巣穴

 ハヤトは女の子を背負ったままコウヤと合流、その後朽ちたビル群へと向かう。

 ここはかつてショッピングモールが立ち並び多くに人たちが生活していた――という記録が残っている場所だ。

 ビルの間を抜けカモフラージュしている入口から地下へと入る。かつては列車が通っていたであろう線路を進み、途中整備用の通路へと入った。

 その途中、制御盤と思しきふたを開けると景色は一変する。

 明るい光と喧騒があふれる。

 制御盤のふたは入り口だったのだ。狭い入口をくぐりハヤトたちは中に入った。


「ハヤト! それにコウヤもおかえり!」


 栗色の髪の少女が元気に声をかけてくる。


「よう、チハヤ」


 ハヤトはチハヤに軽く挨拶する。


「ムカデを仕留めたんだって?」

「ああ、俺の狙撃で一発だったぜ!」


 チハヤに自慢げに語るコウヤ。

 あの後、ハヤトたちは仲間にムカデ撃退の報告をしていた。ハンターの機体は貴重な資源だ。装甲から使用されている電子機器、エネルギーの蓄電池に至るまで無駄な物は一つもない。


「ふん、お前たちにしては上出来じゃないか」


 チハヤの後ろにいた男が嫌味な声を上げた。


「クロウそんな言い方ないでしょ!」


 クロウはワザとらしくチハヤの肩に手をかけると見下すようにハヤトを睨みつける。


「ハンターは俺たちで回収させてもらう」

「クロウてめぇ!」

「コウヤよせ!」


 掴みかかろうとするコウヤをハヤトが止めた。

 クロウは何かにつけてハヤトにつっかっかる傾向があった。

 今回のハンター撃破の報告はハヤトたちの実績として記録されている。その後の回収作業は誰が行くかなどハヤトたちに決められるはずもない。

 それが偶然にせよクロウたちが回収の役になったというだけの話だ。別段腹を立てることでもないとハヤトは無視することにした。ハンターの素材は基本的には巣穴の共同財産となる。しかし、回収の時にそのいくつかをくすねる者は多い。貴重な電子部品などそれだけで売ればかなりの金額になるからだ。

 そんなことは誰でも知っている。ハヤトたちも貴重な素材に関してはすでに回収を済ませていた。


「ふん!」


 ハヤトとコウヤと睨みつけていたクロウの目がハヤトの背中に留まる。


「ハヤト、その子供は誰だ?」

「ハンターに捕獲された子供だ」

「ハンターに捕獲されただと?」

「ああ、今回の俺たちが仕留めた獲物の腹の中にいた」

「何、奴らに捕まっていたのか? どこで?」


 捕虜の情報はなかなかに得難い。捕獲されてなお生還した者が少ないからだ。クロウたちにとっても貴重な情報源だった。


「おい、その子供こっちによこせ!」

「待て、まずは検査が先だ!」


 クロウが手を伸ばす。その手を払いのけハヤトが一歩下がった。

 

「何をっ!」


 クロウはハヤトを睨みつける。


「クロウ小さな女の子に手を出そうとするなんて……サイテー」

「うぐっ!」


 さすがのクロウもチハヤには口では勝てなかった。


 「と、とにかく何か情報があったら俺によこせ! いいな!」


 吐き捨てるように言い放ち、足早にその場を立ち去る。


「ちっ、あいつらオレたちの獲物を!」


 コウヤは憎々しげに呟く。


「まぁ、今回はしょうがないさ」


 ハヤトは苦笑しながら背中に背負っている者を再度背負いなおす。


「ねぇ、さっきから気になってたんだけど、その子は……?」

「ああ、捕まっていた子だ。今からメディのところに連れて行くんだ」


 メディはこの巣穴の医者だ。とにかく怪我や病気がないかチェックしてもらう必要があった。


「ふうん」


 チハヤはハヤトの顔を覗き込んだ。


「可愛い女の子だね!」


 肘でハヤトをつつく。


「な、なんだよ」

「いいや、ハヤトが女の子を連れ込むとか……」

「変な言い方するな!」

「それにしても、綺麗な黒髪だねぇ」

「黒髪?」


 ハヤトは首を傾げた。


「本当だ……黒髪になってる」


 コウヤが驚いた声を上げた。女の子は日焼けを避けるために布にくるんで運んできた。なので髪の色が変わっていることに気づかかった。

 背負っているハヤトからはよく見えないが、どうやら女の子は黒髪になっているらしかった。


「とのかく、メディに診てもらおう」


 ハヤトたちは医務室へと向かっていった。

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