うんざりだ。とりあえず無視しながら大川のいる方に近づけば)



 と、移動しようとした瞬間にガッと肩を掴まれる。金森の大きな顔が後ろから耳元に近づいてきて、



「賭けようぜ。お前がもしクラスに貢献しなかったら、『ゴリ押し入学で皆さんに迷惑かけてごめんなさい』って土下座する、ってのはどうだ。俺が負けたら何でも言うこと聞いてやるよ」



 と鼻息荒く言われた。どうでもいい、と断ろうと振り返った時には前と同じ。レイが金森の腕を掴んでいた。



「まだくだらないことを考えておりますのね。いいですわ。ユウの活躍、その節穴の目でとくとご覧なさい!」



⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎


5月19日 金曜日


 今日はテストが返ってきた。転生のときに言葉は完璧にしてもらったから英語や古文、漢文はほぼ90点、他の教科も70点くらいだった。先生いわく、結構いい成績らしい。ユウの方がもっとすごいんだけどね。


 あと、7月には体育祭があるからそれに向けてチームを作っていたら、金森さんがまたユウに絡んできていた。ユウの力がご両親の力ではないってこと、思い知らせてやらないと!




⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎



 

 放課後も残ってバレーボールの練習をしていると、クラスメイトの中居と西田がコーチを申し出てくれる。いやでも、バレー部のサーブを半袖で受け止めるのは痛いって!


 次回!『半袖でレシーブしたら痛いのは当然だ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る