第4話 邪帝王ドロメア
おいおいおいおい、いきなりラスボス様のご登場じゃねーか!?
あまりの急展開に俺はうろたえていた。
だってそうだろ? レベル1で攻撃手段が杖で殴るしかないのに、ラストバトルに放り込まれたらどうすりゃいいんだよ。低レベルクリアのやり込みプレイをやってんじゃないんだぞ!?
しかし聖女であるラーティはそうではないようだった。
「あなたがこの国を滅ぼした者ですか?」
「いかにも。できれば勇者召喚が行われる前に滅ぼしたかったところだがな。まぁ、今からでも遅くはないであろうが」
邪帝王がぬめった口元を開き――猛然と口から火を噴いた。
青白く燃え盛る豪炎が俺達を包むが、ラーティの結界はそれすら阻んでいる。
「あなたのような者にこの結界を破る事はできませんよ」
ラーティは毅然とした態度で邪帝王を睨み返す。
俺は完全に空気と化していた。
「なるほど、確かにこれは厄介な結界のようだ。我が配下どもでは到底破れぬであろう」
「当然です。我らが守護神アルデム様のご加護なのですから」
「ほう、異世界の神か。実に興味深い」
邪帝王はクツクツと笑う。
それ以上手を出して来ないのを見ると、どうやら邪帝王自身も今すぐ結界をどうこうできるわけではなさそうだ。
でもそうなると膠着状態になってしまう。こっちも杖で殴る以外に攻撃手段がないからな。
「……邪帝王ドロメアと言いましたね。お聞きしてもいいですか?」
「ふむ、まぁよかろう」
「あなたはこの世界をどうするつもりです?」
「知れた事。人間どもを倒し、我らの棲みよい世界に作りかえるのだ」
「和解の道はないのですか?」
「無論あるとも。人間が我らの家畜となる道がな。ちなみに汝らも同じ運命であるぞ、はっはっは!」
「……」
ラーティが目を細めて睨む。
「どうした、我に怒りでも覚えたか? だが汝らに我を倒す術はない。憐れなものよ」
「それはあなたも同じはず。結界の中にいる限りわたくし達を倒す術はないのでしょう?」
「何を言うかと思えば、浅はかな小娘よな。結界の外に出られないのであれば、我が何をせずとも飢えて死ぬであろう」
「いえいえ、アルデム様の奇跡を甘く見てもらっては困ります」
ラーティは勝ち気な笑みを浮かべた。
「我らが守護神アルデム様。今一度異界の扉を開き、我らの欲するものをお与えください――サモンゲート!」
その途端ラーティの聖杖が光り輝き、目の前に丸い形を作った。
出てきたのは拳大くらいのサイズで、十字のクープが入れられた小麦色の物体だ。
「パンが出た!?」
「わたくしが元いた世界より食糧を召喚致しました。さ、お召し上がりください。イサム様」
「え? ゾンビだらけの中で飯食うの……?」
「まぁそう仰らずに」
焼きたての香ばしい匂いがするパンを渡され、仕方なく一口かじってみる。
あ、これうまいわ。コンビニとかで売ってる量産のパンじゃなく、パン職人が石窯で焼いたようなずっしり系の全粒粉パンって感じだ。
「いかがですか?」
「うん、うまい。今まで食ったパンの中でも一、二を争ううまさだな」
「教皇様がお召し上がりになられているパンですからね。お望みでしたら他のものも出せますよ」
ほいほいっと聖杖を振り、ラーティは肉のソテーや串焼き、唐揚げに肉団子などを出していく。
「肉ばっかだな。出すのはいいけど、教皇様とやらの分がなくならない?」
「ジジ……教皇様は少しお痩せになられた方がいいのです」
「今ジジイって言おうとしなかった?」
「言ってません♪」
にっこり微笑むラーティだった。
「むぅぅ……なんと厄介な小娘よ」
邪帝王のタコ面が忌々しげに歪む。
とはいえ膠着状態が長引けば不利になるのは俺達だ。トイレだってないし、風呂にも入れない。
それにゾンビやら骸骨やらに囲まれ、王様や魔法使いの爺さん達の亡骸と共に長期間生活するのはさすがにストレスで死ねる。
何より俺は受験生なのだ。こんなところでいつまでも油を売るわけにはいかない!
俺は思い切って交渉する事にした。
「あの……邪帝王さん?」
「なんだ、勇者よ?」
「ものは相談なんですが、あなたの力で俺達を元の世界へ戻す事ってできませんか?」
「イサム様!?」
「いや、だってこのままじゃお互い困るだろ。あんたは魔王を倒さないといけないし、俺も受験あるし。邪帝王さんだって俺達がいない方が世界征服も捗るでしょ?」
「……」
邪帝王は思案するように細長い触手の指であごを撫でる。
「不可能ではない、と言ったらどうするのだ?」
「俺達がその協力をしますよ。だから戦うのはやめにしましょう」
「なるほど、面白い事を考える。だが汝には何の力もないように見えるぞ。一体何の協力をするというのだ?」
「う~ん……情報収集とか?」
「イサム様、滅亡寸前の人間達を相手に情報収集など意味あるのですか?」
「交渉中にそういう事言わないでくんない!?」
ちらりと空中の穴へ目を向けるが、邪帝王は別段気にした様子もなさそうだった。
「ふぅむ……それならば一つ取引をしてもよいぞ」
「取引?」
邪帝王は醜悪なその顔を歪めて笑った。
「この世界には、勇者に匹敵すると言われる剣聖の称号を持つ者が一人いる。そやつを抹殺するのであれば手を組むのもやぶさかではない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます