巣穴の医務室

 巣穴はあちこちにある。

 巨大な巣穴は作らない。

 フリーメンの集団【ファミリー】ごとに手頃な土地を見つけてそこの地下に巣穴を作るのだ。

 巣穴の建設は簡単だ。

 工作機械と手ごろな資材さえあれば約一日で三〇人ほどのファミリーが生活できる空間を造り上げることができる。

 ハヤトたちは【ツカサファミリー】に所属していた。人数は二〇人程と他のファミリーに比べて少ないが、団結力と情報の収集能力にかけては他のファミリーの追従を許さない。この「サツマ」の地においてツカサファミリーを知らない者はいないほどだった。

 巣穴の構造は簡単だ。

 まずはメインの通路がありここは四~五人が並んで歩けるほどに広い。

 その通路の左右に武器倉庫、食料倉庫、食堂、医務室、各隊員の寝床(各部屋は四人部屋、男女別)、トイレ・シャワー室、隊長たちのいる執務室がある。それぞれの部屋にはきちんと扉が設置されていた。


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


「これは可愛いお姫様だねぇ」


 ハヤトの連れてきた女の子を見るなりメディが口笛を吹いた。

 闇夜のような黒髪、透き通るような白い肌。

 整った顔立ちはまるで人形のようだった。

 メディは女の子を抱き上げると検査機に横たわらせる。


「ほら、男どもは出ていきな!」


 シッシ! と手を振りハヤトたちを追い払う。


「じゃあ、私も……」

「チハヤは残って、この子を動かす時に手伝ってちょうだい」

「へーい」


 女の子を二人に任せ、ハヤトとコウヤは医務室から出る。

 今回の襲撃の報告書を書いたりとあわただしくしているうちに気がつけば時間は夕刻になっていた。

 ハヤトとコウヤはチハヤに呼ばれ医務室へと向かう。


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 医務室に入るとすぐにチハヤがドアのカギを締めた。

 目の前にはメディが座っている。その表情は険しく状況がただならないことを示していた。


「二人ともこの子をどこで回収したんだい?」

「それはさっき説明して……」

「いいや、確かコウヤが狙撃する前……ハヤトはこの子を目撃しているはずだ」

「ああ……この子が空から降ってきたって話だろ……あんなの鳥か何かを見間違って……」

「コウヤ、私はハヤトに聞いている」


 メディの剣幕にコウヤは口をつぐんだ。

 ハヤトは事の経緯をメディに説明した。

 彼女が突然に空に出現したこと。

 稲妻が走りムカデ型のハンターを攻撃したこと。

 一通りの報告をメディは黙って聞いていた。

 チハヤも目を見開いてハヤトの報告を聞いている。 


「まさかとは思うが……実はハンターってことはないよな?」


 情報では人型のハンターが出たという情報が入っている。

 まだ不確定な情報ばかりで信ぴょう性はないが、噂では見た目が人間と区別のつかないハンターもいるらしいということだ。


「それはな……この子は人間よ……おそらく……」

「多おそらく?」


 メディの答えははっきりしているようであいまいだった。


「ええ、脈拍、心音、瞳孔……これらは確認することができるの。でも……」


 メディがディスプレイを操作した。

 それはCTスキャンの映像――おそらくは女の子のものと思われる――が映し出されていた。

 この時代、医療機器はかなり高価だ。しかもそれを使える医師はさらに少ない。


「これは……?」


 ハヤトが目を大きく見開く。

 そこには女の子の影が映っていた。


「そう……信じられないことなんだけど……」

「女の子の……影?」


 そのディスプレイには女の子の影だけしか映っていなかった。


「彼女の身体は……X線を通さないのよ。それどころかあらゆる検査結果が彼女を【未確認】としている……」


 メディはハヤトたちを見据える。


「この子はハンターかもしれないわ」

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