第20話 剣を極めし者(2)
弱点がないなら作ってしまえばいい。
そんなラーティの言葉に、俺は首を捻った。
「具体的にどうやんの?」
「それはどうぞご観覧ください」
ラーティはにっこり笑顔を見せ、前に向き直る。
「先ほどお見せいただきましたが、セリム様の剣は少々傷んでおりますよね」
「む? そうだな」
「いかに剣を選ぶ必要がないとは言っても、なまくらよりは名剣の方が有利。それについて異論はございますか?」
「いや。否定はしない。ラーティ殿の話はもっともだ」
「でしたら一つ、わたくしが贈り物をしましょう」
「贈り物?」
「ええ、きっとお気に召すと思います」
ラーティは優雅な所作で席を立ち、聖杖を構えた。
「我らが守護神アルデム様。今一度異界の扉を開き、この者に敵を討つ武具をお与えください――サモンゲート!」
俺達しかいない食堂に光が満ちた。
虚空より現れたのは、紫の刀身に肉塊でも埋め込んだかのような柄の、見るからに禍々しい剣だ。
「これは……呪いの品か?」
「ご明察です」
ラーティは神妙な面持ちでうなずく。
「こちらは氷の魔剣スラヴィール――かつて我が国を襲った古の魔王が持っていたといういわくつきの品で、切れ味と負傷を倍加する呪いが込められております」
「切れ味はわかるが、負傷も倍加とは?」
「攻撃を受けた際、敵から負う傷も増えるという事です。まさに命を削って戦う魔剣ですが、剣を選ばないというのであればこちらも使いこなせるのではないでしょうか」
「ふむ……」
魔剣を受け取り、セリムは軽く二、三度刃を振るう。まるで棒切れでも振っているかのような重さを感じさせない剣速だ。
「確かに何か得体の知れない力を感じる。それに握り心地も悪くはない。魔剣の名に違わぬ一振りである事は疑う余地もないだろう」
「お気に召しましたか?」
「ああ。負傷が倍加との事だが、切れ味も倍加というのは素晴らしい」
楽しげに魔剣を眺めるセリム。
なるほど、呪いの魔剣を渡して弱点とする作戦か。結構えげつない手段を使うな。こいつ本当に聖女か?
「して、ラーティ殿。これをお借りしても?」
「貸すのではなく、差し上げます。聖アルデム教団所蔵の品ですが、正直持て余していたようですので」
「ふむ……。そういう事であればありがたく頂戴しよう」
セリムは嬉しそうに魔剣を撫でている。どうやらいたく気に入ったようだ。
「なぁラーティ、いくら呪いの武器だからって、あんなすごい剣を渡して良かったのか?」
「ええ。あれは勇者にとっての聖剣のようなもの、魔王デイザールが持つと秘めたる力を発揮するおぞましき魔剣ですから。もしも奪われれば大変な危機が訪れます」
「厄介払いも兼ねてるのか」
「ええ。それにあの魔剣には一つ仕掛けがあります」
「仕掛け?」
「あの魔剣は元々異世界から召喚されたもの。すなわち異世界へ還す事も可能なのです。もし戦いの中で武器を失ったら……どうなるでしょうね?」
「おい、まさか……!?」
「そのまさか、です」
つまり、いざという時に魔剣を消し去る事で、剣技を使えなくしてしまおうってわけだ。まさしく腹黒。聖女様のやる事じゃねぇな!
でもこれでラーティは剣聖に首輪をかけたも同然。イニシアティブを取れたのは心強い。
そうとは知らずに、セリムは流れるような動きで鞘に収めた。
「素晴らしい剣をいただいて嬉しいよ。別に素手でも剣技は使えるが、これなら邪帝王ドロメアとも渡り合えるだろう」
その瞬間、ラーティが石化した。
油の切れたロボットのように首をギシギシと傾ける。
「す、素手でも剣技を使えるのですか……?」
「そういえば言っていなかったかな? 剣がないと戦えないようでは剣聖を名乗る事などできないからね」
「いやその理屈はおかしくねぇ!?」
「ははは!」
楽しげに笑うセリムに、俺達の表情が暗く沈む。
「もうこれ無理だろ。剣聖側に付いた方が良くない?」
「でもそれは邪帝王の力を判断してからでないと……」
ひそひそラーティと内緒話をする。
どちらに付くかはさておくとして、考えるべき事は他にたくさんある。
今はやれる事からやっていくしかない。
「じゃあ……自己紹介も終わったし、乾杯でもすっか……」
「そうだな! では新たな仲間と共に、乾杯!」
木彫りの器をぶつけ合う。中身は水だけどな。
そうして俺達は
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