体育祭で勝利せよ!

テストなんて授業をマジメに受けていれば楽勝だ

「遊、おはよ。昨日はありがと、楽しかったよ!」



 朝の教室、俺の席に近づいて来たのは砂川だった。誰かが話しかけてくるなんてことは入学した頃から一度もなかったので、驚いて



「あ、ありがとう! じゃなくておはよ、えーっと、楓馬」



 と、ぐちゃぐちゃの日本語で返事をした。楓馬は笑いながら自分の座席に向かって歩いて行った。



(そういえば、楓馬とはもう友達ってことでいいんだろうか)



 と疑問に思った瞬間、頭の中に文字列が浮かんできた。



『4月23日 砂川 楓馬と友達になりました

 4月23日 間宮 匠と友達になりました』



 まるでスマホの通知のように表示された文。どうやら砂川とオマケに間宮まで友達認定されているらしい。俺はスマホをスワイプするように通知を遡る様子を思い描く。



『4月23日 菊田 美希と友達でなくなりました』



(な……マジかよ。いつの間に友達になってたんだ。いやいや、それより何で友達じゃなくなったんだよ!? 俺……何かしたか?)



 変な汗が出てくる。通知の日付から察するにバーベキューで何かあったのは間違いない。記憶をたどってみるが思い当たる節はない。頭をわしゃわしゃと掻いているとチャイムが鳴り、俺の思考は中断された。



「はい、今廊下にいる奴アウトー。おーい、もう走っても無駄だからやめろ、怪我するだけだぞー。」



 大川は今日も廊下を走る連中を一刀両断してから教室に入ってきた。



「おーす。今週がんばりゃゴールデンウィークだぞ、お前ら。良いねえ休みは! ああでも受験生になった奴には休みなんてないか! さあてテスト範囲配るぞー。3年だから早めに配ろうって会議で決まったんだ、期待に応えて勉強しろよー」



 大川はガハハと笑いながらプリントを配る。ガタイの良い強そうな男が手元のプリントをちまちま数える姿を見ると何ともいえない気持ちになる。これがギャップ萌えだとしたら、大川にそれを感じたくはなかった。



「ユウ、そのテストというのは何ですの? ジュケンセイ、というものにお休みはありませんの?」



 レイはもらったプリントをひらひらさせながら質問してきた。



(そうか、異世界から来るって大変だよな。コイツも進路とか考えんのかな……じゃなくて、俺が頑張らないと『進路』なんてものないのか、レイには……)



 俺が黙り込んでいたので、レイが「おーい、聞いてる?」と言いたげな丸い目で顔を覗き込んできた。トレードマークなのか、今日も縦ロールはふわんと揺れていい匂いの風を運んでくる。



「ああ、テストってのは授業の内容を確認する時間のことだ。受験生っていうのは……未来がかかってる人、みたいな?」



 レイはこくんこくんと頷いて聞いていたが、最後の言葉を聞いて目の色が変わった。



「そう……未来がかかってる、皆さんわたくしと同じ境遇でいらしたのね。私自身、この生まれを呪ったこともありましたけれど……この世界では皆さん同じものを背負っていたなんて、存じ上げませんでしたわ」



「あ、いやそれはそういう意味じゃなくてさ。……ごめん、俺の言い方が悪かった。受験生ってのは……」



◇ ◇ ◇ ◇



 昼休み。俺とレイと三田さんは少し暑くなってきた真昼の日差しを避け、中庭の木陰でテストについて話していた。



「ええー! レイちゃんそんなに勉強できるの!? 私なんて全然だよ……和倉くんと同じ試験に受かってるはずなのになあ。どこでこんなに差がついたのかなあ」



「いやいや三田さん、テストなんて日頃の授業の積み重ねだよ? 真面目に受けてれば別に苦戦することは……」



「それは頭いい人の理屈でしょ!」



 ……キレられてしまった。俺は自分の思うことを言っているだけだ。自分の領分を否定されたような気持ちになる。



(でも、不思議とそこまで嫌じゃないな。これが、人と関わる、誰かと友達になる、ってことなのかもしれない)



「あーあ、誰か勉強教えてくれたら困らないのになあ」



 三田さんの呟きが、俺の脳内に電撃を走らせる。



「そうか、そうだ三田さんその手があった! 勉強会しよう、俺の家で! クラスの奴らも誘ってさ、そうすればみんなの仲も深まるんじゃないか!?」



 これなら三田さんの機嫌も取り戻せるし、レイに対しての面目も保てる。俺……冴えてるな!



「えー、言われてみればそうかも! 和倉くん学年一位だもんね! やろやろ! 誰に声かけたら来てくれそうかな〜」



 三田さんはぷっくりとした唇を緩ませ微笑んでいる。レイは俺にだけ分かるように小さくガッツポーズを見せた。2人とも別ベクトルの可愛さがあって非常によろしい。



「あら、面白そうな話をしているのね。良ければ私にも聞かせてくれる?」



 声をした方を振り向くと風でなびくロングの黒髪が揺れている。そこには胸の前に教科書やノート、筆記用具を抱いた宮永みやなが 月香つきかがどこか冷たい目をしてこちらを見ていた。



「学年一位の貴方がどんな風に勉強しているのか気になるわ。お邪魔でなければ参加してもいいかしら? それとも貴方は同じクラスの学年二位のことなんて覚えてないかしら」



(……宮永月香。眼鏡の似合うクールビューティーで常に学年二位をキープする才女。そして俺と同じく孤高、もとい、ぼっち)



「いや、覚えてるに決まってるよ。宮永さん。俺としても話したことない人と話せるのは嬉しいし、頭いい宮永さんならむしろ大歓迎だだよ」



 よろしく、というつもりで彼女の前に右手を差し出す。しかし宮永さんは肩をビクッと震わせて



「な、馴れ合いたいわけじゃないから! 日付とか時間とか、決まったら連絡しなさい! そ、それじゃ!」



 と言うが早いか、きょろきょろ周りを見ながら校舎の方へ駆け出し、あっという間にいなくなってしまった。



「ふふ、面白い方ですわね、ミヤナガさん。お勉強会も楽しみですわ」



 レイはふふっと声を出して笑った。今までで一番楽しそうな笑顔に見えた。



◇ ◇ ◇ ◇



「さて、とりあえず部屋を片付けないといけないわけだが……」



 ざっとリビングを見渡す。ソファーには二つのクッション。ゲーム機には二つのコントローラー。肌寒い時に使うブランケット、二つ。キッチンを振り向くと洗って立てかけられたコップが二つ……。



「これは……。俺、やらかしたかも……?」





⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎


4月24日 月曜日


 今日はとても嬉しいことがあった! ユウが『勉強会』というものを提案してくれたこと。内容はよく分からないけど、友達作りに役立ちそうな感じはした。やっぱりユウは頼りになる!


 でも家に帰ってからやたらと『2人で暮らしてるのがバレるようなことを言うなよ』と念押しされた。私のいた世界では16歳で結婚もよくある話だったので、ちょっと違和感。まあ家主の言うことは聞いておかないと、ね。




⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎



 

 何やら報道関係者や野次馬が学校そばに詰めかけている。どうやら今日はあの現役アイドル『星川 空』が登校してくるらしい。って待てよ、俺と同じクラスじゃないか……?


 次回!『アイドルは、会えないからこそアイドルなのだ』

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