ツカサ隊長
「この子が……ハンター?」
ハヤトは身構えた。もしそうなら大変なことになる。
「待って! 早とちりしないで頂戴」
メディは慌てたように立ち上がった。
「今は分かっているのはあくまでも彼女が【未確認】だということだけよ。ハンターだと決めつけることはできないわ」
「でも……」
「落ち着きなさい」
立ち上がりかけたハヤトをメディは落ち着かせる。
「もしこの子がハンターだとしたら今頃ここはハンターたちに襲撃されているわ。もし仮にこの子がハンターだとしてもこの状況を見る限り何らかのトラブルが発生している可能性が高い」
あくまでも冷静にメディは告げる。
「メディ……この事は隊長には……」
「まだ、報告していないわ。これはデリケートな問題よ。下手に報告したらあの男は何をしでかすか……」
メディがこめかみに手を当てる。
(いろいろ苦労しているんだな……)
ハヤトは盛大にため息をつくメディを見つめる。
「他人事じゃないわよ。あの男の事だから下手をすれば今頃……」
「今頃……何ですか?」
「隊長!」
唐突にかけられた声にメディが声を上げた。
ハヤトたちが振り返るとそこには眼鏡をかけた黒髪の優男が立っていた。
「医務室に勝手に入らないで下さい!」
眉を吊り上げて怒る彼女にツカサ隊長は「まあまあカタイこと言わないで」と軽く受け流す。
「隊長がそんなんだから隊員がゆるゆるなんですよ!」
「俺たちゆるゆるだってよ」
「そこ、うるさい!」
冗談っぽく言ったコウヤをメディは睨みつけた。
「へぇ、CTスキャンに映らない女の子ですかぁ」
ツカサは目配せする。それに合わせるかのように銃を持った男たちが医務室へとなだれ込んできた。
「隊長これはいったい……」
ただならない気配にハヤトは立ち上がった。
「危険な芽はね……早めに潰さないといけないんですよ」
にこやかな声音だが、目は全く笑っていなかった。
ツカサ――ツカサファミリーを代表する男だ。隊員数は二〇名程だがその隊員の練度は半端なく、また死亡率、離隊率も低い。また、入隊希望者は常にあるがそれは狭き門であり、ツカサファミリーにいるというだけで他のフリーメンたちからも一目置かれる存在だった。
それ故に――
ツカサ隊長の言いたいことは十分に理解できた。
もし、この少女が【危険】だと判断されれば【処分】の対象になるのは当然だった。
「この子は私の患者です!」
メディが男たちと少女の間に割って入る。
「メディさん……あなたの意見は尊重しますが、今は非常事態なんです」
メディを押しのけようとする男たちを手で制してツカサは感情の感じられない声で淡々と言う。
「おい、ハヤト……」
コウヤが肘でハヤトをつついた。
ハヤトは動くことができなかった。
どちらの言い分もわかる。ムカデの様子から彼女が攫われたことは推測ができた。しかし、それがハヤトたちフリーメンを陥れるための罠の可能性も否定できない。
しかし――
「おや、ハヤト君どうしたんですか?」
ゆっくりとメディの隣に立つハヤトを見、ツカサがにやりと笑った。
「この子は俺が見つけた」
「それで?」
「すべての責任は俺にある」
「だから?」
「だから……もし何かあった時は俺が責任を取る!」
「今は不確定ですが……もし彼女がハンターだった場合はどうするんです?」
面白いものを見るような目でツカサが問いかける。
「その時は……」
ハヤトは考え込む。
(その時、俺は……)
「ハヤト」
コウヤが声をかける。見ると彼は黙って頷いた。
ハヤトは決心した。
「もし彼女が――俺たちにとっての脅威になるのなら、俺が責任をもってこの子を【処分】する!」
ハヤトとツカサは睨み合う。
睨み合うことしばし――先に声を上げたのはツカサだった。
「ふむ……いいでしょう」
「え?」
「それでは、ハヤト君の責任において、彼女の面倒は彼が見るということで!」
「えっ……それってどういう……」
意味が理解できない。良くて少女と一緒に除隊させられるのではと覚悟していただけにツカサの判断には拍子抜けしてしまった。
「いいかい。君は彼女の保護者だ!」
「う……えっ!? 保護者?」
いきなりにしては話が飛躍しすぎだ。
「しっかりと君が面倒を見なさい!」
ウインク一つしてツカサ。
「返事は?
「は、はい! 分かりました!」
ハヤトは元気に応える。コウヤは安堵したように息を吐き、チハヤとメディは小さくガッツポーズをとっていた。
「若いっていいねぇ、じゃあ解散」と高らかに宣言するツカサ。
なんだか論点がズラされてしまった感があるがとりあえずは無事に切り抜けたらしい。
「それと、そこの二人は報告書の再提出!」
「「げっ!!」」
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